オルヒデーエ伯爵家の事情 2
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放課後、アレクサンダー様も加えて、生徒指導室にわたしたち四人が集まった。
今朝共有した情報をアレクサンダー様にも伝えると、アレクサンダー様はわたしを見つめて困ったように眉尻を下げる。
「君は、目を離すと何をするか本当にわからないな」
あぅ、わたしにお説教をしそうな人がもう一人増えてしまった……。
でも、劇場のことも、寮にヒルデベルトが侵入したことも、不可抗力だと思いますよ。わたしが招いたことではない……はずです。たぶん!
「はあ、まあいい。お説教は後にしよう」
うぅ、お説教が確定してしまった……。
なんか最近、わたし、みんなに怒られてばっかりな気がする。おかしい、こんなはずでは。というか、いろいろ問題行動を起こしていた去年の方が怒られなかったのは何故なのかしら? 解せぬ。
「それでアレクサンダー、何かわかったのかい?」
お兄様がアレクサンダー様に訊ねる。
アレクサンダー様は頷いて、前世で言うところの文庫本サイズくらいの手帳を取り出した。おぉ、綺麗な字でびっしりと書き込まれていますよ。几帳面な性格がよく表れている。
「聞き出すのに手間取ったが、ヴォルフラム・オルヒデーエを攫ったのは、義賊黒豹である可能性が極めて高そうだ」
「え? どういうことですか?」
何故、黒豹がヴォルフラムを狙うのだろう。
わたしが怪訝そうな顔をすると、お兄様とアレクサンダー様の二人が逆にわたしを不思議そうに見やった。
「マリア、お前の情報では、黒豹のヒルデベルトという男が、ヴォルフラム・オルヒデーエを探っていたんだろう? 別におかしいことではないじゃないか」
「えっと……」
あー、そうだったわ‼
黒豹が二つに分裂して争っていることは二人とも知っているけど、ヒルデベルトが白獅子という新たなグループを作ったことは、二人とも知らないんだった。
白獅子の名前はまだ表に出ていないし、わたしがそれを知っているのもおかしいからわたしもその名前は出していない。
だからややこしいことになってしまっているのだろう。
わたしは言葉を選びながら、二人に確認を入れた。
「あの、黒豹は今、二つのグループに分かれて争っていますよね。ええっと、ヴォルフラムを攫ったのは、そのうち、どちらのグループなのでしょうか?」
「ヒルデベルトという男がいる方のグループではないのか?」
アレクサンダー様が首をひねる。
わたしは頭を振った。
「あの、ヒルデベルトはヴォルフラムによく似た顔立ちをしているんです。ヴォルフラムの使用人は、ヴォルフラムに似た男が攫ったと言っていましたか?」
「そこまでは確認していないが……、そうか、今のこの段階で、ヒルデベルトという男のいるグループだと決めつけるのは証拠が足りないかもしれないな」
アレクサンダー様はヒルデベルトが怪しいと踏んでいたらしい。だけど、わたしにはヒルデベルトがヴォルフラムを攫った犯人だとは思えなかった。
というのも、ヒルデベルトは、グループを率いているにはいるけれど、一匹狼のようなところがあって、あまり手下どもを率いて行動しないのだ。手下には別の指示を出し、自分は独断で動く。そう言うところがあるのである。
もちろん、手下を使ってヴォルフラムを攫わせた可能性もないわけではないが、わたしの部屋に単独で軽々と侵入してきた彼が、わざわざ手下に命令するだろうか。
……たぶんだけど、ヒルデベルトなら、一人でヴォルフラムを攫えるわ。
ヴォルフラムも強いが、ヒルデベルトは長年義賊黒豹で活動していたために実戦経験が豊富だ。ただの学生であるヴォルフラムでは、ヒルデベルトにはかなわないだろう。
もちろんこれはわたしの推測でしかないが、ヒルデベルトは違う気がするのだ。
「黒豹のどちらのグループが犯人であるかは、あとから考えればいい。他に情報はないのか?」
「そうだな。他に聞き出したことだが、どうやらオルヒデーエ伯爵は、ボールマン伯爵に脅されていたらしい。何度訊ねても、これ以上は自分の口からは言えないと言われて詳しことまではわからなかったが、それに黒豹が関係している可能性がありそうだ。……オルヒデーエ伯爵に直接確認を入れた方がいい気がするが、どう思う?」
「私もこちらで想像を重ねるよりはその方が確実だとは思うが……ニコラウス先生、どうしますか?」
学園側で生徒の一人が攫われた。
おそらく、この情報はまだ口外されていない。学園の名誉にかかわるからだ。
オルヒデーエ伯爵家にも、もしかしたらまだ連絡を入れていない可能性があった。連絡を入れて責任を追及されると学園側としても痛手である。秘密裏に解決できるものならそうしたいと考えていてもおかしくない。
ニコラウス先生は、ぎゅっと眉を寄せる。
ニコラウス先生がどう考えても、最終的に決定を下すのは学園の学園長や理事たちだ。
「……正直に言いますと、教師の立場である私は、現時点で動けません」
……つまり、学園側としてはまだ知られたくないと言うことだろう。
オルヒデーエ伯爵家の使用人を学園側で拘束して情報を聞き出したと言うことは、そう言うことだ。使用人を伯爵家に帰せば一発で知られてしまうので、それを恐れて学園側にとどめているのである。
「学園側の思惑も理解できますが、それほど長く秘密にはできませんよ」
「ええ、そうでしょうね。おそらくこの土日で解決できなければ、学園側もオルヒデーエ伯爵家に連絡を入れるはずです。……ですが」
今の段階では、ニコラウス先生ではどうしようもない、ということだろう。
この学園の理事長は、国王陛下だ。
学園で何か問題が起これば、その問題の大きさによっては国王陛下の責任になる。
……国王陛下に黙っておけと言われたら、この国で逆らえる人はいないわよね。
つまりは、最低でもこの土日は動くなと言うことだ。
でも、呑気に来週を待っていて、ヴォルフラムの身に何かあったらどうするというのだろう。
国王陛下の名前を傷つけてはならない。それはわかるけれど、最悪命に係わる問題かもしれないのに!
歯がゆい気持ちでお兄様を見たら、お兄様とアレクサンダー様が顔を見合わせて何か相談をはじめていた。
お兄様が、ちょっと人の悪い笑顔を浮かべている。
……あら、悪だくみかしら。
お兄様の悪だくみは怖いけれど、何故か今回は安心してしまった。
お兄様がうまく上を説得してくれる、そんな気がする。
しばらくアレクサンダー様と内緒話をしていたお兄様は、ニコラウス先生を見てにこりと笑った。
「わかりました。その点は、こちらで陛下に掛け合って見ます。……ちょっとした貸しもあるので、大っぴらに動かないのであれば許可をしてくれると思いますよ」
あら、貸しって何なのかしら?
わたしが首をひねっていると、アレクサンダー様が茶目っ気たっぷりに片目をつむる。
「マリアがあんなに大怪我をする羽目になったんだ、あの貸しは、こんなものでは全部返せないだろうけどね」
ああなるほど。
墓地の結界の件を持ち出してゆする――ごほんごほん、説得するつもりなんですね。
お兄様もアレクサンダー様も悪いことを考えるものである。
だけど、わたしはもちろん反対しませんよ。
優先すべきは、ヴォルフラムを救出することですからね‼
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