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 「……これは何だ?君はまた、何かしでかそうとしているんだろう。一体、何をやらかそうとしているんだ⁈」


 私室で古書を呼んでいたフェリシテは、ノックもそこそこに、ドアを蹴破る勢いで入って来たヒューイットを目にして、飛び上がって驚いた。

 時刻は午後10時過ぎ。

 オリバーとデビットと話し合った直後に、速達で送った手紙が届いたらしい。


 珍しく髪を乱して、懐から出した手紙を突き出したヒューイットにフェリシテは慄く。

 昼に手紙を出したのに、いくら何でも来るのが早すぎるのでは⁉と思っていると、心を読んだ様にヒューイットがじろりと鋭い光を帯びた水色の眼を光らせた。


「手紙を受け取った直後に、馬を飛ばしてきた。今回のこの手紙に内容は何だ⁈またとんでもない事に首を突っ込んでいるな……!」


 ヒューイットに詰め寄られてたじろいでいると、開け放たれたドアの向こうから慌てた様子の執事が駆け寄ってきて、ヒューイットへ「伯爵様!」と息を切らして、呼びかけた。


「伯爵様、奥様はお休み中でございます。いったん応接室でお待ちいただいてーー」

「邪魔だ、下がれ」


 威圧されて息を飲んだジュールに、フェリシテは急いで用を言いつけた。


「ジュール、私は構わないから、伯爵様に何かお茶と軽食をお出しして下さい。それから、お泊りになられると思うので、お部屋の用意をお願いします」


 は、はい!と返事をしつつ、振り返りながらジュールが部屋を出ていく。

 ヒューイットの剣幕に怯えながらも、フェリシテを心配してくれているらしい。

 ありがたいなと思うと少し落ち着いてきて、フェリシテはヒューイットをソファへ誘導してからドアを閉め、さすがにネグリジェは恥ずかしかったので薄手のガウンを羽織ってからテーブルをはさんで、彼の向かいのソファに自分も腰を下ろした。


 取り敢えず、手紙の内容の何が問題なのか確認しないといけない。

 フェリシテは深呼吸してから、凍てつくオーラを放つヒューイットに、思い切って話しかけた。


「……あの、足を運ばせてしまって申し訳ありません。その、手紙の内容に何か問題でも……?」

「問題以外ないと思うが⁈」


 問いかけに被せる勢いでヒューイットが言い、じろりと睨む。


「"温泉の湯を売る許可"と、"宝石職人の紹介"と、"流民の一時保護の許可"が欲しい?暗号でもあるまいし、用件だけ書いてよこすのは止めろ」

「えっ?きちんと説明も添えましたよね?便箋7枚分、びっしりと」


 フェリシテは首を傾げた。

 もちろん、抜かりなく書いたはずーーと思っていると、ヒューイットが額を押さえて脱力した様に口を開いた。


「ーーあれは説明でなく、企画書だろう……!むしろ、ツッコミどころしかないだろうが。紫水晶とお湯の販売による経済効果は分かったが、どこからどう、その発想が出たか説明してくれ……!」


 利益と関係ない部分をはしょったのが、いけなかったらしい。

 そこへコンコン!とノック音が響き、ジュールが一礼して入って来る。

 ヒューイットとフェリシテの前に紅茶とサンドイッチを置くと、こちらを心配そうにチラチラ見ながら出ていくので、思わず苦笑してしまった。

 

 ヒューイットがこちらを睨んだままなので、急いで表情を引き締める。

 恐らくヒューイットは夕食を取っていないだろう。

 フェリシテはサンドイッチを勧め、彼が食べ始めたのを見図らって、これまでの事ーーシンクレアと裏山を探索した話やローゼル商会の話、ハーベイの話を詳しく説明した。


 始めは不機嫌そうに眉間に皴を寄せていたヒューイットだったが、話が進むにつれ、どんどん深刻な顔になり、終いには頭痛を堪えた様な表情になって溜息を吐いていた。


「ーーつまり、王立アカデミーのシンクレア教授と友人になり、裏山を探索してアメジスト鉱床を発見したと。さらにローゼル商会から、裏山から湧く温泉水がミョウバン泉と知って水を販売して欲しいと言われている。それから、ガイル領とリュドミル領からの流民が命の危険があるから、送還せずに匿えないかと考えているーーそういう訳だな?」


 「はい」フェリシテが神妙に頷く。

 シンクレア教授と言ったら、我が国の植物学の第一人者である。

 それを友達……いや、何も言うまい。

 しかも、密輸を目撃した流民と会話しただと?ーーどれだけ引きが良ければ、次々に予想外の事を引き当てられるのか教えて欲しいと、ヒューイットは切に願った。


「……ミョウバン泉と紫水晶は好きにするといい。宝石職人は後で紹介する。だが、流民の保護はダメだ」


 少しの間考えた後、ヒューイットが即座に言い切る。


「でも、命の危険がーーーー」


 言い募ろうとするフェリシテを手で制し、ヒューイットは厳しい顔をした。


「流民が増加している事はこちらも把握していた。だが、原因は調査中で知らなかった。これがただの不漁による経済的な難民なら保護しただろうが、君が言う事が事実だと言うなら、ラザフォード領で匿う事は出来ない」

「そんな……!」





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