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「いえいえ、王都の高級菓子店の価格をご存じですか?クッキー1枚200ディール以上ですよ。その値段から言って、ラザフォード産小麦価格は激安です。量が少ないから、むしろ希少。菓子店で使われるのはほぼノアゼット産ですから、ノアゼット産小麦価格までなら店側でも抵抗なく購入可能という事ですよ。これを希少だからと言ってさらに吹っ掛ければ暴利ですけど。しかし、これまでと同じ小麦を作っていながら、一気に4割も儲けられる。大儲けですよ。これは乗っかるべきです!」
書類の年間小麦生産量から、素早く小麦取引価格を計算したフェリシテは、大量のお金が降ってくる予感に、瞳をキラキラ輝かせた。
「現在の取引額約7億ディールが、13億になりますよ‼1.75倍です。おまけに、ローゼル商会からは、道路整備の支援もしてもらえるそうです」
生き生きと前のめりで熱く語っていたフェリシテは、唖然としているヒューイットに気付いて、ソファに上品に座り直した。ーー今更だが。
「……君は、それが本性か?」
ヒューイットがまじまじと見て来る。
取り繕おうとしたが、大人しい令嬢のふりをしてもまたバレると思って、フェリシテは素直に頷いた。
「はい。本来は私がノアゼット領を継ぐ予定でしたので、こういうお話は得意なんです」
「ああ、確かにそうだな。ーー得意というか、水を得た魚みたいに生き生きしてるが」
視線が痛い。
でもバレたなら、むしろ話し易くなった。
「話を戻しますが、貧民の方の食糧確保で提案できることがあります。今回のラザフォード産小麦の流入で、市場ではノアゼット産小麦が売れ残って在庫がだぶつくと思います。表沙汰にはしていませんが、ノアゼット領では小麦栽培が好調過ぎて、年々余剰在庫を抱えることが多くなっていまして。それをさばくのが難しくて、近年、廃棄処分しているんです」
これは、ノアゼット領の経営中枢にいないと分からない情報だ。
「それで勝手ながら、ノアゼット領にいた時に懇意にしていた秘書を通じて、父の足元を見て、その売れ残り在庫を4割引き価格で融通してもらえることに成功しました」
「ーーーーはぁ?」
ヒューイットがぽかんと口を開けて、動きを止める。
「現在ラザフォードへ輸出している小麦とは別枠で、一定量を確保しました。秘書がそのあたりの調整をしてくれます。号令がかかれば流通に乗せられますが、いかがしますか?」
さらっととんでもない事を言い出したフェリシテを、ヒューイットは手で制した。
「まてまて、理解が追い付かない。えーと、ノアゼット領で小麦が余っているんだな。だが、ラザフォードのせいで小麦が売れ残るのに、よく反発せずに安くしてくれるよう交渉できたな」
ノアゼット側からしたら、ライバルに塩を送るような形だ。
いくら親子でも、喧嘩を売ってるようなものではないのかと心配になる。
だが、フェリシテは胸を張った。
「そこは在庫保管料、廃棄処分にかかる輸送費と人件費、処分料金の損益額と、ラザフォードへ安く売る場合の利益を天秤にかけてもらいました。農家から全量買い取ったうえで廃棄してるので、伯爵家の負担も大きくてですね。それに正直、おおっぴらに廃棄できるものでもないので、毎年どうやってコッソリ処分しようかと頭を悩ませていたんですよね。その処分の手間も省けて、安くてもお金が入ってきますよとメリットを説明しただけなんです」
悪魔のささやきか?
一応、それでノアゼット伯爵が納得したなら良いのかもしれないが。
「……話は分かった。それが本当ならありがたく受けようと思う」
ヒューイットが了承すると、フェリシテはやった!という様に笑顔になった。
すると、ヒューイットが動揺した様子で口元を押さえる。




