109
グロックのカップにはスプーンが添えられており、ロビンがラザフォードでは育たないので珍しいオレンジのスライスを美味しそうに齧る。
「有難うございます。あの、馬車で待つ者にもこちらを少し分けて頂けますか?お代はお支払いしますので」
リンゴとオレンジの爽やかな香りでグロック一杯を呑んだだけでも生き返った心地になり、フェリシテは礼を言ってお爺さんに尋ねた。
するとお爺さんは大口を開けて豪快に大笑いした。
「グロック一杯で大袈裟じゃのう。ゲインズ領は食料はふんだんにあるから遠慮することは無いぞ。まあ、ちょっと待ちな」
言いながら、お爺さんはキッチンで包丁を取り出し、手際よく陶器の入れ物に保管されていた大きなハム肉を切り分けてフライパンで焼き始めた。
肉の焦げるいい匂いがして、焼き目がついたあたりで皿に盛り付けると、フライパンに残ったままの肉汁に潰したニンニクの欠片と唐辛子を放り込み、手早く洗った大量のルッコラを投入し、塩コショウで味付けする。
「ルッコラの炒め物、一丁上がり!」
火が通る合間にジャガイモをすりおろして小麦粉と混ぜたものを、今度は別のフライパンで焼き出したお爺さんは、あっと言う間に山盛りのパンケーキを焼いて3人の前に差し出した。
トッピングにバジルホイップとリコッタチーズのクリーム、蜂蜜が添えられ、豪勢なランチの出来上がりだ。
ルッコラや小麦粉、蜂蜜を惜しげもなく使っての料理に3人が唖然とする。
さすがにノアゼット領でも蜂蜜は貴重品だったし、自宅で採れるにしてもルッコラもバジルも大量過ぎではないだろうか?
「あの、こんなに宜しいんですか?」
エリオットが目を白黒させて戸惑うと、お爺さんはニカッと破顔した。
「馬車で待っている人達にも持って行ってやんな。外から来た人達は驚くが、うちの領では領主様が品種改良に熱心でな。昔は王都のアカデミーで研究してたらしくて、通常の倍の量が収穫できる小麦や野菜を普及させとるんじゃよ。お陰で飢える事がないのが有難い」
「倍の量を収穫ですか?」
エリオットが戸惑って言うと、お爺さんは頷いた。
「領主様はエルデン様って言うんだが、お小さい頃から植物がお好きでな。畑に出ては実が大きく出来た果実の種や大きく育った野菜の種を集めて増やしていったんだ。旱魃や大雨でもよく育つ品種を探したりとかな。肥料の調整や野菜の病気の研究にも熱心で、お陰で領民は飢えとは無縁になった。昔はよく病気で畑が全滅したとか、大雨の湿害で麦の収量が半分になったりとかしたから本当に有難い」
ノアゼット領でも、そこまでの技術はまだ手に入れていない。
品種改良は畑をよく観察して育ちの良い野菜や穀物を見つける事から始まり、植物の芽が出てから収穫まで、ずーっと生育を観察分析しないといけない。それを繰り返して何年もかけていい種を集め、畑にまいて増やして種をまた集めて、ひたすらそれを繰り返す――優れた品種の種を延々と増やし続けると言う重労働なのだ。
病気の研究もそうで、原因を特定し、病気に効く薬が見つかるまで試して根気よく探さないといけない。
一般人にそんな根性は無いし、才能と努力が必要な分野になる。
領主でなく、研究者であればスカウトしたいくらいの逸材である。
*ご覧いただき有難うございます!
今回も後ほど加筆させて頂きます<(_ _)>
ついに社畜の作者は過労でダウンしてしまいました。
サバイバルな年末になりつつあります汗。
皆様は無事に楽しい年末が過ごせますように*
>少々加筆いたしました!小刻みで済みません!




