11.小麦と商会
「ブルーポピーの芽が出ない……」
フェリシテはウォルターと共に温室内にしゃがみ込んで、頭を抱えていた。
いや、出ないというのは正確ではない。
二百粒くらいまいたはずなのに、何と芽が出たのが温室内でたったの十七本。屋外もまばらにしか生えず、その数十一本。合わせて二十八本しか発芽しなかったのだ。
マツリカは丈夫なのかすくすく伸びたが、蓮も何がマズかったのか、鉢植えにした四つのうち一つにしか芽が出なかった。
「初めて育てる花だからなあ。国外の物はやっぱり環境が違うから、難しいもんだ」
ウォルターが悔しそうにぼやくが、楽しみにしていたためか、若干へこんでいる。
バラの蒸留からこっち、ハワードは相変わらずよそよそしかったが、ウォルターがよく声をかけてくれるようになった。
どうもラベンダークリームが効いたようで、膝の痛みが楽になったと喜んで報告してくれた。
クリームが虫さされにも効き、普段からよく使うようになったらしい。
お金を払うから、また欲しいと言われたので、お金でなくフェリシテの手伝いをして欲しいと頼んだら、快く引き受けてくれ、フェリシテの手が回らない所を助けてくれるようになった。
「うーん……ダメだったのは何ででしょう?」
せっかく芽が出たものを枯らしたくないと、フェリシテが悩む。
「ーーもしかすると、ブルーポピーはかなり涼しいところが好きなのかもしれん。ほら、ここの日当たりは芽が出てるけど、ぐったりしてる。水をかけても戻らないが、この日陰のはびしっと立って生き生きしてる」
「本当ですね」
ウォルターの観察眼にフェリシテが感心する。
「こりゃ、様子を見つつ水やりしたほうがいいかもな。あとこの西日が当たる所に日陰を作ってみようか。それで元気になったら日差しが原因だ」
「西側にラティスを置いてみましょう。それで様子見ですね」
もっと情報が欲しいな、とフェリシテは考えた。
この屋敷の図書室の本はひととおり調べ尽くしたが、町の本屋に新しい本はないだろうか。
図書室の本は全部年季が入っていて古いので、見て来るのも悪くないかもしれない。
ここ数日は作ったラベンダーウォーターでシーツを洗ったり、ローズウォーターでお肌の手入れをしてうるつやになったり、癒しの時間を過ごしていたので、エインワースの街へ行くのは久々だった。
デビットやオリバーに会えるかなと期待してフェリシテは馬に乗り、まずは市場へ向かった。