オルヒデーエ伯爵家の事情 6
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そんなわたしの心の悲鳴が届いたのかどうなのか。
「なるほど、実に面白い会話だ」
という声が、天井から響いてきた。
わたしも含め、四人が勢いよく天井を向くと、サロンのシャンデリアに、優雅に足を組んで座っている男がいる。
……ヒルデベルトぉ⁉
いつの間にあんなところにいたのだろうか。
鈍感なわたしはともかくとして、お兄様とアレクサンダー様が気が付かなかったのだから、よっぽどよ!
オルヒデーエ伯爵なんか、目を大きく見開いたまま固まってしまっている。
ヒルデベルトはオルヒデーエ伯爵を一瞥した後で、ひらりとシャンデリアから床に着地した。
……シャンデリア、ほとんど揺れなかったよ。やっぱりどこか忍者っぽい‼
なーんて呑気なことを考えている場合ではないだろう。
ヒルデベルトがわたしににこりと微笑んで「お嬢ちゃんとは今度ゆっくり話がしたいね」なんて言い出したから冷や汗ものだ。
……い、いいい今の会話が聞かれていたってことは、わたしが苦し紛れにヒルデベルトから聞いたことにした話もばっちり聞かれてたってことよね⁉ ひーっ! これはまずい! まずいですよ! ヒルデベルトに殺されるっ!
わたしは咄嗟に、お兄様の腕にひしっとしがみついた。
お兄様ならきっとヒルデベルトからわたしを守ってくれるはずだ。なんたって最高難易度の魔法も操る超ハイスペックなお兄様である。わたしはヒルデベルトがわたしの命を狙っていないという保証が得られるまで、もうお兄様から離れない‼
「マリア、そんなにおにいちゃまが好きなのかい?」
べったりとしがみつくわたしに、お兄様が能天気なことを言っているけど、お兄様! ヒルデベルトに集中してください! マリアの命の危機です‼
がくがくぷるぷるしているわたしの頭をお兄様は呑気にもなでなでしている。
アレクサンダー様がソファから立ち上がり、わたしを庇うように一歩前に出た。
「すまないが、君とマリアがゆっくりと話をする機会は、未来永劫訪れないだろう」
アレクサンダー様頼もしい! ほらお兄様、アレクサンダー様を見習ってマリアを守ってくださいませ! 仮にもわたしはお兄様の婚約者なんですからっ!
するとお兄様はあきれ顔をわたしに向けてきた。
「マリア、さっきお前は自分でヒルデベルトを仲間に引き込もう的な話をしていたじゃないか。絶好の機会だというのに、何を怯えているんだい?」
そうですね。自分で言っておいて、実際にヒルデベルトが登場したら怖がっているわたしは、さぞ滑稽でしょう。でも、こんな予定ではなかったのよ!
わたしはゲーム知識があるので、ヒルデベルトが拠点にしている場所を知っている。王都にあるとある酒屋の地下の部屋だ。
そこに行けばヒルデベルトがいるはずなので、彼に会って事情を話し、協力を得られればいいな~と安易に考えての発言だったのだ。そしてぽろっとこぼしてしまったせいで、お兄様に怪しまれて窮地に立たされていた。
まさかこの場に本人が現れるなんて、これっぽっちも思っていない。
……窮地を救ってもらうどころかさらに窮地に立たされた気がするぅ!
マリア、ピンチ! マリア、ピンチ! 悪役令嬢マリア・アラトルソワ大ピ~ンチ‼
そんな警報が頭の中に鳴り響く。
どうしようどうしよう、この状況を打破する名案なんて、もちろんポンコツなわたしの脳は導き出してなんてくれませんよ‼
すると、アレクサンダー様が、とってもナイスな助け舟を出してくれた。
「ジークハルト。マリアは以前、夜中にヒルデベルトに侵入されて怖い思いをしたのだろう? 怯えても仕方がないのではないか?」
アレクサンダー様‼ 後光がさして見えます‼
わたしはもちろん全力で便乗する。
「そ、そそそ、その通りです‼」
こくこくと首振り人形のように頷きまくっていると、お兄様がすぅと目を細めた。
「――ああ、そうだったね。そこの不埒な盗賊崩れは、私のマリアの部屋に侵入したんだった。おにいちゃまとしたことが、これはうっかりしていたよ。安心しなさいマリア。おにいちゃまが今すぐにでもあの不届きものをあの世に送って――」
ぎゃー‼ なんかお兄様の変なスイッチが入ったー‼
あの世に送られてはまずいと、わたしは今度は逆の意味で焦り出す。
アレクサンダー様も、ぎょっとしてお兄様を見た。
「何を言い出すんだジークハルト! 制裁を加えるにしてもヴォルフラム・オルヒデーエを救出したあとにしろ!」
「なるほど、今この場では半殺し程度に抑えておいて、あとで始末する方がいいようだな」
「私は一言もそんなことは言っていないぞっ」
なんか話がどんどんややこしくなっていっているわー‼
これはわたしのせい? わたしのせいかしら? わたしのせいのような気がしてきましたよ‼
制裁とか言っている時点で、アレクサンダー様もあまり冷静ではない様子だ。
この場の仲裁ができるのはもうオルヒデーエ伯爵しかいないだろう。
他力本願この上ないが、オルヒデーエ伯爵に縋るしかない!
わたしは瞠目したまま動かないオルヒデーエ伯爵に視線を向ける。
「あの、伯爵」
呼びかけると、オルヒデーエ伯爵がハッとわたしを見た。
だが、オルヒデーエ伯爵が仲裁に入る前にヒルデベルトがうんざりした顔で「うっせー」と息を吐く。
「おい、俺はくだらねーやり取りを聞きに来たんじゃねーんだ。用がないなら帰るぜ?」
いや、そもそもヒルデベルトは勝手に侵入してきただけで誰も呼んでないからね。
何呼ばれたから来てやったんだみたいな顔をしているのかしら。
お兄様とアレクサンダー様も何か言いたそうな顔をしたけれど、不毛な口論をする気はなかったのだろう。
まあいいと頷いて、お兄様がオルヒデーエ伯爵に訊ねた。
「伯爵、ここからは彼も話に参加してもらいたいのですが、よろしいですか?」
オルヒデーエ伯爵はヴォルフラムそっくりなオレンジ色の瞳を揺らしてヒルデベルトを見た後で、悲しそうに眉を寄せて頷いた。
「……ええ、もちろんです」
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