48. 海底火山と密輸と後妻
我がヴェルファイン王国には"ヴェルファイン異伝"と言う、まだ各領地が王によって統一されていない時代の事件をまとめた歴史書がある。
各領地で記された領主の日記や、古代の長老が言い伝えていた口伝を集め、80年程前に編纂された大作なのだが、確か160年程昔に、現在ガイル領がある所の沖合で海中から噴煙が上がって天に稲妻が走り、無数の小石が海面を埋め尽くし、海の水が緑色に染まったとの記述があったはずだ。
「ガイル領沖では海底に火山があって、数百年に一度、噴火していると歴史書に書かれています。その際、"ーー魚は毒で死に、または散りぢりに逃げ、または小石を飲み込み死に、浜辺を埋める程死骸が打ち寄せたーー"とあります」
「魚の死因が小石……しかし、その小石は何なんですか?」
フェリシテが説明すると、戸惑った様にオリバーが呟いた。
「火山から噴出した溶岩が固まったものだと思います。溶岩以外にガスも噴出するため、異変で周辺海域から魚が逃げ出したんでしょう」
困った事に、そうなると噴火が収まるまでは、まともに漁が出来なくなると言う訳だ。
ーーだが、海底火山噴火も大事だが、さらに輪をかけてとんでもない事が起きている。
「……リュドミル領もまた深刻ですよ……今の話だと、ハーベイが話していた密輸船が、地震ーー多分、海底火山噴火で転覆して、外国人や密輸品が浜に住む人たちに見られてしまったんじゃないですか?それで、密輸していた貴族か誰かが証拠隠滅のために村人を連れ去っていると言う話では……」
「……………………」
フェリシテが深刻な表情で言うと、オリバーとデビットは黙り込んだ。
「ーー借金を負わされて追われるのと、密輸の現場を見られて追われるの、結局、どっちも故郷に戻ったらマズいんじゃないか?」
ずばりデビットが指摘して、フェリシテは頭が痛くなった。
ーーこれで強制送還してしまったら、流民の人達を見棄てる事になってしまう。
自分にできる事と言えば、ヒューイットに頼み込むしかできないのだが、はたして彼が自分の頼みを聞いてくれるかどうかーー
「そういえば」とオリバーが思い出した様に口を開く。
「ガイル領から逃げて来た流民の中で、今回の救済金について詳しい話を知っている者がいました。ハーベイから、領主への直訴をしたら救済金がもらえたと言っていましたよね?それは本当は無償の救済金だった様なんです。ところが領主には再婚した後妻がいて、この後妻が救済金を返せと脅していたと言うんです」
「後妻が?」
また何だか込み入った事情がありそうな話だ。
「救済金を取り立てていたのがガイル領の騎士ではなく、この後妻専属の近衛騎士達だったようです。領騎士と近衛騎士は制服が違うんだそうで、領騎士はネイビーブルー、後妻の近衛騎士服は彼女の好みで、赤と黒の制服で、海沿いに取り立てに来たチンピラ達の指示役は、赤と黒の制服だったと」
「……救済金の取り立ては、後妻が勝手にやっている事だという話になるんでしょうか?」
ーー何だそれは???
領主は知らないと言う事か?……それとも、後妻のする事を容認しているのか。
「ガイル領って、後妻が来てから揉めてる所だろ?領主と後妻の間に子供が生まれてから、亡くなった前妻の息子が行方不明になったとかで有名だよな。もう後妻に消されたんじゃないか、って噂されてるんだろ?」
デビットに言われて、すっかり忘れていたが、フェリシテもガイル領のスキャンダルを思い出してきた。
確か17歳になる前妻の息子がいて、この子が幼い時に前妻が病気で亡くなったのだ。
その後、喪が明けてすぐに領主が後妻を娶って子供が生まれ、いま15歳の次男がいる。
詳しくは知らないが、後妻にいびられている前妻の子の噂が流れ、前妻の子は10歳くらいの時から人前に姿を現さなくなり、ついに去年、前妻の子が行方不明になったとニュースになっていた。
前妻の子を捜索しているとは聞いていたが、発見されたとは聞いていないから、まだ見つかっていないのだろう。
フェリシテの腕に、ゾッと鳥肌が立つ。
「これ、ハーベイを送還したらダメな気がするんですが……」
オリバーも同様に悪い予想に至ったのだろう。
青ざめた顔で言い、フェリシテはオリバーとデビットと三人で顔を見合わせた。




