ヴォルフラム奪還作戦 4
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夜――
わたしは久しぶりに自分のステータスを確認していた。
名前 マリア・アラトルソワ
誕生日 四月一日
称号 アラトルソワ公爵令嬢
レベル 五
魔力 五十八
習得魔法レベル 三
溜まっていたポイントをレベルにつぎ込んだら、レベルが四から五に上がった。それに伴い魔力も増えたので、わたしはつい、スマホを眺めてにまにましてしまう。
もしかして、以前ハイライドが教えてくれた光魔法「ライト」も、魔力が増えた今なら使えるんじゃないかしら?
ちょっと試してみたい気になったけど、ハイライドは熟睡中なので起こすのは忍びない。実験は今度にした方がよさそうだ。
わたしはスマホを枕の下に納めると、リッチーからもらったアイマスクを取り出した。
今日はいろいろ頭を使って(半分以上理解できなくて思考放棄していたりもしたけど)、疲れたから、つけているとリラックスできるらしいアイマスクをしてゆっくり休みたい。
わたしはアイマスクを装着すると、ふわりとあくびをかみ殺して、ベッドに横になる。
そしてまた、夢を見た――
夢の中で、わたしはまた、前世で暮らしていた狭い一Kのマンションの部屋にいた。
相変わらず小さなテーブルの上には缶ビールが置いてある。
……おおっと、今日は二本ですか。今日は奮発デーだったんですね、前世のわたし!
勤め先はたいして給料も高くなかったので、わたしはこれでも節約していたのだ。ただ、残業続きで疲れた時は自炊できなかったので、コンビニ弁当やスーパーのお惣菜を買ったりしてたから、意外と食費は高かったのよね。
だって、ひどいときはわたし、帰宅は深夜だったんだもん。自炊する体力は残っていない。
本当、ブラック企業もいいところだったわ~、あの会社。しかも、国で定められている残業時間を超えそうになると、サービス残業させる会社だったのよ。つまりただ働き! ふざけているわ。もし今のわたしがあの会社に勤めていたら、ファイアーボールで社長の頭をつるっぱげにしてやるところね‼ せめて残業代はよこせよふざけんな~! ってね‼
わたしの視線の先では、前世のわたしが缶ビールを傾けながらスマホをいじっていた。今日も今日とてゲームを楽しんでいるのだろう。
彼氏もいなかったわたしには、缶ビールとそれから「ブルーメ」の攻略対象たちの甘いセリフが唯一の癒しだったからね~。
うぅ、なんて寂しい前世だったのかしら、わたし。
……さてさて、今日のわたしは誰の攻略をしているのかしら~?
わたしはすすーっと前世のわたしの背後に回ると、スマホ画面を覗き込んだ。
スマホの小さな画面にはヒルデベルトの顔が映っている。どうやらヴォルフラムの攻略を終えて、今度はヒルデベルトの攻略をはじめたみたいね、わたしは。
『眼帯にたまに触れていますけど、痛むのですか?』
ゲームのヒロインであるリコリス・ロザリア王女が、ヒルデベルトに訊ねていた。
すると、ヒルデベルトが黒い眼帯を撫でながら、ニヒルに笑う。
……そうそう、この笑い方が好きだったのよね。陰のある男って感じがして!
実際、他の攻略対象にないワイルドさも気に入っていた。イケメン盗賊に攫われるとか、女の子ならば一度は妄想したくなるシチュエーションだろう。きっと世の中の女性の九割は妄想するわね! ええ、ええ、わたしはそう信じていますとも!
『痛むというか、たまにうずくくらいだな』
そこで、三つの選択肢が登場する。
お可哀想……
どうして右目を怪我なさったのですか?
眼帯の下が見たいです
前世のわたしは、少し迷った様子で真ん中の「どうして右目を怪我なさったのですか?」を選択した。
当時のことを覚えていないからたぶんだけど、「お可哀想……」とどっちにするか迷ったんだろうな~。
選択肢は親密度上昇に関係があるし、スチルがゲットできるかどうかも関わって来るので、前世のわたしはかなり真剣に選んでいたのだ。
どうやらわたしは正解を引き当てたみたいね。
パッと画面が遠い目をしたヒルデベルトのアップのスチルに変わる。くぅ、イケメン!
わたしはすっかり前世のわたしに同調してゲームを楽しんでいた。
ヒルデベルトのイケボがスマホから響く。
『俺は昔、黒豹という義賊にいた。白獅子を立ち上げる前のことだ。黒豹を壊滅させようとやつらの拠点に乗り込んだときに、右目を切られちまってな。高度な治癒魔術が使えれば治せたんだろうが、俺には治癒魔術は使えなかった。だからこうなっちまったのさ』
『今からでも、治せないのですか?』
『時間が経過したこの目を、視力ごと回復させるのは、それこそエリクサーでもなければ無理だろうぜ。そしてそんなものを扱えるやつは、この国に一人だけ。この国の侍医長様だけだ。お偉い侍医長様が、盗賊の俺の目を治すために力を使うかよ。逆にこっちが捕まって縛り首にされるのがオチだ』
『そんな……』
……そうそう、こんな話しあったわ!
リコリスはそれでも何とかしようと頑張るのだが、ヒルデベルトに「よけいなことをすんな」って怒られちゃうのよ。
ヒルデベルトは、リコリスが自分とつながっているのを知られて、彼女が窮地に立たされるのを危惧して怒ったのよね。ああ、なんていい男かしら!
わたしはもう少しゲームの続きを見ていたかったが、以前のように、目の前の光景が白い靄がかって見えてきて、もう終わりかとがっかりする。
わたしの意識は、その白い靄に飲まれて、少しずつ現実に引き戻されていった。
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