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73. 魔法使いでない証明

 取り敢えず、レオンとローリーのご家族と会ってみよう――――

 

 そう思ったフェリシテは、急遽2人を連れ、屋敷の馬車でエインワースの町へ向かった。

 幸い二人とも比較的ご近所なので、今日一日で2軒の家を回れるはずだ。

 それと今回の騒動の中心になったジェシカも一緒だ。

 まず、メリッサが本当に元気になったか確認しなければ始まらない。


 使用人達に盛大に見送られたフェリシテは、どうやって"魔法使い"と言うご大層な称号を返上できるか頭を悩ませた。

 メリッサが元気になったのが、ジェシカの希望的観測で、他人から見たらそうでもない事もあり得る……

 ――そう思っていたのだが



「わあ、フェリさんだ!」

「フェリさん、どうやってメリッサお姉ちゃんを治したの⁈実はお医者さんなの⁈」


 ジェシカの家へ行ったとたん、ちびっ子たちに大歓迎を受けて、フェリシテはおののいた。おまけに、メリッサが、ふらつきながらも兄弟と揃って出迎えてくれて衝撃を受ける。


 つい先日は熱を出し、弱々しく寝込んでいたのを目にしていたフェリシテは、確かに回復の兆しが見えるメリッサの状態に驚いた。


「フェリさん、お会いしたかったです……!フェリさんが作って下さったピクルスやビネガーを食べたら体が楽になって、起き上がれるようになりました。本当にありがとうございます……!」


 お礼を言われるが、元気になった理由が分からなくて困ってしまう。

 フェリシテは、まず何故回復したのかを調べようとメリッサに話し掛けた。


「お元気になって良かったです。ただ、私が作ったものは普通のビネガー漬けで、薬ではないんですよ。お医者様の薬が効いたのではないでしょうか?」


 冷静に質問すると、「いいえ」とメリッサは少し考えてから言った。


「ピクルスとビネガーを食べたら、2時間位してスッと体が楽になったんです。熱は下がるし、咳や心臓が苦しいのも収まって……こんなに楽になったのは久しぶりです。お薬はここ10日くらい飲んでましたけど、息苦しいのが少し楽になるくらいだったので、違うと思います」

「言った通りでしょう?本当に元気になったんですよ!」


 ジェシカが満面の笑顔で言い、一緒について来ていたレオンとローリーの顔が期待で輝く。

 ――これはマズい。逆に信憑性が増してしまった。


「やっぱり、奥様はまほ……ムグッ」


 魔法使いが定着されては困る。

 無邪気にはしゃぐローリーの口を慌てて塞いで、フェリシテは平静を装って言った。


「それは良かった。では後でまたビネガー漬けを持ってきますね。取り敢えず、食べて様子を見てもらえますか?もし体調に変化が現れたら、教えてください」


 お茶を勧めるメリッサに、このあと行く所があるからと説明すると「フェリさん、凄いです!ぜひ皆さんの事も元気にしてください!」と激励されてしまった。



 ――さらなるプレッシャーをかけられつつ、次に向かったのはレオンの家だ。


 *


 元鍛冶屋だったと言う彼の家は町の商店街のはずれにあり、レンガ造りで二階建ての立派な家だった。

 ここには両親が住んでいて、父親が4年前にコレラに感染して体調を崩しがちになってから寝たり起きたりの生活になり、この冬から春にかけてさらに悪化、ベッドに寝たきりになっているとの事だった。


 相当悪いのだろう――そう身構えて行ったのだが、レオンそっくりな彼の父親は、やっぱりレオンの父親だった。


「いやあ、こんなむさくるしい所で済みませんねえ。別嬪さんをお迎えするんなら、先に言ってくれりゃあ、お洒落しといたのに。レオン、お嬢様がたにお茶をお出ししてくれよ。――で、誰がレオンの彼女なんです?こいつは見た目がチャラいけど、良い子なんですよ。小さい時なんか、アヒルを育てるんだって、卵に名前を付けて温めてたんですよ。名前はチャッピーってつけててねえ」


「ちょ、親父、俺の黒歴史を語るなよっ……!」


 ベッドに横になりながらも、なかなかに渋いレオンの父親は一行を喜んで迎えてくれた。

 鳥類と縁の深いレオンのアヒルとの馴れ初めは大変興味深いが、今回はレオンのお父様の体調確認がメインである。


「アヒルはダメか?じゃあ、ヤモリのしっぽが切れて泣いた話か?ルンルンとランランが喧嘩して大怪我したって俺に見せに来てね、いやー、あれも可愛かったなあ」


 お父様、息子が大好き過ぎて暴走中の様だ。

 と言うか、生物につける名前にインパクトあり過ぎではなかろうか。

 お父様に、絶賛息子の彼女と誤解されているジェシカとローリーの肩が、笑いを堪えてプルプルしている。


 治療がいらないくらい元気なのでは……と思い始めたとたん、レオンのお父様がいきなりむせた。


「ゲエッホ、ゴホ、ゴホッ……!――おお、す、すまん。息子よ、父はもう駄目かもしれん……」


 いきなり生命の危機に陥って、ベットに倒れ伏すお父様のドラマチック展開に皆が戦慄する。

 病床で力を振り絞って、お客様をおもてなししようとしたらしい。

 なんて無茶な事を――とさすがのフェリシテも焦って、彼の枕元に駆け寄った。


「咳が出る時は仰向けでなく体を横にしたほうが息が楽につけます。もしくは前かがみになるとか。すみませんが触りますよ。……そうそう、咳を我慢しないで息を吐いたら吸って、吐いて吸って――大丈夫ですよ、間もなく落ち着きますからね」


 楽な姿勢になる様に枕を移動させると、狼狽えていたレオンが、横からもう一つある枕を父親の下に差し込んだ。


「――ちょっと上半身を起こすと楽なんだって、親父がいつも言ってるんです」

「上半身を?」


 フェリシテは少し考え、レオンの父親の上半身を枕で少し起こし、真横でなく斜めに身体を逸らして横たえた。

 ぐったりした体は熱く微熱がある様だったが、姿勢を変えると一気に楽になったらしく、父親の咳が止まり、ぜえぜえ言いながらも容体が落ち着いてくる。

 その様子を見ながら、フェリシテはレオンに質問した。


「……お医者さんには診せた事はありますか?もしかして、心臓に問題があると言われたりしていませんか?」


 熱と咳、冬から春にかけての容体悪化、その後ベッドに寝たきりになる……とメリッサとの共通点が気になる。

 風邪にしては咳が空咳で、長期に患っているわりに痰がからんだりしている様子もないし、発熱しているのに顔が蒼白いのも奇妙だった。咳が出ているので呼吸器疾患も疑ったが、呼吸器系の病気だと、うつむいた方が呼吸が楽になるのだ……メリッサもそうだったが、顔色から見て、どうも貧血を起こしている気がする。

 だとすると、メリッサと同じくビネガー漬けで治るかもしれない。


「その……医者に診せたのは一昨年くらいで、その後は診せられていないんです……その時は、貧血とコレラの後遺症って言われました……」


 ぼそぼそと小さな声でレオンが答える。

 やはり医療費が高いので、治療が続けられなかったのだろう。


「分かりました。メリッサと似た様な症状の様なので、ビネガー漬けを試してみましょう。済みませんが、キッチンを借りても良いですか?」

「! も、もちろんっす……!」


 途中で調達して来たベリーやワインビネガーを、馬車から降ろしてフェリシテはレオンにもビネガー漬けのレシピを教える。

 それとメリッサの時と同じ状況を再現するために、ストロベリー&クリームも作って、レオンには仕事を休んで暫く父親についていてもらう事にした。


 レオンの母親が働きに出ているので、メリッサの様に付き添いの人がいないのだ。万が一、ビネガーで何か変化が起きた時に誰かが傍についていた方が良い。


「レオン、今日から経過観察の役をお願いしたいと思います。お給料は減らさないので、一週間ほどお父様に付き添ってもらえますか?異変があったら、私に連絡をください。もし改善がみられるようだったら、そのまま一週間ビネガー漬けを食べてもらって、後で私がまた来ますので、どのように変化したか教えてもらえますか?因みにビネガーを摂り過ぎると、胃が弱い人は体調を崩す場合もあるので、一日一回、ほどほどに」

「はっ、はいっ!」


 ――状態が落ち着いたレオンの父親は、ベッドでいつの間にか眠っていた。

 元気になったら、また愉快な話を聞かせてもらいたい。

 チャッピーのその後が大変気になる。


 フェリシテ達は、そのまま休んでもらうために静かに家を出て、次なる目的地のローリーの家へと向かった。

 


 

 

  


 

 



 


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