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 ガイル領から逃げて来たハーベイと会って、数日が経った。


 海沿いで起きている異変について情報が欲しいと、手を回してローカル紙やゴシップ紙と様々な新聞社へ問い合わせ、去年の春頃のバックナンバーを取り寄せたが、海や漁獲量についての情報は無く、各地の領主や貴族のゴシップや、ほのぼのしたローカルニュースに詳しくなっただけだった。


 とあるゴシップ紙では、領主の飼っているペット紹介のコーナーが人気らしく、領主の愛犬のお嫁さん募集までしていて、方々からお嫁さん希望者が殺到していた。

 何と、イモリや蟻をペットにしている領主もいて、これがまた興味深い。

 フェリシテもついつい気になり、その新聞を定期購読する事に決めてしまった。

 ーー何という強力な販売効果だろうか。

 もふもふな生き物たちを見て幸せになる、素晴らしい企画である。


 それにしても、流民が増えているとオリバーから連絡が来ていたが、ヒューイットはまだ気付いていないのか、音沙汰がない。


 ーーこうなったら、ガイル領主が追っていると言う話を聞かなかったふりで、ハーベイ達をただの流民として保護できないだろうか?

 そろそろ流民が20人を突破したらしく、そう大きくないエインワースの町の警ら隊留置所が、満員になっているらしい。

 

 ヒューイットに五月蠅がられるかも知れないが、ハーベイがガイル領主に捕まらないように、流民の保護を訴えてみようか、と考えていた時だ。


「奥様、お客様が参りました」


 ノックの音と共に、新しく雇った執事のジュール・エバンスの声がする。

 今日は先触れは無かったが、誰だろう?

 そう思いつつ、歩いて行って扉を開くと、久しぶりに見る友人の顔が目に飛び込んできた。


「フェリ、久しぶり‼」

「ごきげんよう、フェリ様」


 久々に会うデビットの姿に、軽くフェリシテが驚く。

 オリバーとは会えていたが、デビットはいつぶりだろう。半月ぶりくらいだろうか。


「二人共、ごきげんよう。デビットとは、随分会えていませんでしたね」

「ああ、小麦の収穫で忙しくてさ。昨日、やっと終わったんだ」


 屈託なく笑うデビットを前にして、フェリシテは感動した。

 普段、やや斜めに構えた態度が多いだけに、年相応に笑顔が全開になるのは珍しい。


 そのまま二人を部屋へ迎え入れたフェリシテは、ソファを勧め、二人と向かい合って座った。


「オリバーと話を始める前に、俺から話させてくれよな。フェリが小麦を高く売れる様にしてくれたおかげで、これまでの倍近い収入になったんだ。うちの両親も、近所の人達も喜んで感謝してるよ!それと、ノアゼット産小麦を安く買える様にもしてくれたんだって聞いた。我ながら、ラザフォード産小麦で作ったパンはパサパサで味がしなかったから、柔らかいパンが作れるノアゼット産は助かってる。本当にありがとう……!」


「喜んでもらえて良かったです。小麦が高く買ってもらえたのは、価値が認められたからなんですよ。これからは、作れば作っただけ高く売れますからね」


 ノアゼット産小麦は、実は近年、余剰在庫が問題になっており、生産調整を掛けねばならない瀬戸際だったのだ。

 内情をよーく知っているフェリシテが、実家の弱点を突き、値切りに値切って、一定量を安く確保できたのはラッキーだった。


「ほんと⁉移住してった人たちの畑が余ってるんだ。じゃあ、バンバン作んなきゃな!」


 テンションが上がったところで、オリバーが「あの」と遠慮がちに口を開く。


「……フェリ様は、領民に素性を知らせないんですか?小麦の件はフェリ様の功績ですよね?なのに、領民の称賛が領主様へ向かっているんですよ。本当はフェリ様が……と思うと、複雑な気分で……」


「うん、俺もそれは不満だ。ヒューイット様と結婚したことも、この先も領民に黙っておくつもり?」


 二人が不服そうに言うのに、フェリシテは黙って苦笑を返す。


 フェリシテとヒューイットが白い結婚で、三年後に離婚する予定だとは誰にも話していない。

 本来は別荘に放置され、捨て置かれた立場なのだ。

 それが何の神様のいたずらか、様々な事に巻き込まれて、繋がる人々が増えてしまっている。

 実家にいた時も影の薄い人間だったので、人と関わる事に慣れていないのに。


「ーーまあ、公表は急がなくてもいいんですよ。それより、優先した方が良い事がたくさんありますから。そちらに労力を割きたいんです」





 

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