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「君は……笑えたのか?」
意外そうにヒューイットが呟くので、フェリシテは、すん、と真顔に戻した。
「無表情の方がお好みですか?」
「いや、そういう訳では無くてーー。ノアゼット邸で挨拶しても、パーティーで見かけてもずっと表情が変わらなかったから………」
はあ。とフェリシテは首を傾げた。
「それはヒューイット様も同じでは」
「ーーそうだな」
言われてみれば確かに。
「一緒に舞踏会へ行ったら、無表情二人組ですからね。きっと周囲はドン引きです。半径二メートルくらいは人が避けて通りますよ。それはもう、一緒に社交に参加しない事にして正解ですよ」
うんうんと納得しているフェリシテに、ヒューイットが額を押さえる。
実際に想像すると痛い光景だ。ありえそうで怖い。
「い、いや、それは置いておくとして、結婚当初は気が立っていてーー」
改めて考えると、何の罪もないフェリシテにあんまりな態度だったとヒューイットが冷や汗をかく。
「すまなかった。悪いのはエルヴィラだったのに、君に八つ当たりした。今回の事も、他人の話でなく、やはり自分の目で確認しなければと痛感させられた。その、君には色々と辛い思いをさせてしまった。これは自分の責任だ。何か償いがしたい。要求があれば言って欲しいのだが」
潔く頭を下げるヒューイットに、フェリシテはぶんぶん首を振った。
「いえ、好きなようにさせてもらえてましたし、特にこれ以上は」
「……いや、ずいぶん不自由をかけた。そういえば、君への毎月の予算は足りているだろうか?どうも室内が殺風景だし、その服もずいぶん簡素だが」
ヒューイットが、ちらりと壁に掛かっている木刀と剣を見る。
殺風景というか、殺伐としている。
一般的な婦女子の部屋ではない。
「え?予算……ですか?足りるも何も、受け取ってませんけど……」
フェリシテが驚くと、ヒューイットが眉をひそめる。
「そんな馬鹿な、君が来た直後にきちんと渡したはず……!」
言いながらヒューイットが表情を凍らせていく。
再びブリザードが吹き荒れる予感に襲われたフェリシテは、余計な事を言わずに口をつぐんだ。
その後、無言で立ち上がったヒューイットが階下へ降りてゆき、結果、執事は本日付けで仕事を失う事が決定したのだった。




