27.使用人たちの生活
「笑い事じゃありませんよ!ベッドのマットレスなんかカチカチです。カーテンはないし、シーツの替えもない。冬はどうしてたんです?ぺらぺらの毛布2枚で、耐えてるなんて……!」
「食って寝れりゃ、上等なもんだよ」
憤慨しているフェリシテをなだめつつ、ウォルターが苦笑する。
「ノアゼット家ではどうだったか知らないが、大抵の貴族の使用人はこんなもんだぞ。特に地方貴族だと給金無しも珍しくはない。食事にあり付けて、定職につければありがたいもんだ」
ええ⁈とフェリシテは考え込んだ。
実家では、使用人達の管理は母親の管轄だったから、給金の額も、支給品が渡されていたのかも知らない。
「ウォルターは、ここ以外の屋敷に勤めていた事はあるんですか?」
そもそも使用人給与の相場も知らない事に気付き、真剣に質問していると、ウォルターの私室の前の廊下でわあわあ騒いでいたため、何事かと他の使用人達も集まって来た。
「ああ、ここの前は四軒別な所に勤めていた。十代には隣のミルドレット領の男爵家にいたが、そこは住み込みで給金無しだった。別な子爵家へ移った時は、そこはここと似た扱いだったな。しばらく勤めてたら伝染病がはやったからラザフォード領に逃げて来て、男爵家でまた住み込みの無給で働いて、また別の男爵家でも無給。それで最後はここに来たってわけだ。基本的に、王都や周辺の豊かな領地以外では、貴族でも裕福じゃ無かったりするから、ここは普通だ。執事が横領してたのは運が悪かったが、エインワースの街の市場にいる領民も生活は似たり寄ったりだぞ。商売が盛んなわけでもない、痩せた土地の田舎だからこんなもんだ」
フェリシテは残った使用人達について確認したが、残ったのは身寄りがなかったり、孤児だったりと訳ありな使用人達ばかりだったと知った。
ウォルターも伝染病で家族を失っていたらしい。
皆に、不満や希望を聞き取っているが、こんな調子で「特にない」と言われてしまう。
フェリシテは目をつむって、むぅ、と唸ったあと、後からやって来た使用人達に、再度不満はないかと質問した。
だが。
「不満なんてありません!」
「このままでいいです!!」
「た、大変よろしいかと思います!」
今は剣を持っていないのに怯えられてしまい、少々ショックを受ける。
「毎月の給金も二万ディールで不足ではないですか?」
今は細かい事は良いかと思い直し、重ねて尋ねると、使用人達は顔を見合わせてキョトンとした。
「あの……十分だと思います……」
「普通だと思いますよ。むしろ高いくらいです」
「そうです。前の所なんて支給品が無くて、服もタオルも自腹でしたし」
従者のオランドが頭を掻いて言うのに、フェリシテが喰い付く。
「自腹⁈オランド、それ、もっと詳しくお願い……!」
詰め寄られ、ひええ、と情けない声を上げて一歩引いてたじろぎながらオランドが早口で答える。
「ええっ、前働いてたところの話ですか⁈えーと、えーと、前は首都のフェアファックスの豪商に雇われてたんですけど、安っすい給料でこき使われるうえ支給品なしだったんで、毎月金欠で。あんまり酷いんでトンズラしたんですよお‼」
「ああー、あるある、支給品なしは辛いよな。シーツの替えなしで5年とかもたせたりな」
ウォルターがちゃちゃを入れると、オランドや他の使用人達が同意して盛り上がる。
「……食事付きの住み込みは助かりますよ。私は隣のミルドレット領の首都でお針子見習いをしていた事があるんですけど、そこは通いだったので、アパートの家賃と食費で、毎月お給料がすっからかんでした。月末にはご飯抜きだったりしたので、こちらで食事が食べられるだけでも凄く嬉しいです」
女中のエマもおずおずとそんな話を披露し、使用人同士で、あるあると共感しているのを見て、フェリシテは予想を上回る使用人達の実情に衝撃を受けた。




