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ーーーーふぅ、緊張した。
フェリシテは疲労感を覚えつつ、自室に戻って、行儀悪く長椅子に寝ころんだ。
さっき厨房へ行った時に、メイドたちの話がしっかり聞こえてしまっていた。
慣れているけれど、精神的に消耗するのは避けられなかった。
反論した方がいいのだろうが、容姿が劣る事や実家が裕福なのが取柄というのもその通り。
ただ一つ反論するなら、似合いのカップルというならカシアンとエルヴィラはヒューイットより似合うという事だった。
カシアンとエルヴィラは華やかな見た目もそうだが、流行りもの好きで浪費家という点でも似ていた。
歌劇や詩集、アクセサリーやお洒落好きなところもそう。
良くも悪くも似ているから魅かれ合ったのだろう。
ヒューイットについてはあまり関りが無くてすべてを把握してはいないが、氷の王子様の異名を付けられるくらいに冷静沈着で、浮かれた噂のない清廉な人物だ。
パーティではカシアンに女友達が大勢群がるのに対し、ヒューイットはほぼ要人や年配の紳士たちとしか会話しない。
にこりともしないヒューイットに、令嬢たちは緊張して遠巻きにしている様だった。
それにしても、ノアゼット邸にいようとラザフォードの別荘にいようと居心地が悪いのは変わらないなとため息が出る。
フェリシテがレディらしく振舞っても、周囲は誰かと比較して、面白おかしくこき下ろす。
大人しく泣き暮らしても陰気と言われ、無表情だの不細工だの言われ放題だ。
それなら、悪口を言う人達の顔色をうかがって生きるのは馬鹿らしいじゃないか、とフェリシテは思った。
「決めた!」
ぐっと両手を握りしめ、決意に満ちた目で天を仰ぐ。
「他人の評価なんてどうでもいい。もう私は自由に生きる……!」
傷ついてないがしろにされて、でも誰も助けてくれない。
助けなんて待っても無駄。
自分を救うのは自分だけなんだ。
自分の人生だもの、湿っぽく生きるより、断然、堂々と楽しく生きて幸せになってやる!
「そうそう、なら、まず資金を貯めないとね」
フェアフアックスに市場調査に出かけて、何かできそうな商売があるか確認してーー
フェリシテはその日、雄々しく息巻いた勢いで、夜遅くまで頭を悩ませ、テーブルには計画書を散らし、地図を握ったままソファで寝落ちした。
開き直った解放感からか、この日は久しぶりに悪夢も見ずにぐっすり熟睡できたのだった。