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 フェリシテは少しの間、無言で考えた。

 ハーベイが走り辛いサンダルでスリをしていたあたり、突発的な犯行と言う話は嘘じゃなさそうだ。


「ロクス卿。さっき、流民から海沿いで不漁が続いていると聞いたと言っていましたよね?」


 フェリシテが問いかけると、オリバーは、ええ、と頷いた。


「ガイル領だけでなく、リュドミル領からの流民も来てまして、同じく不漁だと言っていました。多分、一部地域でなく、広範囲の海域に渡る異変なんじゃないでしょうか」


 そう答えた後、言い難そうに付け加える。


「……ただ、リュドミル領では全く救済が来ていないらしいです。あそこは現在、内政分裂が起きていて、うまく機能していないんだと思います」


 ーーあちこちで揉め事が起きているのか。

 もっと、周辺領地の情報収集をしなきゃいけないな、とフェリシテは思った。

 内情が分かっていなそうなフェリシテに、ハーベイが説明する。


「リュドミル領は官吏の不正が横行していたんだ。それを去年、代替わりした伯爵の息子が一斉に粛清して反発が起きた。腐った官吏と同類の貴族が手を組んで、新領主の足を引っ張ってる。領民へ送るはずの金が官吏の懐に納まってるんじゃないか」


「リュドミル領は繁栄し過ぎて、領内の貴族達全員がかなりな資産と権力を持っているんですよね。なので、自分の家門を頂点に押し上げたくて、領主を下剋上したがってるんです。リュドミル領では公然と賄賂を請求されるし、癒着も酷い。新領主は統制がとれず苦労しているでしょうね」


 オリバーが言うと、ハーベイが顔をしかめてボソッと付け加えた。


「あそこはヤバいぞ。ーーリュドミル領のどの貴族か知らんが、密輸もしてる。夜に浜から沖に船の灯が見える事があるんだ。不審に思って、一度様子見に近付いたら、沖に停めたでかい汽船から小舟で何か運んでた。月に一度、新月の日に来るみたいだ。ありゃ、外国船だな」


 ギクリとして、フェリシテとオリバーが顔を見合わせる。

 外国との交易は国防の観点から国に管理されていて、何処と何を取引しているかを報告する義務がある。

 抜き打ち監査もあり、従わなければ、国家反逆罪に問われる恐れもあるほど厳格なものだ。

 国内の貴族が、他国に取り込まれるのを防ぐストッパーになっている。

 

 しかし、反逆罪に問われると、その領地は国の管理下に置かれ、王宮騎士団が押し寄せて調査が入り、その間の経済活動はストップさせられてしまう。

 ダメージを与えて国に反抗しないよう、見せしめに行われるパフォーマンスの意味合いが強いのだが、領民も巻き込まれ、有罪となった家は取り潰して財産没収、領主も連帯責任で罰金刑。

 密輸がデマでも疑われるだけでかなりな痛手を被る。


「……これは、迂闊に口外できませんね……」


 オリバーが冷や汗をかいて口ごもる。


「ハーベイ、その話は他の警ら隊員には内緒にしていて欲しいんですが」


 フェリシテが念を押すと、ハーベイが「何でだよ」と不服そうに口を尖らす。

 一般的には、国家反逆罪に問われてどうなるか知らない人が多いのだろう。


「密輸は国家反逆罪で、王宮騎士団が領地に派遣されて調査が終わるまで、領民は自宅待機になります。密輸した貴族に加担した領民を逃がさず捕縛するためと、罪人に手を貸して逃亡を幇助されるのを防ぐ意味があるんですよ。その間に外出は禁止。仕事すらできません。移動すると、逃亡の恐れありとして、斬り捨てて構わない事になっています」

「滅茶苦茶じゃねえか!」


 ハーベイは初めて知ったのだろう。フェリシテの話に目をむいて冷や汗をかく。


「うーん、仕方ないと言えば仕方ない措置なんですよ。外国のスパイが入り込んだり、外国の兵などを手引きされたりするのを阻止してるんです。海外の武器を密輸して反乱の準備をしていたり、外国が戦争を仕掛けて侵攻する足掛かりになっていれば、リュドミル領どころか全土が戦火で焦土と化しますよ。我が国の危機となりえますから」


 ごくりと唾を飲み込み、ハーベイが強張って口を閉じる。

 分かってくれたらしい。

 しかもハーベイは気付いていないが、言ってしまうと、密輸の目撃者として過酷な取り調べを受け、長期間拘束されるはずだ。


 ーーしかし、頭の痛い問題がゾロゾロ出て来て、フェリシテは額を押さえた。

 ノアゼット領は安定していてのんびり出来ていたのだが、ラザフォード領のせわしなさは一体何なのか。

 取り敢えず、これ以上大きな問題が起きないと良いなと、今は祈るしかなさそうだった。


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