合流とお説教 1
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気のせい、と逃げられる状況ではなさそうである。
ヒルデベルトとヴォルフラムの二人の突き刺さるような視線にさらされて、わたしはあわあわしていた。
……咄嗟だったとはいえ、二人の前で光魔法使っちゃった!
これは、「ライト」が成功して喜んではいられない。
ファイアボールとストーンブレットでは弓を防げないと思って、咄嗟に目くらましをしようと「ライト」と叫んじゃったけど、これはまずい状況ですよ。
しかも、ハイライドがおまけとばかりに光魔法を使っちゃったからね。いや、もちろん、ハイライドが光魔法で弓を落としてくれて助かったんだけども!
これはどうあっても言い逃れできない。
だけど説明を求められても説明もできない!
「え、ええっと、二人とも! そんなことよりお兄様と合流しないと……」
「そんなことと流せる問題ではないぞ」
ヴォルフラム、しつこい男は嫌われますよ!
「まあいい、質問は後にしよう」
ヒルデベルトも、今見たことは忘れましょうよ!
あとから質問されても困るが、この場で詰め寄られるよりはましかと、わたしはひとまずヒルデベルトの意見に乗っかっておくことにした。
黒豹の捕縛だなんだと慌ただしくて有耶無耶になるかもしれないし。というか、そうなることを切に願うけれども!
土魔法で縛り上げられたギウスたちは、とりあえずこの場に放置しておくのだという。念のためだと、ヴォルフラムが風魔法の結界でギウスたちを閉じ込めて逃げられなくしていたよ。
部屋を出た後で数人の男たち(たぶん黒豹メンバー)と遭遇したけど、ヒルデベルトとヴォルフラムにあっという間に撃退されて捕縛され、廊下とか階段とかに転がされていた。
彼らはお兄様と合流後に回収するんだって。
ヒルデベルトとヴォルフラムと共に玄関から庭に出たわたしは、思わず言葉を失っちゃったよ。
あっちこっちから煙が上がっていて、地面にもたくさん大穴が開いてるし、意識を失った人たちが山のように積み上げられている。
……お、お、お兄様ああああああ‼
その中で、一人涼し気にたたずむ人影。
玄関に灯された灯りに照らされた横顔は、うっすらと微笑を浮かべているようだけど、わたしは騙されませんよ!
鬼だ、鬼がいる‼
お兄様、激オコですよ!
今すぐ回れ右をして逃げたくなったけど、もちろんそんなことができるはずもなく。
「マリア!」
わたしを見つけて、お兄様が走って来る。
あわあわしている間に、お兄様にぎゅうっと抱きしめられた。
「マリア、心配したんだよ! まったくお前は……! 帰ったらどうしてこうなったのか、きっちり説明してもらうからね」
いえ、お兄様、説明と言われても……。
これはどう考えても不可抗力。そう、仕方がなかったんです……という言い訳は、聞いてくれないんだろうな~。
でもさ、寝ている間に攫われたんだから、わたしには防ぎようがなかったよね?
学園が寮の警備を厳重にしていたみたいだけど、それをかいくぐってわたしを攫った黒豹がすごかったんじゃないかな~なんてそんなことを言ったらこの場でお説教されそうなので黙っておくけどね!
これは、できるだけお説教が軽くなるように、しっかりとわたしは悪くないという言い訳を考えておかなくては!
わたしはそんなことを考えながら、現実逃避をしようと試みる。
だってさ……、すぐそばの人の山がさ、怖すぎて……。
ねえ、あれ、みんな生きてるよね? そうだよね?
怖すぎて泣きそうなんだけど。
お兄様もヒルデベルトもヴォルフラムも、ついでにハイライドも平然としているけど、あれ、平然としていられるモノじゃないよね?
できるだけ視界に入れないように入れないようにしていると、バタバタと複数の足音が聞こえてきた。
「マリア、無事か――これは何だ‼」
アレクサンダー様の声がして、ようやくここにまっとうな感覚の持ち主が来たと、わたしは天に祈りたくなったよ。
「マリアさん、無事でよかったです。……それにしても、なかなかすごいことになっていますね」
続いて聞こえてきたニコラウス先生の声も引きつっている。
対してお兄様と言えば。
「アレクサンダー、遅かったな。それからニコラウス先生、騎士たちには連絡を入れてくれましたか?」
「え、ええ、じきに来るとは思いますけど……」
あ、よく見たらニコラウス先生の背後に、オルヒデーエ伯爵もいた。
そう言えばオルヒデーエ伯爵がボールマン伯爵を告発してどうとか~って作戦にしたんだったわね。だから呼んだのね。……可哀想に。
オルヒデーエ伯爵は、目の前の惨状に言葉も失って青ざめている。
攫われていたヴォルフラムとかヒルデベルトとかも、視界に入ってないみたい。
うん、あれはないわよね。ないわ~。
ここだけ戦争があったのかと突っ込みたくなるような惨状だ。
「ジークハルト、やりすぎるなと言っただろう!」
アレクサンダー様がおかんむりである。
だけどお兄様に小言が通用するはずもない。
「私のマリアを攫ったんだ。当然死を覚悟してのことだろう?」
死⁉
ひぃっ、とわたしは悲鳴を上げた。
「お、おおおおおお兄様! 死って、死って、ま、まままままさか……」
あれ、そうなの? そうなの⁉
わたしが本気で泣きそうになっていると、わたしを抱きしめたままのお兄様が(離してくれない)、よしよしとわたしの頭を撫でた。
「ああ、大丈夫だよ、マリア。優しいマリアが悲しむかと思ってね、おにいちゃまもちゃんと手加減したからね。かろうじて生きているよ。かろうじてね」
「かろうじてって二回言ったあ‼」
「ニコラウス先生! 確認を手伝ってください! それからヴォルフラムもだ! 疲れていると思うが協力してくれ‼」
アレクサンダー様が蒼白になって、急いで人の山の確認に入った。
ニコラウス先生も大慌てだ。
ヒルデベルトは、いつの間にかいなくなっていた。じきにここに騎士が駆けつけてくるからだろう。見つかれば捕縛されちゃうもんね。
アレクサンダー様たちが大慌てで人の山の生存確認をはじめている。
「オルヒデーエ伯爵! 申し訳ありませんが、急いで城に向かって魔法医を呼んできてください!」
ニコラウス先生が叫んだってことは、放置していたら命の危険がある人もいたのね。
やりすぎですよお兄様‼
そして、いつまでもわたしを抱きしめてないで、アレクサンダー様たちに協力してください! お兄様、中級くらいまでなら治癒魔法も使えるでしょう⁉
アレクサンダー様もニコラウス先生も治癒魔法が使えるので、放置していたら危険そうな人には治癒を施していた。
ヴォルフラムは治癒魔法が使えないそうで、山から人を引きずり降ろしては怪我の具合を確認している。
お兄様が仕方がなさそうな顔でわたしを解放し、アレクサンダー様を手伝いに行った。
……いやいやお兄様。そんな顔をしていますけど、これをしたのはお兄様ですからね!
怖いけど、わたしもお手伝いに向かう。あんまり役には立たないかもしれないけど、一人でぼけっと立っているのは気が引けるし不安だからね!
……って、あ! ボールマン伯爵発見! あ! ツェリエもいた!
ボールマン伯爵とツェリエの姿が見えないと思ったら、縄で縛られたまま人の山の中に一緒にされてたよ。
ツェリエなんて歯の根もあわないくらいにガタガタ震えながら、ぼろぼろと泣いている。
……まあ、結構怪我をしている人もいるし、その中に一緒に放置されてたら怖いよね。ドレス、血だらけだし。自分の血じゃなくても、あれは怖すぎる。
つくづく、お兄様は容赦がない。
わたしたちが怪我人の確認をしていると、バタバタと騎士たちが駆けつけてきて、惨状を見て絶句した。
そして、隊長と思われる人が、しばらく沈黙した後で戸惑いつつ声をかける。
「ご、ご協力……感謝いたします」
いえむしろ、こちらこそ手間をかけさせてすみません!
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