表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/115

39

 ーーーーあった。


 探してみると、屋敷の西側に、一カ所だけ石組みが置かれている場所があったのだが、ただの庭石と思っていたのが動くようになっていた。


 石を横にずらすと小さな跳ね上げ式の鉄の扉が見つかり、それを開けると下が土を掘った空間になっていて、むっとする湯気と共に水道管と、止水弁が地中に埋設されているのが確認できたのだった。


「……まさか、こんな近くにも源泉があったなんて……」


「ミョウバン泉は山の中腹、こちらの単純泉は山の麓から湧いてますね。多分、裏山に連なる北部山脈から来る湧水が関わっているんじゃないですか?ここの北東にあるパース領は温泉地で有名でしょう。あそこも山脈から来る水が温泉水になってるみたいですよ。パースの湧出量は確か、毎分7000ℓでしたっけ?ここでもかなりな湯量が見込めそうですよ。これなら、お屋敷を保養地にできると思います」


「本当ですか⁈」


 フェリシテが喜びかけたその時、シンクレアが突然、ガクリと膝から地面に崩れ落ちた。


「ど、どうしました、博士⁈」


 シンクレアは地面に手をつき、胸のあたりを押さえていた。

 先程まで元気だったのに、と冷や汗を浮かべ、何事かと驚いたフェリシテが慌てて助け起こそうとすると、シンクレアは悲壮感を漂わせた苦悶の表情を浮かべて、悔しそうに呻いた。


「くっ……もっと時間さえあれば隅々まで調査できるのに……途中で断念して王都へ戻らなければならないとは……無念……!」


 並々ならぬ熱意を漂わせる姿は、まるで神のしもべたる殉教者を彷彿とさせた。

 おお……!とフェリシテはちょっと感動する。

 昨日から、博士にはお世話になりっぱなしである。


「博士にそこまで思っていただけるとはーー嬉しい限りです」


 フェリシテにしたら、博士が神様同然である。

 思わず手を合わせていたら、ちょうど洗濯をしに来た女中がやって来る。

 ーー山盛りのシーツを抱えた女中は、地面に倒れ伏すシンクレアと、それに手を合わせるフェリシテのわきを行き過ぎようとして、二度見した。


 その直後「ギャー‼」と、とんでもない悲鳴が屋敷中に響き渡り、駆け付けた使用人達全員によって、フェリシテが感謝の証にシンクレア博士を拝むのは、紛らわしいので禁止にされたのだった。


 *


 嵐のような来訪だったシンクレアが、泣く泣く帰路につく。

 

 ここからどうあがいても徹夜でノアゼット領の鉄道の駅まで2日、そこから王都まで1日かかる。

 まさか、その地獄の行程の翌日から教鞭に立つのはキツイので1日休むとして、昼前には出発しなければならない。


 別荘に乗合馬車が来るはずもないので、フェリシテは馬番のベンジャミンにノアゼット領駅まで博士を送ってもらう事にした。

 本来3日がかりの道を、徹夜で2日で踏破しなければならないが、帰りはのんびりで良いからと、博士の分の路銀も持たせた。

 悠長にしていられなかったので、お土産を用意する暇が無く、お弁当だけはしっかり積み込む。

 後日、博士が気に入ったヤギチーズをたっぷり送ろう。


「絶対に、蓮やブルーポピーの花が咲く前に連格を下さいね⁈」と発狂せんばかりに頼みこまれ、博士宅の住所が書かれたメモを握らされたが、来る時はまた、可哀想な学院長から無理やり休暇をもぎ取るに違いない。

 

 教授がいなくなって急に静かになった屋敷内で、フェリシテは濃い二日間だったなーとしみじみ思った。

 しかし、紫水晶の鉱床と、新たな温泉の源泉発見と良い事が続いている。

 このチャンスをものにしなくては!とフェリシテは改めて張り切っていた。

 


 

 

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ