113. ゲインズ領主 2
フェリシテが妙な既視感を覚えて感心していると、間髪入れずにゲインズ領主夫人がスパーンといい音をさせて領主の後頭部をどつき、「おほほ」と優雅に誤魔化しながら猫の子みたいに襟の後ろをつまんで領主を立たせた。
エリオットが動揺で目を泳がせたが、周囲の官吏たちの様子からしてゲインズ領主のこの言動は慣れたものらしい。
周囲から生暖かい眼差しを注がれた領主は、折角のダンディな外見が台無しである。
まさかご夫人がツッコミ役になるとは思っていなかった。
初対面からインパクトがあり過ぎなご対面である。
「――失礼いたしましたわ。こちらがゲインズ領主のエルデン・ゲインズと申します。私が妻のエウテルパ・ゲインズです。ようこそゲインズ領へ。フェリシテ様のお話はシンクレア博士からお手紙で伺っておりましたわ。我が領の食糧の輸入を検討されているとか。願ってもないお話で大歓迎いたしますわ」
領主そっちのけで、夫人がにこやかに歓迎の意を表す。
その一方で夫に笑顔で圧力をかける事を忘れない。
「あなた。ラザフォード領の方々はわざわざこうして足を運んで下さったのよ。時間をかけていらないものを交渉しにいらっしゃる訳無いでしょう?」
優しいが有無を言わせぬ迫力がある。
美人が凄むとえげつないな、とフェリシテは呑気に思った。
一方、エリオットは早々にこの空気を何とかせねばと取り成すように、キリッと表情を引き締めてフォローを入れた。
「その通りでございます。ラザフォードは冷涼な気候と農業に適さない土壌で食糧自給率が大変低く、そのうえ今年は感染症の影響で近隣からの輸入が望めず――困っていた所をシンクレア博士からゲインズ領をご紹介いただきました。無理になんてとんでもございません。こちらからお願いして食糧取引に伺った次第です」
その言葉を聞いて、やっとゲインズ領主はホッとした様だった。
恥ずかしそうに頭に手をやりながらボソボソと弁明する。
「……お見苦しい姿をさらして申し訳ありませんでした。何せ取引に来る他領の使者や商人達からとんでもなく安い取引価格を提示されるわ、売り込みに行くと『自領で賄えるから、要らない』と冷たくあしらわれるわで早数年。つい自虐的に考える癖がついていた様で……」
ああ、とフェリシテとエリオットは納得した。
確かに市場の値段は価格破壊状態だった。
あの値段で輸入してしまったら、自領の農作物価格が崩壊してしまう可能性があるからリスクが高くて踏み切れない領は多いだろう。
「我が領では不足している食料の方が多いので、取引していただけるとむしろ有難いのです。現在、特に小麦を輸入したいと希望しています」
フェリシテが言うと、ゲインズ領主はぱあっと表情を明るくした。
「もちろん、取引可能です。他にも輸入されたいものがあれば是非!本日はお疲れでしょうから、ごゆっくりお休みいただいて、明日もしご希望があれば市場や農場をご案内致します」
初対面から奇行に驚いたが、ゲインズ領主は良い人そうである。
シンクレア博士のご友人なだけあって、さすが一味違うな。
フェリシテはそう納得したのだった。
*ご覧いただき有難うございます!
こちら少々加筆いたしました。
そして誤字のご指摘を頂きましたので、一部修正しました。
ご指摘ありがとうございます*感謝*




