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確か浜の方に住む人達がこういった靴を履いていた気がする。
すると、オリバーが「正解です」と笑顔を見せた。
「この人が首にかけてるペンダントは、ガイル領の海神で豊漁をもたらすメルトリア神を祀った物なんですよ。魚のひれをもつ男神で、その尾びれを白蝶貝で作っているんです」
「へえ」
メルトリア神は知っているが、そういう御守りがあるとは知らなかった。
二人の会話を聞いている男が、気まずそうに口を引き結ぶ。
「しかし何故こんな遠くまで来てスリなんて……」
フェリシテが首をかしげると、オリバーが表情を曇らせて言う。
「……どうも、海側が今年に入って不漁続きらしいですよ。この所増えている流民のほとんどが海沿いの領民で、事情聴取したら口を揃えてそう言ってました。しかし、ガイル領の領主のガイル侯爵は、温厚で困った領民を放置するような人じゃないはずですが……」
フェリシテも夜会などでガイル侯爵とお目にかかる機会があったが、落ち着いた紳士で、確かに親切で情に厚い人徳者と評判だったはずだ。
「救済が遅れているか、行き渡っていないんでしょうか?」
「でも、今年に入ってから不漁となると、もう半年は経過してますよね?」
どの程度深刻なのかは分からないが、エインワースは海から相当離れており、徒歩だと一か月はかかるほど遠い。
随分と困窮して、切羽詰まっているのではと思うのだがーー
それにしても、救済に手間取っているとしても遅すぎないだろうか?
疑問を感じていると、オリバーに担がれていた男が我慢できないと言う風に舌打ちした。
「ーー何が救済だよ。お前らは知らんだろうが、今、海沿いは原因不明の不漁続きで見たこともねえ有様なんだぞ。不漁は今年からじゃなくて去年からだし、領主の野郎が人徳者だあ⁈あいつ、金をくれたと思ったら貸しただけだから返済しろって、金をむしり取って、足りなきゃ家や土地まで取り上げやがった。生活もギリギリなのに、働いた金を根こそぎ持っていきやがる。限界がきて逃げ出して、俺の村にはもう一人も残ってねえ。何も持たずに逃げて、川の水を飲んでやっと生き延びて来たんだ。お前らにゃ、関係ねえ話だろうがな!」
吐き捨てる様に語る男の話に、フェリシテとオリバーが絶句する。
「ーーそんな話は初耳ですよ⁈他の流民もそんな事は言ってませんが」
困惑したオリバーが立ち止まると、男はハッ!と鼻であしらった。
「当たり前だ。領主の借金から逃げてるって言えば、警ら隊はガイル領主へ引き渡すだろうが。俺はもう疲れたから、どうでもいい。どのみち、ずっと逃げ続けられやしねえからな」
逃げている途中でも何かあったのか、男は酷く荒んだ目つきで二人を睨みつけた。




