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ーーその後、屋敷に明かりが灯り、起きて集まったヒューイットの部屋で使用人達が見たものは、何故か下着姿でロープでぐるぐる巻きにされたダイアナと、彼女を縛っているフェリシテ。
ソファに座ってうちひしがれるヒューイットという謎の光景だった。
「……ちょっと、放しなさいよ!私が何をしたって言うのよ、まだ何もしてなかったんだから!」
意識を取り戻したダイアナは床に座り込んで、はしたなくあぐらをかき、これが本性なのか、ふてくされてキーキーわめいている。
「ダイアナ。あなたは一体、何をするつもりだったか聞いても良いですか?ちょうど屋敷内の全員が集まったようですし。ギャラリーは十分でしょう」
フェリシテが促しながら、フローリングに深々突き立った剣を片手で軽々と引っこ抜いた。
ミシッ、という音と共に20㎝は刺さっていた剣は、空を切って、木っ端をボロボロ落とされる。
その後、鞘に納められたのだが、使用人達は、お飾りだと思っていた剣を鮮やかに扱うフェリシテを目の当たりにして驚きのあまり無言になり、緊張し固唾を呑んでなりゆきを見守っていた。
「……その女は、私の寝込みを襲おうとしたんだ。幸い振り払ったが、とんでもない事をしでかしてくれたな」
動揺から立ち直ったヒューイットが、気を取り直してごしごしと口元を手の甲でこすってから顔を上げた。
ーーーーダイアナは夜這いをしたのだ。よりによって、自分を雇っている主人に。
それを聞いた使用人達の間に戦慄が走り、全員がどっと冷や汗をかいた。
平民が貴族に危害を加えると、手打ちにされてもおかしくない。
だが、皆が慄いているのと裏腹に、強気のダイアナがヒューイットへ上目遣いで甘えた声を出した。
「お傍に召して頂ければ、私の事をきっと気に入ってくださいますわ。お試しに一か月間でいいので、お傍に置いてくださいませ。私を追い出すなんて、どうかおっしゃらないで……!」
うるうると目を潤ませて言い募るダイアナは、先程までのふてぶてしさからコロッと変身し、あぐらをかいていたのはどこへやら、可憐に足をそろえて床に力なく座り込み、いかにもいたいけな少女になっていた。
フェリシテはぽかんと口を開けた。
こんなのに騙される人間がいるのかと思ったら、単純な男性使用人たち数人が目の前であっさり陥落し「ダイアナ……!可哀想に……!」と一斉に同情しだして、さらにぽかんとする。
何だこの茶番は。
もはや男性達が異次元の人種に見えて来る。
頭痛をこらえてこめかみを押さえていると、さすがに惑わされなかったヒューイットが立腹した様子で、ソファからゆらりと立ち上がった。
「ーーダイアナ。君の浅はかさにはヘドが出る。私を篭絡しようと謀ったか。随分舐められたものだ」
使用人達からちやほやされることに慣れていたダイアナにとって、ヒューイットの拒絶は意外だったようだ。
昼間、様々な不祥事がバレて減給されたのを、色仕掛けで覆そうとしたのだろうと察する。
これまではそれで上手くいっていたのかもしれない。相当容姿に自信があったのだ。
自信満々だったダイアナが、ヒューイットの冷えた視線に見下ろされて青ざめた。
「ヒ、ヒューイット様……」
「気安く呼ぶな」
ヒューイットが切れている。
「貴族に危害を加えた罪で首をはねてやりたいくらいだが、同じ空間にいるだけで穢れる。給金も一切払わないから、即刻出ていけ……!」
ヒューイットの剣幕に、数人の使用人達が、なおも追いすがろうとするダイアナを慌てて押さえつけて止める。
これ以上、主を刺激してはいけないと使用人達は必死だった。
と言うか、ヒューイットだけでなく、実はフェリシテも怖い存在なのだと、今更気付く。
知らないとはいえ、何てことをしていたのだろうーー断罪される覚えがある使用人達は、報復を恐れて震え上がった。
ーーーーこうして、とんでもなく長い長い一日は終わりを告げた。
翌日、フェリシテとヒューイットに恐れをなした使用人達が次々出て行き、何と使用人の半数以上がいなくなりーーーー屋敷は一気に人手不足に陥ったのだった。




