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54. 旦那様のプレゼント

 赤レンガの敷き詰められた道路に、朱色の屋根と白壁で揃えられた家々が整然と立ち並ぶ。

 二階建てのベランダには色とりどりのハンギングバスケットが飾り付けられ、可愛らしい家に花を添えていた。


 翌日、ヒューイットに連れられてラザフォード領の中心都市、フェアファックス市入りしたフェリシテは、目に入る物全部が珍しくて、馬車の窓に張り付く勢いで、街中の賑やかな景観を眺めていた。


「足元に気を付けて」


 馬車から降りるのに、ステップに足を掛けた所でフェリシテの手をヒューイットが取る。

 普通のレディ扱いに慣れないフェリシテは、緊張しながら地面に着地し、ぎこちなく礼を言った。


 ーーーー朝5時に馬でヒューイットと連れだって別荘を立ち、昼前にフェアファックスの本邸へ到着したフェリシテは、出迎えた使用人達の驚きと困惑にさらされた後、すぐに街中へ連れ出された。


 ヒューイットから、フェアファックスでは騎士服でうろつくと奇異の目で見られるからとドレスをあてがわれ、昼食のためにレストランへ入ったのだが、うっかりしていた事に、この光り輝く妖精王の様な美形の領主様が目立たないわけがない。

 白銀の髪と涼やかで透明な水色の瞳の、神々しくも幻想的なヒューイットはどこにいても存在感が半端ではない。


 「領主様が女性と一緒にいる⁈」と、大注目を浴びながらの緊張で味のしない食事を終え、今は宝石店を巡っているのだが、結婚を公表していないのに、こんなに目立って大丈夫なのかハラハラしている。

 当のヒューイットは、いつも通りの無表情で平然としていて何を考えているのかサッパリ分からず、まあ彼が構わないみたいだから良いかと諦め、衆人環視の中、気疲れで内心ぐったりしつつ、フェリシテはヒューイットの案内に身を任せていた。


 ヒューイットの装いはピンストライプの濃紺のスーツにグレーのネクタイで、今日も大変に麗しい。

 隣を歩くフェリシテは、ウィステリアブルーのドレスにパールのネックレスと髪留めというコーディネートにさせられた。

 騎士服でフェアファックスを歩くとおかしな目で見られるからと、ヒューイットが買ってくれたもので、これ以外のあと2着、計3着のドレスをプレゼントしてくれたのだ。


 驚き慌てたが、断るのは許されず、戸惑いつつも有難くいただく事にした。

 エスコートもスマートで、ナチュラルにレディファーストを忘れない。

 愛のない妻相手にも、どこまでも紳士なヒューイットには感心するばかりだった。


 ーーーーそうか、こういうのがデートと言うものなんだわ……!


 思い返すと、元婚約者だったカシアンとはろくに出掛けた事も無い。

 顔を合わせるのは何らかの行事や仕事がらみで、一緒に買い物やデートなどしたことがなかったのを思い出す。


 誕生日などにはさすがにプレゼントは贈られて来たが、後に、あのプレゼントはオーストルジュ家の執事が手配していたと判明した。

 自分を裏切った元婚約者からのアクセサリーなど持っていたくないからと売り払ったのだが、贈られてきていた宝石の安さに唖然としたものだ。


 なので、まともなデートも、男性からのプレゼントも初めてと言っていい。

 

 今は、宝石細工師の腕やセンスを知るため、実物のジュエリーを見に宝石店を回っている所なのだが、ヒューイットにエスコートして貰えて大変助かっていた。

 さすが領主様。店に入るなり店員がすっ飛んで来て、おすすめの職人を聞き放題だし、人気や流行のデザインも教えてもらえる。

 店員や周囲の、この領主様の連れの女性は何者なんだ、と言う視線が刺さって気まずいが、そこは目を瞑ろう。


「……気に入った宝石細工師は見つかったか?」

「ええ、おかげ様で誰にオーダーするか絞れました。幸い、市の南側の職人町に居を構えている人達ばかりらしいので、オーダーしに行くのは簡単そうです。明日は紫水晶を持って来なくては」


 ヒューイットに礼を言おうとしたフェリシテだったが、「そうか」と頷いた彼の次のセリフに絶句した。


「よし、私が石を持とう。一人で回るのは大変だろう」


 えっ、とフェリシテが固まる。


「……あの、ヒューイット様、お仕事がお忙しいのでは??」

「ハイヒールで石を担いで歩く気か?気の早いペーテルグリューンでもあるまいし。いくら何でも危ないだろう」


 ペーテルグリューンは、一年の終わりの日にやって来る、木の精霊の事である。

 服に木の葉を沢山つけて、大きな袋を担いで山からやって来るのだが、新しい年を迎えるために、厄を祓った後、担いだ袋から幸運を取り出して、出会った良き人々に渡して歩くと言われる、この国で最も有名な精霊の事だ。


「いえ、でも、お仕事が溜まっているんですよね?」


 多忙な領主の時間を軽々しく奪えないと思ってフェリシテが重ねて言うと、ヒューイットはふいっと明後日の方を向いた。

 何なんだ?と戸惑っているフェリシテは、ヒューイットが紫水晶を宝石に仕立てるのに興味深々なのに気が付いていなかった。


 ヒューイットはと言うと、楽しそうだから一緒に宝石細工師の所に行ってみたい、と言えずにいた。

 確かに溜まった仕事をそっちのけで、遊び歩くわけにはいかない。

 特にジュエリーに関心があるわけでもないのだが、あの原石がどういう変貌を遂げるのか興味があった。

 おまけに細工師の所へ行った事が無いので、工房はどうなっているか見てみたくて、柄にもなく好奇心が湧いていたのだ。

 

「--------分かった、では明日は護衛をつける」


 不承不承そう言ったヒューイットに、「過保護すぎです!」とフェリシテが反論するが、意外と心配性なヒューイットに押し切られる形で決定したのだった。

 


 

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