オルヒデーエ伯爵家の事情 3
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翌、土曜日の午後。
お兄様とアレクサンダー様とわたしの三人は、オルヒデーエ伯爵家へ向かっていた。
もう本当、このお二人は有能でいらっしゃいますよ。
昨日の放課後にすぐに動いて、あっという間に国王陛下から許可をもぎ取って来たんですからね。
いったいどんな風に脅したのやら。
陛下を脅せるとか、さすがは公爵家の次期当主の二人である。怖い怖い。くわばらくわばら。
国王陛下にちょっぴり同情していると、わたしたちを載せた馬車が王都のオルヒデーエ伯爵家の前に停まった。
オルヒデーエ伯爵には、今日の午後から向かうと事前に連絡を入れてあるので、邸にいるはずだ。
ヴォルフラムが攫われたことは、オルヒデーエ伯爵にはまだ伝えていない。
国王陛下はオルヒデーエ伯爵に伝えることは許可したけれど、それが世間に知れ渡るのは避けたいようで、外部に漏れないように細心の注意を払うようにお兄様とアレクサンダー様に伝えたそうだ。
……この事件が長引けば、どちらにしても漏れると思うんだけどね。
事実を隠蔽するにも限界がある。
伯爵家の跡取り息子が攫われた以上、情報操作は墓地のときのように簡単ではない。
男子寮でも、ヴォルフラムが攫われた事実を知っている人は多いはず。生徒が登校する前だったから、騒ぎを耳にした人はそれなりにいるだろう。
男子寮の生徒に口外しないように規制をかけたとしても、人の口には戸は立てられないからね。
むしろ規制されればされるほど、漏れた時の情報の拡散速度は速いんじゃないかなあ。
ほら、前世のあれよ。アイドルとか俳優とかが隠れてこそこそ恋人と会っていて、それが週刊誌にすっぱ抜かれて大騒ぎになるのと一緒よね。「ええー!」という驚きが大きいほど、あっという間に拡散されるのよ。
まあ、わたしでも思いつくことだから、国王陛下がわからないはずもないだろう。
だからこそ、お兄様とアレクサンダー様の説得(脅し)に応じたんでしょうし。
オルヒデーエ伯爵に伝える許可を出したと言うことは、暗に、お前たちで早く解決しろと言っているも同然なんじゃないかしら~って、思っちゃうわけよ。
まあ、わたしなんかが国王陛下の思惑を慮れはしないから、あくまで勝手な推測だけどね!
馬車から降りたわたしたちを出迎えてくれたのは、まだ若そうな(といっても三十代くらいかしら?)執事だった。
温和な顔立ちの執事の顔は、緊張で少し強張っている。
……公爵家の跡取りが二人に公爵令嬢までついてきたら、いくら事前連絡を入れていても、いったい何事かと思うわよね。
執事に案内されてサロンへ向かう。
そこには、執事と同じく強張った顔のオルヒデーエ伯爵が待っていた。
わたしたちが部屋に入ると、わざわざソファから立ち上がって挨拶してくれる。
……うーん、確かにわたしたち全員が公爵家の人間だけど、年上で、しかも伯爵の地位にいる人にぺこぺこされるのは、落ち着かない気分になるわね。
この世界では身分がものを言うのでこれが当たり前なのだけど、年上の人に頭を下げられると、わたしまでぺこぺこ頭を下げたくなるわ。
お兄様もアレクサンダー様も、丁寧な口調で「突然の訪問すみません」なんて言っているけれど、態度は明らかに上位者のそれだ。自分たちの方が上位であるという姿勢は崩さない。
だから、わたしもぺこぺこしちゃダメなんだろうけど、うぅ、胃が……。
オルヒデーエ伯爵はヴォルフラムを二十歳ほど年を取らせたような顔をしていた。つまり、超イケメン。イケオジ。
……前世で三十歳まで生きたわたしとしては、むしろ同級生よりこっちの方が好み……と、いかん。相手は既婚者だ。そして今日は真面目な話をしに来たのである。大人の色香にくらりと来ている場合ではない。
わたしがオルヒデーエ伯爵に一瞬でも(一瞬ではなかったけど)見とれたのがわかったのだろう、お兄様から鋭い視線が飛んで来た。
怖いので、つーっと視線をそらしておく。
ソファを勧められたのでわたしたちが腰を下ろすと、伯爵がベルでメイドを呼んでティーセットを持ってこさせる。
……どうでもいいけど、あっちにもソファがあるのに、なんでわたしを両脇に挟むのかしら、お兄様とアレクサンダー様ったら。
三人座っても余裕がある大きなソファとはいえ、口の字型にソファが配置されているのだから、わざわざわたしを挟んで座る必要なくない?
右にお兄様、左にアレクサンダー様に挟まれて、わたしはちょっとそわっとしてしまいますよ。
お兄様は相変わらずエキゾチックな香りを身にまとっていらっしゃいますし、アレクサンダー様はアレクサンダー様で、さわやかなシトラス系のコロンをつけていらっしゃる。
しかも二人とも、わたしにぺったりとくっつくように座るから、ちょっと身じろいだだけで腕とか肩とかが当たっちゃうのよね。なんでこんなにくっつく必要があるのかしら?
まるで見張っていないとどこに行くかわからない幼児扱いされている気分である。
そんなに張り付いていなくても、わたしはふらふらと遊びに行ったりしませんよ!
ティーセットが運ばれてくると、伯爵が困惑した顔で口を開いた。
「あのぅ、それで、本日はどのような……。息子が何かご迷惑をおかけいたしましたでしょうか?」
伯爵、わたしたちの倍は生きているんだから、そこまでへりくだる必要はないと思うけどな。
もっと堂々と「何か用か?」くらいでいいと思うよ。
なんとなくだが、顔立ちがそっくりのオルヒデーエ伯爵とヴォルフラムは、性格はあまり似ていない気がする。オルヒデーエ伯爵は小心者って感じだわ。
「本日はご報告とご相談が会って参りました」
お兄様が代表して口を開く。
「金曜日……正確には木曜日の夜になるのでしょうか。ご子息が何者かに攫われました。男子寮の部屋に侵入した複数名の男が、ヴォルフラム君を攫って去ったそうです。ヴォルフラム君の使用人は縛られてその場に取り残されており、彼の証言から、義賊黒豹の仕業ではないかと思われます」
「なんですって……⁉」
オルヒデーエ伯爵は腰を浮かすと、そのまましばらくの間、青ざめた顔で凍り付いたように固まってしまった。
……うん、何か、心当たりがありそうですね!
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今日の21時から
「わたしを「殺した」のは、鬼でした」
という新連載をはじめます。
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