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 ヒューイットが帰って一人室内に取り残されたフェリシテは、ぼんやりと荷ほどきをしていた。

 侍女は連れてきていないし、ラザフォード家からもあてがわれていない。

 持ってきたものはそう多くないため、小一時間くらいで片付けが終了する。

 良いものがあると、妹のエルヴィラが『お姉様だけ、ずるい!』と騒ぎ出すので身の回りの品を最小限しか持っていなかったからだ。


 何がずるいのかさっぱり分からないが、二歳年下の妹は両親の愛情も様々な贅沢品も、独り占めしないと気が済まず、まだ足りないという様にフェリシテから好きに物を奪っていった。

 愛らしく甘え上手なエルヴィラの方が、両親に可愛がられているのは幼い頃から気付いていた。

 フェリシテは常にエルヴィラの二の次にされ、後回しにされて忘れられる事も多かった。


 幼いながらに、人は外見によって態度が変わる事を嫌と言うほど知った。

 ちやほやされる妹の隣で、ぽつんと一人で放置されることはよくある事だったから。


 それにしても、とフェリシテは豪奢な天蓋付きベッドに横になり溜息を吐いた。


 多分、自分の容姿がエルヴィラより美しければ、ラザフォード家でも諸手を挙げて歓迎したのではないだろうか。

 元々の婚約者より見劣りする花嫁を押し付けられて困惑したらしく、王都のタウンハウスに住むヒューイットの両親、ラザフォード夫妻も今回の結婚に難色を示したと、この屋敷に来てからメイドたちがコソコソ話しているのを聞いてしまった。

 でも、とフェリシテは宙を見てつぶやく。


「……こんなの、私も望んでなかった」


 エルヴィラは幸せな顔で、綺麗なウエディングドレスに身を包んで、カシアンと結婚する。

 自分は何も悪い事はしていないけれど、誰からも必要とされていなくて行き場がない。


 もともとノアゼット家でもフェリシテは孤独だった。

 病気の時も一人なので、やたら薬草に詳しくなったし、怪我の手当ても上手だ。

 少しは若い娘らしく、結婚や温かい家庭に憧れていたのだが、夢は叶いそうにない。


 そういえば、とフェリシテはカシアンの両親を思い出した。

 フェリシテのためにカシアンとエルヴィラを怒ってくれたのは、あの二人だけだった。

 父の管理がずさんだったために、フェリシテが領地経営も手掛ける事になった時、カシアンの両親が親身になって様々な事を教えてくれた。

 王都に近いオーストルジュ領の交易の話は面白く、聞くのが楽しかったが、それももう出来なくなってしまった。


 カシアンからは、誕生日やイベントにプレゼントが送られてはいたが、プライベートで会う事はほとんど無かった。

 フェリシテも領地視察などに忙しくしていたから仕方ないと思っていたが、昨年などは一度も顔を合わせず、今年に入って周りから急かされ、渋々ウエディングドレス選びにやって来たほどだった。

 政略結婚なんてそんなものかと思っていたが、裏でカシアンはエルヴィラと逢瀬を重ね、大量のアクセサリーやドレスを贈っていたらしい。

 エルヴィラが良くフェリシテにドレスを自慢に来ていたが、そういう意味だったかと胸が悪くなる。


 なぜこんなに奪われなければならないのだろう?

 一握りの幸せすら取り上げられてしまったーーーーーー


「……あと三年でここも追い出される……」



 フェリシテは見失ってしまった将来と、心細さで ぽつりと涙をこぼした

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