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攫われた攻略対象 3

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 ……誰だよ二人を呼びに行った人は! 余計に面倒くさくなったじゃない! 

 

 呼んでくるのならせめてニコラウス先生にしてほしかった。ニコラウス先生ならやんわりとこの場を納めてくれたはずなのに。


 お兄様たちが来てしまったせいで、余計に注目度が高まった。

 次から次へと生徒たちが集まって来る。


 ……うぅ、またわたしが騒ぎを起こしているって思われてるのかも。わたしじゃないのに~!


 いっそ、「わたし何も知りません」って顔をして逃亡していいだろうか。

 うん、それが一番の安全策な気がしてきたよ――って、ツェリエ、あんた何してんの!


「アレクサンダー様ぁ! アラトルソワ先輩がひどいんですぅ。助けてください~!」


 ツェリエはこの場にアレクサンダー様が駆けつけてきたのを見つけると、目に涙を浮かべて彼の元に走っていく。


 ……あの子、さっきヴォルフラムの婚約者になる予定だとかなんとか言わなかった? あれ、逆か。ヴォルフラムが彼女の婚約者になる予定って言ったのか。まあ、どっちでも一緒よね。とにかく、婚約が内定しているヴォルフラムが目の前にいるのに、違う男性にすり寄るのはいかがなものかしら。


 去年まで散々な行動を取っていたわたしが言えた義理じゃないけどね。


 ちらりとヴォルフラムを見れば、ものすっごい仏頂面になっていた。

 この顔を見れば、ツェリエとの婚約が彼が望むものでないことはなんとなくわかる。わかるけど、貴族の結婚に感情は優先されないからねえ。


 可愛そうになって来て、わたしがポン、とヴォルフラムの肩を叩けば、彼は怪訝そうな顔をわたしに向けた。


「何、自分は蚊帳の外みたいな顔をしているんだ? 俺のせいでもあるのでこんなことは言えた立場ではないが、この収拾をどうつけるつもりなんだ」


 くそぅ、人がせっかく静かにフェードアウトしようと考えていたのに、余計なことを言うわねヴォルフラム。


 わたしはちらりとツェリエを見て、それから苦し紛れに返す。


「か、彼女が反省しているのなら、わたしは事を荒立てる気は……」

「アレクサンダー様ぁ、聞きました? まるでわたくしが悪いみたいに……。アラトルソワ先輩、ひどいです!」


 おい! 人がせっかく穏便にまとめようとしているんだから、黙っててよ!


 アレクサンダー様はわたしとヴォルフラム、そしてツェリエを見て「何があったんだ?」とわたしに問いかけてきた。

 お兄様と言えば、その間にさっさと近くの生徒を捕まえて状況確認をはじめている。

 アレクサンダー様はツェリエにしがみつかれているので、それができなかったようだ。


「ええっとですね……、簡単に言うと、わたしとヴォルフラムが」

「ヴォルフラム」


 何故か、アレクサンダー様がヴォルフラムの名前を繰り返した。ヴォルフラムのことを知らないのかしらと思って、わたしは先に彼を紹介することにする。


「あ、彼がヴォルフラムです。ヴォルフラム・オルヒデーエ」

「知っているよ。オルヒデーエ伯爵令息だろう」


 あれ、知っているのにアレクサンダー様なんでヴォルフラムの名前を繰り返したのかしら?

 考えてもわからなかったので、特に意味はなかったのだろうと、わたしは話しを続ける。


「それで、ヴォルフラムとわたしが階段を上っているときに、ツェリエ・ボールマン伯爵令嬢がやって来て、ヴォルフラムは自分の婚約者になる人だから気安く近づかないでとおっしゃられまして、そうしたら今度はヴォルフラムがいきなりわたしを非難するのは問題だとツェリエ・ボールマン伯爵令嬢に注意をして、それで……」

「マリア・アラトルソワ、君の説明は順を追っていて丁寧だと思うが、その調子で説明されると時間がかかりすぎる。あとは俺が説明しよう」


 一生懸命思い出しながら説明していたわたしをヴォルフラムが止めて、先ほどまでのことを端的にアレクサンダー様に説明した。


 ええっと、ヴォルフラムに説明させると「ツェリエ・ボールマンがマリア・アラトルソワに対して無礼を働いた」という一言で片付いちゃったんだけど、それはどうかと思うわよ。

 だというのに、アレクサンダー様は納得して頷いちゃっている。

 ツェリエはツェリエで顔を真っ赤にして「違います! アラトルソワ先輩が悪いんです!」と叫んでいた。


 ……わたしの悪役令嬢的勘によると、こういう場合は、回りまわってたいていわたしが悪いことになると思うのよ。うー……、どうしたものかしら。


 ぐぬぬ、と唸っていると、アレクサンダー様がツェリエの腕を引きはがし、わたしたちに向かってゆっくりと近づいてきた。

 そして何故かわたしを守るように前に立ちはだかる。


「ツェリエ・ボールマン伯爵令嬢、悪いが、私にはマリアのどこが悪いのか理解できない。彼女は優しく素晴らしい女性だ。君の勘違いだろう」


 おぉ、その手がありましたか! ザ・勘違い! その手で行きましょう! それで押し通せば、この場も上手く収拾が……。


 と、せっかくわたしが活路を見つけてルンルンになったというのに、周囲からの事情聴取を終えたお兄様が、冷ややかな笑顔で顔を上げた。

 わたしは即座にひゅっと息を呑んでお口にチャックする。

 こういう場合は、わたしは余計なことを言ってはダメなのだ。


 ……あぅあぅ、お兄様ごめんなさい。マリアは公爵令嬢としてこの場をうまく納められませんでした。でも頑張ろうとしたんですよ。頑張りだけは認めてくださいませっ!


 ああ、お説教されるとびくびくしていると、何故かお兄様まで階段を上って来て、わたしを背にかばうように立つ。

 なんか雲行きが、わたしが思っていたのと違うな~と思っていると、お兄様がツェリエを冷ややかに睥睨した。


「状況はわかった。後日、我がアラトルソワ公爵家よりボールマン伯爵家へ苦情を入れさせていただく。私の妹に対する君の暴言は、目に余るようだ。それからもう一つ、オリエンテーションのときにマリアが君たちに生野菜をかじらせたという発言だが撤回してもらおう。あの時、君たちは率先して生野菜をかじるという選択をした。マリアがせっかく料理をしてくれたというのに、君たちは歯牙にもかけなかったではないか。そうだったなアレクサンダー?」


 水を向けられたアレクサンダー様は、少々バツの悪そうな顔をしつつも頷く。


「その通りだ。マリア、あの時は本当に失礼なことをしてしまって、申し訳なかった。……正直に言うと、君の作ったカレーはとても美味しそうだったから、食べてみたかったんだが、その、プライドが邪魔をして……。よかったら今度、あの時のカレーを作ってくれないだろうか」

「アレクサンダー、誰がマリアに手料理のおねだりをしろと言ったんだ。マリアが手料理をふるまうのは未来の夫である私に対してだけだよ。勝手なことを言うんじゃない」


 ……あのぅ、お兄様、アレクサンダー様、微妙に論点がずれていますよ。


 それから、カレーが食べたいのならばいつでも作りますよ。というよりわたしもカレー食べたいです。我が家の料理人は庶民料理だからってカレーなんて作ってくれませんし、寮生活でも食事は寮で雇われている料理人がふるまってくれますから、作る機会なんてありませんからね。作らせてもらえるのなら喜んで作りますとも。


 なーんてことを言い出すと、もっと話が脱線する気がしたので言いませんけどね。

 お兄様とアレクサンダー様二人に責められて、ツェリエは顔色を失くしていた。


「わ、わ、わたくしは……」


 震える唇で何か言いかけて、ハッと目を見開くと、今度はキッとヴォルフラムを睨む。


「ヴォルフラム様、何とか言ってくださいませ! 婚約者であるわたくしが、ありもしない罪で責められていますのよ!」


 わーぉ、婚約予定者から、婚約者に勝手に昇格してるよ。

 それから、ありもしない罪と言いきっちゃったね。お兄様の顔が……うぅ、怖い。


「そもそも、わたくしの婚約者であるヴォルフラム様にアラトルソワ先輩がつきまとっているから悪いんですわ! ええ、去年の噂も聞きましたけど、本当に、男性と見たら全員につきまとうのですのね! 信じられない……!」


 信じられないのはあなたですよツェリエ・ボールマン。この期に及んで、まだそんなことを言っていますけど、状況を理解できていますか? おバカなわたしでも理解できますよ。あなたが余計なことを言うたびに、どんどんあなたのお父様の首が締まっていくんですけど、大丈夫なのかしら?


 少なくともアラトルソワ公爵家とそれと同じ派閥の人間は、ボールマン伯爵家を相手にしなくなるだろう。

 アレクサンダー様の表情を見るに、ナルツィッセ公爵家も、もしかしたらそうなるかもしれない。

 五家しかない公爵家のうちの二家を敵に回すのは、さすがに自殺行為ですよ?


 ……うぅ、どうしよう。


 このままだとまずい。

 だけどわたしがかばおうとすると、お兄様の怒りの矛先が間違いなくわたしに向く。

 アレクサンダー様も怒るかも。

 二人にお説教されるのはもうこりごりなので、できればわたしは二人を怒らせたくない。


 ……誰か助けてえ!


 そんなわたしの祈りが天に通じたのか。

 はたまた、いつまでも階段で騒いでいたからなのかは知らないが、騒ぎを聞きつけてようやくニコラウス先生が駆けつけてくれた。

 ニコラウス先生はきょとんとした顔をしてから、近くの生徒に事情を聞くと、ツェリエの背にそっと手を回す。


「君たち、あまりのんびりしていると、授業がはじまってしまいますよ。ツェリエさんは私と一緒に来てくださいね。……それから、マリアさん、ヴォルフラム君、二人は放課後、生徒指導室に。ああ、マリアさん、今日のいつものやつは、お休みにしましょう」


 大勢の生徒の前で「補講」という言葉を使わないニコラウス先生は、本当に人間ができているわ!

 でも、放課後、生徒指導室にお呼び出しなのね。


 わたしはしょんぼりしつつも、この場をうまく納めてくれたニコラウス先生に感謝しながら「はい」と素直に返事をした。





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