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 和やかな旅が変化したのは、ついにノアゼット領を抜けてゲインズ領へ入った直後だった。


 豊かなノアゼット領から、サロワ領との小競り合いで疲弊したゲインズ領に入れば落差が激しいだろうとは思っていたが、一気に街道を進む馬車が減り、フェリシテ達が乗る馬車だけとなってしまった。


 一緒に領境を越えた商人の馬車は早々に食堂に消え、領民達の姿は見えず、閑散とした街道を貸し切り状態でひた走る。通常、街道の脇にあるはずの宿屋や食堂が見当たらず、商人の馬車が領境近くの食堂にすぐさま入った理由が分かった。

 これは昼食をどうするか考えないといけない。


 農業が主な産業と言うのは嘘ではないらしく、街道のすぐ脇にはノアゼット領より多く牛が闊歩していたり、羊とヤギとアヒルが仲良く草原に寝そべっている。

 人気が無いが、見渡す限り続く畑と果樹はどれも青々と元気良く育っているのが分かった。


 しかも、南部は温暖だからか野菜が大きい気がする。

 ラザフォードではそろそろ野菜の収穫が出来なくなるのだが、ここは日当たりも良いし、まだまだ野菜が育てられそうだ。

 これは輸入交渉に期待が持てそうだと、フェリシテとエリオットは明るい気持ちになった。

 さすがに来たからには手ぶらで帰れない。

 

 領民が通りかからないかと思いながら進むが、行けども行けども牛と羊とヤギだらけ。


「……ゲインズ領の領民は、実は牛だったとかではありませんよね?」


 珍しく冗談を口にしたエリオットだが、頬が引き攣っている。

 

「その可能性は否定できません」


 真顔で返したフェリシテに、自分が言っておきながらエリオットが


「そんなわけないでしょう⁉」と自らツッコむ。


 代り映えしない光景にそろそろ焦りが見え始めてきて、おかしくなっているらしい。


「しかし、昼食はどうしましょうね」


 ゲインズ領主の屋敷はまだ遠く、このままだと夜も宿が取れずに馬車で路上泊する事になりそうだ。

 それはそれで楽しそうだが、空腹なままなのは辛い。

 フェリシテは、うーんと悩んだ。

 領境で何か買えばよかったなと思うが、街道沿いに店が無いのは想定外だった。


「馬車での野宿は、それはそれで楽しそうですが」


「……楽しくはありませんよ。横になれなくて疲れが取れませんし、意外と夜は寒くて朝には体の節々が痛みます」


 肩を竦めたエリオットが否定してきて、フェリシテはおやっ、と目を瞬いた。


「まるで馬車で野宿した事があるような口振りですね」


 侯爵家の子息が野宿とは珍しい、と思っていると、エリオットは「これでも騎士ですので」と当たり前の様に言った。


「訓練で山の中での野宿は当たり前ですし、護衛訓練で主人のそばで寝ずの番も致します。……まあ、例外が一人いて、ガブリエルは寝不足はお肌に悪いからとテントに寝袋でなく簡易ベットを持ち込むし、馬車内をクッションだらけにしてぐっすり眠りますが、あくまでアレは特殊な例です」


「クッションだらけ……」


 飽きずに窓の外をにこにこして眺めていたロビンが、ハッとした様子で振り返った。


「もし野宿になったら、外の子羊さんや子ヤギさんと一緒に寝ていいですか⁈」


 

 




 

*ご覧いただき有難うございます!

 11月13日に少し加筆いたしました。

 毎度申し訳ありません <(_ _)>

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