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攫われた攻略対象 4

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 放課後、わたしはヴォルフラムと共に生徒指導室にやって来た。

 するとそこにはお兄様とアレクサンダー様の姿もあって、一瞬、回れ右をして帰りたくなる。


 ……なんでお二人がここに⁉


 これはオリエンテーションのあとの再現ではなかろうか⁉

 そしてわたしは三人からお説教されるのだ。いやすぎる‼


 わたしが内心びくびくしていると、ニコラウス先生が優しい微笑みを浮かべて「どうぞ」と椅子を示してくれる。


 ……はい、座ります。逃げられないのはわかっていますからね。


 ヴォルフラムの隣に座ると、テーブルを挟んで反対側にニコラウス先生とお兄様、アレクサンダー様が座った。


「呼び出してしまってごめんなさいね。ツェリエさんと、それから居合わせた生徒たちから事情は聞いたのですけど、お二人からも詳しいお話を聞きたかったので」


 ニコラウス先生はそう言うけれど、もう、何があったのかはだいたい把握しているようだった。お兄様やアレクサンダー様からも話を聞いたのだろう。

 わたしに説明させるよりヴォルフラムの方が適任だと、三人の視線は彼に向いている。

 わたしだって説明くらいできるんですけどね。

 まあ、わたしに説明させると、要点もまとめず時系列順にあったことをだらだらと喋ると思われているのだろうから、ヴォルフラムに説明させようとする三人の考え方は正解だと思いますけどね!


 ヴォルフラムが、ツェリエに話しかけられたところからかいつまんで説明してくれる。

 ニコラウス先生が把握していた情報と一致していたようで、特に質問も入らなかった。


「ありがとう、理解できました。ツェリエさんはマリアさんが悪いの一点張りでしたけど、他の生徒たちの目撃情報とあなたの証言から、マリアさんには非はなさそうですね。とはいえ」


 ニコラウス先生が、困った顔で机の上に指を込んでその上に顎を載せる。


「ヴォルフラム君とツェリエさんの婚約が本当の話であれば、婚約者がいる身で、その婚約者に事情を説明せずに、特定の女性とずっと行動を共にするのは褒められたことではありません。マリアさんの場合は、婚約者であるジークハルト君が事情を把握していたから問題はないのですが、ヴォルフラム君は、先にツェリエさんに事情を説明しておくべきではなかったのでしょうか?」


 ヴォルフラムがわたしに張り付いている理由をツェリエに説明していたら、あのような誤解は招かなかったのではないかとニコラウス先生は言う。

 しかし、ヴォルフラムは首を横に振った。


「すみませんが、俺はツェリエ・ボールマンに説明の必要があるとは思いませんでした。何故なら俺は彼女と婚約するつもりはないからです。婚約の話も、彼女と父親であるボールマン伯爵が言い出したことで、我が家は了承しておりません」

「それはおかしな話ではないだろうか」


 ヴォルフラムの説明に、アレクサンダー様が割って入った。


「その説明だと、婚約話は流れたのだろう? それなのにツェリエ・ボールマン伯爵令嬢が君の婚約者を名乗るだろうか?」


 すると、ヴォルフラムは痛いところを突かれたという顔をして視線を落とした。


「我が家の事情です、これ以上詳しいことは申せません。ただ、俺にはその意思はないし、だから彼女にわざわざ説明する必要も感じなかった。それだけです」

「それだけと言うが、そのせいで私のマリアが巻き込まれたんだがね」


 私のマリア、という部分をやけに強調しながらお兄様が言った。


「まあ、あの場で一番問題になったのは、彼女が勘違いをしてマリアに牽制した、ということではなく、そのあとのツェリエ・ボールマン伯爵令嬢のマリアへの暴言の方なのだから、あの騒動のすべてが君のせいとは言わないが」


 そうですよお兄様。ヴォルフラムはむしろ被害者だと思いますよ。あの状況でヴォルフラムにツェリエの発言や行動の責任を追及するのは酷というものです。

 うんうんとわたしが頷いていると、お兄様があきれた顔をわたしに向けた。


「マリア、関係ないみたいな顔をしているが、お前も当事者なんだよ? 下級生にあれだけ好き勝手言われて、何も言い返さなかったのは問題だ」


 うへっ、飛び火してきた!


「そ、そう言われましても……」


 だって、あの状況を綺麗にまとめるのはわたしには難しい問題でしたよ。

 ええ、下手なことを言えばわたしへのツェリエの不敬罪が確定したでしょう? 不敬罪まで言わなくても、侮辱罪くらいは確実だったよ。


 だからわたしは、なんとかして穏便に納めようと、必死で考えて考えて考えて――結局なにも名案が浮かばなかったから大人しくしていただけです!


 だがこの言い分ではお兄様は納得しないだろう。

 きっと、何故ツェリエのことを考えてやる必要があるんだい、とかなんとか言われる。

 わたしだって、あれだけ好き勝手なことを言ってきたツェリエをかばうのはおかしいと思わなくもないけど、前世の記憶があるからか、どうも身分的な制裁が加わるのは抵抗があるというかなんというか……。

 これがほかに影響が出ない、一対一の喧嘩なら、多少なりとも言い返したと思いますよ。


 そんな言い訳を心の中でしていると、アレクサンダー様がお兄様を止めてくれた。


「ジークハルト、マリアは優しい女性だ。下級生に好きに言われても、受け止めるだけの寛容さがあるんだろう」


 いえアレクサンダー様、わたしは別に寛容でもなんでもないですよ。


 アレクサンダー様の中のわたしが、どんどん美化されて行っているような気がするのは何故だろうか。そろそろ現実を見てほしい。わたしはそんなにできた人間ではないですからね。

 その点、お兄様はわたしのことをよく理解していらっしゃった。


「違うなジークハルト、マリアはただ甘いだけだ。どうせ、ことが大きくなってボールマン伯爵家にまで飛び火するのは可哀そうだなくらいに思っていたに違いない」

「それを優しいというんじゃないか、ジークハルト」

「優しさと甘さは同意ではないぞ、アレクサンダー」


 あらあら、なんだか小難しい哲学的なお話になった気がするので、聞いているふりをして黙っておこう。あれはたぶんわたしには関係のない話――


「マリア、聞いているのか」


 ではなかったらしい。


 あう、お兄様、そうは言いますけどね、可哀想じゃないですか。子供の行動は親の責任とは言いますけど、それで貴族社会でつまはじきにされるのはあんまりというものですよ。

 それでなくともオリエンテーションのときのことを、お兄様は許す気はなさそうですもの。これ以上の制裁が加わりそうな案件はいりません。


 わたしの顔には不満がありありと描かれていたのだろう。お兄様が、まったく、とこめかみを押さえる。


「その様子だと、マリアはことを大きくしたくないみたいだね」

「その通りです」

「……だ、そうですが。ニコラウス先生、どうしますか?」


 お兄様がニコラウス先生に視線を向ける。

 ニコラウス先生は、少し考えて答えた。


「学園側としても、今回の件はさすがに問題があると考えています。とはいえ、学園の中での出来事です。マリアさんが納得してくださるのであれば、今回は学園内だけの処理とさせていただければありがたいですね」

「学園内での処理といいますと?」

「まず、ツェリエさんには厳重注意の上、反省文を書いていただきましょう。加えて三日間の寮での謹慎処分が妥当でしょうか。あまり長く謹慎させますと、学業にも響きますからね。ジークハルト君、いかがですか?」

「アラトルソワ公爵家としては、甘すぎて納得はできないとだけ伝えておきます。ですが、マリアが望んでいるのであれば今回は学園側の希望に従いましょう」

「ありがとうございます、ジークハルト君。ヴォルフラム君もそれでいいですか?」


 ヴォルフラムはちらりとわたしを見てから頷いた。


「アラトルソワ公爵令嬢がそれでいいというのであれば、俺に異論はありません」

「わかりました。それでは二人は帰っていいですよ。ジークハルト君とアレクサンダー君はもう少し残ってください。学園内で納めるとはいえ、保護者に何の連絡もしないわけにはいきませんからね。こちらで決まった内容をまとめますので、サインを頂けると嬉しいです」


 お兄様がオッケーを出しても、お父様がどう動くかわからないからね。こう言う内容で決まったよという書類を先に作っておきたいわけね。ニコラウス先生、ふんわりした雰囲気だけどさすが生徒指導室を任されるだけあるわ。

 そこにアレクサンダー様を加えるのは、第三者のサインがほしいからだろう。ナルツィッセ公爵家の次期当主であるアレクサンダー様のサインまで入っていたら、お父様としてもごねようがないでしょうからね。


 ……うんうん、わたしに過保護なお父様の性格を、ニコラウス先生はよく熟知しているわ。


 わたしは後のことはニコラウス先生たちに任せることにして、ヴォルフラムと共に生徒指導室を後にした。





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