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ヴォルフラム奪還作戦 5

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 週明けの月曜日、わたしはお兄様とアレクサンダー様と共に、生徒指導室を訪れていた。ニコラウス先生に呼ばれたのだ。

 ニコラウス先生はさっそくお兄様のヨルク様に連絡を取ってくれたみたい。

 ヨルク様からの回答があったから、その連絡のために呼んでくれたようだ。


「例の魔石ですが、一時的に借りることはできそうですよ。ただし、すぐでなくても構いませんが、得られた情報は兄……というよりは法務部に共有すること、という条件が付いています。どうしますか?」

「すぐでなくて構わないのであれば、問題ありませんよ」


 お兄様が快諾すると、ニコラウス先生は「では、明日にでも届けてもらいましょう」と言って微笑んだ。

 ニコラウス先生は仕事が早くていらっしゃる!


 貸してもらった魔石からお兄様が何らかの情報を取り出すことができれば、ボールマン伯爵が墓地の結界を破壊したという証拠が手に入るかもしれない。

 オルヒデーエ伯爵がそれをもってボールマン伯爵を告発、同時にヴォルフラムの救出ができれば、この件は一気に解決に向かうはずだ。

 ヒルデベルトとの約束で義賊黒豹の壊滅させる協力をするという話もあるが、正直そっちはまったく心配していない。


 だって、お兄様とアレクサンダー様よ? 最高難度の魔法まで難なく操る二人は、もはやチートといっても過言でないわ。そのチートが二人に、加えて武術も魔法もどんとこいのヒルデベルトまでいるのよ? いったい誰が敵うというの。


 ……黒豹にはちょっと同情するわ。これはね、無理ゲーというやつよ。お兄様たちを相手に、勝てるはずがないんだもの。


 そしてお兄様もアレクサンダー様も、容赦するような性格ではない。

 特に墓地の一件ではわたしが怪我をしちゃって(まああれは自分でやらかしたのだけど)、お兄様たちはあの時のことをまだ気にしている。

 結界を壊した犯人がボールマン伯爵と黒豹だとわかった今、お兄様たちが彼らに手加減なんてするだろうか。――絶対にするはずがない。


 それにお兄様は、ボールマン伯爵の娘ツェリエが、わたしに暴言を吐いたことを許してはいないだろう。

 ボールマン伯爵も黒豹も、知らないところで思いっきり地雷を踏み抜いていたわけだ。


 ……うぅ、くわばらくわばら。成仏してください。


 わたしは心の中で合掌した。


「では、魔石の件はジークハルトに任せるとして、私の方で少し情報が調べられたので共有しておこう」


 アレクサンダー様が手帳を取り出す。


「え? もう何かわかったんですか?」


 わたしは驚いてアレクサンダー様を見た。

 だって、オルヒデーエ伯爵邸に行ったのは一昨日の土曜日で、今日は月曜日。つまり日曜日のほぼ一日だけで何かしらの情報を集めて来るなんて、アレクサンダー様ってばどれだけ有能なんだろう。


「少しだけな。だが、墓地の結界の方で確たる証拠がつかめなかったときのために、他に何かないか調べてみたんだ。……まあ、最悪、ボールマン伯爵令嬢の君に対する暴言を元に、不敬罪を適用して身柄を拘束した後で聞き出せばいいし、おそらくジークハルトは最終手段として考えていたのだろうが……」


 アレクサンダー様がちらりとお兄様を見た。


 ……なるほど。その手があったわね。


 わたしが以前お兄様を止めた件だが、それを持ち出し、オルヒデーエ伯爵からお兄様やお父様に申告があったという体を取れば、少し弱いが、オルヒデーエ伯爵とボールマン伯爵は共犯で悪事を働いていないという世間へのアピールになる。

 その上でボールマン伯爵を尋問して吐かせれば、オルヒデーエ伯爵家への風当たりは多少なりとも抑えられるだろう。


 ……わたしが知らなかっただけで、お兄様もアレクサンダー様も、いろんな隠し玉がありそうね。ただ、一番いいのは墓地の結界の件の証拠を探してオルヒデーエ伯爵に告発させることなんでしょうけど。


 この二人、本当に有能すぎてびっくりだわ。


「それで、アレクサンダーは何を調べて来たんだ?」

「ああ。違法薬物の輸入および、それらの薬物を提供する違法な闇酒場の運営だな。風紀紊乱罪の適用が可能だ」


 ……ふーきびんらん罪ってなにかしら?


 聞きなれない単語にわたしが首をひねると、お兄様がわたしの頭を軽く小突いた。


「マリア、理解できていないような顔をしているが、一年生の時の法律の授業でも出てきたはずだよ」


 ……え? そうだったかしら。ほほほほほ。


 わたしは笑って誤魔化そうとしたが、お兄様は誤魔化されてくれなかった。


「さすがに公爵令嬢が最低限の法律も知らないのはまずい。この件が片付いたら、マリアはしばらくおにいちゃまとお勉強だね」


 ……ひーっ‼ 中間試験の悪夢再び!


 お兄様はすぐ「お仕置きだ」なんて言うから、お兄様にお勉強を見てもらうのは恥ずかしいし怖いんですぅ!


 わたしが心の中でシクシク泣いていると、お兄様が風紀紊乱罪についてかいつまんで説明してくれた。

 簡単に言うと、社会秩序を乱したことに対する罪だそうだ。

 違法薬物を売り買いしたり、国の認可のない風俗店を経営したりするとその罪が適用されるらしい。

 結構くくりが曖昧で、他にも器物損害や迷惑行為に対しても適用されることがあるそうだ。前世でいうところの、わいせつ罪もこれに該当するという。あとは人身売買とかもね。


「証拠は押さえてあるのか?」

「いくつかはな。闇酒場の方は、すぐにでも摘発できる状態にしてある」


 たった一日でそこまで……。アレクサンダー様、すごすぎです。

 わたしが尊敬のまなざしを向けると、アレクサンダー様がほんのり頬を染めた。照れたようだ。

 イケメンの照れ顔は尊いなあと思いながら見ていると、がしっとお兄様の腕がわたしの肩に回った。


 ……はぅ!


 まずい、と思ってわたしはアレクサンダー様から視線を外す。


 ……ほほほほほ、マリアは別にアレクサンダー様の顔に見とれたりしていませんよ。カッコイイとか可愛いとか、思っていませんからね!


「マリア、おにいちゃまもね、面白い情報を手に入れて来たんだよ」


 わたしの肩を撫でながら、お兄様が凄みのある笑顔を向けてきた。

「歩く媚薬」の極上笑顔は滅茶苦茶迫力がありますが、どうしてだろう、背中に冷や汗が……。


 ニコラウス先生がそんなわたしとお兄様を見て「仲がいいですね」なんて言いながらくすくす笑っているけど、先生! これが微笑ましい光景に見えますか⁉ お兄様に叱られそうな気配に、わたしは今、ビクビクしているのですよっ。


「面白い情報とは?」


 さっきまで頬を染めていたアレクサンダー様が、急に仏頂面に変わっている。


 ……ほらお兄様! お兄様がもったいぶるから、アレクサンダー様がご機嫌斜めになっちゃったではありませんか!


「ヒルデベルトの件だよ。十六年前、当時三歳だったオルヒデーエ伯爵家の長男ヒルデベルトは人さらいに遭ったんだったね。あれだけど、その人さらいにボールマン伯爵が関与している可能性が出てきた」

「どういうことだ」

「どういうことですか?」


 アレクサンダー様とニコラウス先生がさっと表情を引き締めた。


「まだ確証が得られたわけではないけど、あの当時、幼い子供が攫われる事件が多発していてね。攫われた子供のほとんどは貴族ではなかったため大きな問題にされなかったのだろうが、そう言えばあの当時、父と母がやたらと私の警護を手厚くしていたことを思い出したんだ。父なら情報を集めていただろうし、恐らく記録として保管していそうな気がしたからね、その資料を借りて調べてみたところ、ボールマン伯爵家が関わっている可能性に行きついたというわけだ」


 お兄様によると、人さらい事件は、一、二年ほどでぱたりとおさまったらしい。

 その一、二年の記録を調べると、それまで外国と取引をしていなかったボールマン伯爵が、やたらと大量の荷物を国外に持ち出している記録があったそうだ。

 もちろんそれはたまたまかもしれないけれど、お兄様の勘に引っかかったという。


「当時ボールマン伯爵が接触した他国の人間を探らせている。そこが突き止められれば何らかの証拠が手に入るだろう」

「そうか。……だが、何故国は、その当時に詳しく調査しなかったんだ」

「先ほども言った通り、攫われた子供のほとんどが平民だった。中には貴族の子が攫われたこともあったが、不思議と、貴族の場合は数日経ったころに王都をふらふらと歩いているところを保護されているんだ。これは仮説だが、貴族の子を攫うと国が本格的な調査に乗り出す可能性があるため、貴族だとわかった子供は解放していたのだろうと思う。だが、ヒルデベルトはどういうわけか黒豹の先代リーダーに育てられた。ヒルデベルトが言うには、人さらいにあったところを助けられたと言っているが……その人さらいに、ボールマン伯爵と共に黒豹も関与していたとなると話が変わる。ヒルデベルトは、ボールマン伯爵家に繋がる何らかの情報を見聞きして、危険視されたために解放されず、しかし外国に売るのも身分的に危険なため、黒豹で育てられたと考えられないか?」


 それはつまり、黒豹の元リーダーであるローゼンは、ヒルデベルトを助けたのではなく、攫った人間の仲間だったと言うことになる。


 ……そんなこと、ヒルデベルトが知ったらすごくショックを受けると思うわ。


「殺さなかったのはヒルデベルトに利用価値があると思ったのか、貴族の子を殺すとあとあと面倒なことになると思ったのか、他に理由があるのかは知らない。だが、黒豹の現リーダーだというギウスがヒルデベルトとオルヒデーエ伯爵のつながりを知っていたということは、当時リーダーだったローゼンもそうであった可能性が高い。その上でヒルデベルトをオルヒデーエ伯爵家に帰さなかったのだから、相応の理由があるはずだ」

「なるほどな。帰す家がわかっているのに帰さないのは、義賊の行いとしては違和感が残るな」

「義賊でなくとも盗賊なら、ヒルデベルトを使ってオルヒデーエ伯爵家に身代金を要求するくらいするだろう。それもせずに育てるのは妙だ」


 ……お兄様の言うとおりね。


 おバカさんなわたしでも、お兄様の仮説は真実に近いと思うわ。

 でも、その真実は、ヒルデベルトを傷つけるかもしれない……。


「問題がどんどん大事になっていきますね」


 ニコラウス先生が眉間をもんだ。


「ええ。ですが、逆を言えばこのタイミングでこれらを知れたのはよかったと思いますよ。このまま気づかずにいたら、今後も何か問題を起こしていたかもしれませんからね」


 お兄様、とっても前向きですね。でも、その通りだと思います。

 ボールマン伯爵が昔から悪事を働いていたのならば、今後も同じように次々と悪事を思いつくかもしれないもの。


「問題はヒルデベルトにどこまで話すかだが……、私が調べた十六年前の人さらい事件については、まだ伏せておいた方がいいだろう。このタイミングで彼の心が乱れると、作戦に影響がでるかもしれない」

「ああ、そうだな。では、私が調べたことと、それから魔石から得られた情報を伝えることにしよう」

「ニコラウス先生、明後日の水曜日、外出許可をもらえますか?」


 お兄様が訊ねると、ニコラウス先生が苦笑しながら「本当はダメなんですけどね」と言いつつ許可をくれた。


「ただし、授業が終わってからですよ。門限については寮監に伝えて許可をもらっておきますけど、できるだけ早めに戻ってきてくださいね。それから君たちに限って何かあるとは思えませんが、危険な行動は慎むように」


 ニコラウス先生が許可をくれたので、わたしたちは明後日の水曜日の放課後、ヒルデベルトとコンタクトを取るために彼に教えられたゾンネという酒場に行くことにした。






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