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 ウォルターと露地のハーブ畑に水を撒き、草取りをしていたフェリシテは、屋敷の裏庭で男性と二人きりでおしゃべりしているダイアナを見付けた。

 一緒にいるのは使用人のキースだ。

 

 使用人達は仕事が片付けば、基本的に自由行動でかまわないのだが、ダイアナは自由行動の多さが目に付く。

 しかも、たいがい男性と一緒で、男性同士がダイアナを巡って争うまでがセットになっており、男性使用人の間の空気がギスギスしている。

 困ったものだと思ううちに、さっそく料理人のジョンが二人の間に入っていって修羅場になり、フェリシテは視線を外し、見て見ぬふりを決め込んだ。


「あいつら、またやっとるな」


 ウォルターも日常茶飯事なので、すでに動じない。

 最初は止めたほうが良いかと思っていたが、揉めない日のほうが少ないと知り、よほどでないと誰も止めないのだ。


「ダイアナなんぞ、いつもトリシアとエマに仕事を押し付けてサボってるようなやつなのに、見る目ないなあ。若い奴らはすぐ見た目に騙される」


 鼻で笑うウォルターに、フェリシテは聞き直した。


「ウォルターは騙されないんですね。それにしても、エマも仕事を押し付けられているんですか?ダイアナより年上じゃないですか」

「俺は人によって態度を変えるやつが分かるからな。……ああそう、エマも大人しいから、他の使用人に仕事を押し付けられやすくてな。ヒューイット様の別荘への関心が薄れるにつれ、自由が過ぎて目に余る事をしでかすやつが増えたんだ」


 ウォルターがつまらなそうに言いながら雑草を引き抜く。


「先代の時代はよくここを利用していたからましだったが、ヒューイット様が忙しくて夏のバカンスに数週間しか使わなくなってから、監視の目が緩んで使用人もたるんできた。ヒューイット様は小さい頃から世話になってるから信用してるんだろうが、執事のポールのひいきが酷いな。これじゃ、同じ給料なのに、働かない奴と、仕事を押し付けられた奴とで不公平だろうに」

「ーー私が不甲斐なくて、すみません」


 屋敷の夫人が使用人を取り仕切るのが一般的なのに、自分にはそれが出来ない。

 フェリシテが謝ると、ウォルターが首を振る。


「奥様のせいじゃないから、気に病むな。むしろ気の毒な境遇だと思うぞ」


 同情されると、フェリシテは居心地が悪い。

 

「トリシアやエマがうまく立ち回れればいいが、下手に手を出すとこじれるから、見てるしかできなくてな」

「そうですね。何かできればいいんですけど」


 うなずくと、まじまじとウォルターが見て来るので、フェリシテはたじろいだ。


「な、何ですか?」

「いや、前から思っていたけど、奥様って変わってるな。普通、貴族さまは使用人同士がもめてても知らんぷりな事が多いんだ。問題を起こせばクビにすればいいし、使えるうちは使うって感じで、使い捨てだ。使用人が働き過ぎだの考えるなんて、本当に変わってるよなあ」


 確かにその通りで、貴族と平民には大きな格差がある。

 使用人を酷使して捨てようが、不敬罪で命を奪おうがかまわないとされているのだ。

 最近は平民が商業で富豪になって、経済への影響力が大きくなってきたため、平民の権利が叫ばれるようになり、以前ほど貴族の専横は通らなくなって来ているが、まだまだこの国には差別が根深く残っている。

 ただフェリシテは崇高な意識とかでなく、自分が辛かった時の経験から、同じように辛い思いをしている人を見過ごせなくなっただけだ。


「私は自他ともに認める、変わり者ですから」


 開き直って言うと、ウォルターがぶはっと吹き出す。


「まったくだ。まあ、使用人としてはありがたい事だがね」


 笑い合っていると、フェリシテの元に執事が走ってやってくる。


「奥様……!ここにいらしたのですね⁈」


 いつもピカピカに磨いた革靴が汚れるのを嫌って、畑には寄り付かないのに、どうしたのかと思っていると、執事は顔をこわばらせて悲鳴のような声を上げた。


「早くいらしてください、伯爵様が奥様に会いたいと、急遽おいででございます……!」


 ええっ⁈‼

 フェリシテは驚きのあまり、持っていた鎌をぼとっと地面にとり落とした。


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