114. 視察
夫人は留守番と言う事で、エルデンとフェリシテ、エリオットとロビンと護衛を引き連れ馬車で領都のカーバンクル市の街中へ出た。
街は領都の割に小規模で、建物が密集している場所を通り過ぎ、すぐに畑が見えて来る。
大きな建造物は少ないが、自然が多くて空気も澄んでいる。
王都周辺や大規模な領都だと石炭の使用が増えて煙い場合があるのだが、ゲインズ領では石炭がまだあまり普及していない様だ。
「お見せできるような観光地が無くてすみません」
エルデンが肩身が狭そうにして言う。
「領内のほとんどが農地でして。農業関連なら珍しい物がお見せできるんですが……」
馬車が停まったのは、防風林に囲まれた広々とした農場だった。
道中に見て来た畑とは違う野菜が植えられており、ここはエルデンが所有する研究用の畑だと言う。
「ここで品種改良した野菜を試作しています。現在は冬でも作れる野菜を育てている最中です。こちらの手前のものから紹介すると、東方から取り寄せたほうれん草(縮ほうれん草)と長カブ(大根)、東方キャベツ(ハクサイ)ですね。なるべく東方の土壌特性になるようになど、環境を現地の様に再現すると良く育ってくれるんです」
「現地の様に再現――ラザフォード領でも同じように作れるでしょうか?」
ノアゼット領でも冬に作物を育てる事は無いので、これは珍しい。
フェリシテは近付いて、野菜を観察した。
ラザフォード領でも腐葉土などを大量に使えて土壌改良すれば、数年後に今より野菜の収穫量が増えると聞いている。
もしかしてエルデンはもっと有効な打開策を知っているのではないか?そう思って尋ねたのだが、エルデンは「残念ながら」と首を横に振った。
「シンクレアから状況は伺っていますが、ポドゾル土壌では根気よく藁や腐葉土などを土に混入して土壌を良くするしかありませんね。ただ、腐葉土が無限にある訳では無いので作物を植える畝にだけ与えるなどの工夫は出来るかもしれません」
普通は畑の全面に腐葉土や肥料を撒くのだが、確かに野菜を植える畝にだけ撒けばいいなら労力も少なくてすむ。
初対面で土下座した人物と同じとは思えない頼もしいアドバイスに、フェリシテはちょっと感動した。
「メロンはラザフォードで作れませんか?」
ロビンが期待しつつ質問するのに、エルデンは苦笑して申し訳なさそうに言った。
「メロンはラザフォードで作るのは難しいと思います。土が合わないでしょうね。ゲインズ領ではメロンが安いので、帰りにたくさん買っていかれると良いと思いますよ」
「えっ、メロンを一週間も運搬したら、傷んで腐ってしまいませんか?大丈夫なんでしょうか?」
購入して帰ろうとは思っていたが、日持ちはしないだろうから道中で食べ切ろうと思っていたのだ。
ところがエルデンは大丈夫ですよ、とニッコリ笑った。
「メロンは収穫後、完熟して食べ頃になるまでに一週間くらいかかるんです。市場ではすぐに食べられる物と一週間後に食べられる物とを分けて売っているんですよ」
それは知らなかった。
エリオットが目を丸くして聞いていると、ロビンが「屋敷の皆に買っていきます!」と嬉しそうに宣言する。
「私も買って行きましょう。ヒューイット様にも召し上がっていただきたいですし」
ヒューイットに忠実なエリオットがキリッと表情を引き締めた。
だが、ふたつの屋敷分のメロンを購入したら、馬車がメロンまみれになること間違いなしだ。
まだ大してゲインズ領を視察していない段階で、メロンに馬車を占拠される訳にはいかない。
フェリシテは、小麦の次に大人気のメロンの輸入に力を入れる事にした。
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毎度申し訳ありません。こちら少々加筆いたしました!




