表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/149

攫われた攻略対象 2

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

 ……それにしても、ヴォルフラムが婚約? いやいや、ゲームではそんな設定ありませんでしたよ。ヴォルフラムに婚約者なんかいなかったもん。


 突然の「近づかないでくださいませ」宣言に驚いていたわたしだったが、ちょっと冷静に戻ると、頭の中に疑問がポコポコと湧いてきた。

 ゲーム「ブルーメ」のストーリーでは、ヴォルフラムに婚約者がいるという情報は出たことがないし、かつていたという話も出たことがない。

 そして現実世界のここでも、これまでヴォルフラムが婚約するという噂は訊かなかった。


 貴族社会――とくに、注目を集める高位貴族の間では、プライバシーなんてあってないようなものだ。

 もちろん、王族や公爵家などという権力者が本気で情報の秘匿に動けば話は別だが、はっきり言って、どこそこの誰が誰と婚約するだの恋仲になっただの、果ては浮気しているだの不倫しているだのという超プライベートな情報は、結構あっちこっちで噂されていたりする。


 使用人を大勢雇っていて人の出入りも激しい貴族は、意外と情報セキュリティーが甘い。

 そして、派閥だなんだと水面下でお互いの足の引っ張り合いに忙しい貴族は、敵視している相手の情報を何とか仕入れて陥れようとしてくるので、そう言ったところからも不名誉な情報はすぐに拡散される。

 それが不名誉な情報でなくとも、娯楽に飢えている貴族たちは何か新しい情報を仕入れたらすぐに拡散したがる傾向にあった。


 学園の人気者の一人であるヴォルフラムが婚約、もしくは婚約内定ともなれば、あっという間に拡散されてもおかしくない情報である。


 ……わたしだけが知らなかったってこともないでしょうし。というか、そんな噂があれば、ヴォルフラムがわたしを守ると言った時点で耳に入っているでしょうよ。婚約者になるかもしれない女性がいるのに、他の女性と行動を共にするのは、批難されて当然だもの……ってちょっと待って。ということは、この子が本当にヴォルフラムと婚約するのなら、わたし、批難されて当然の立場じゃない!


 ヴォルフラム、そう言う大切な情報は先に言いなさいよね、とわたしはヴォルフラムを責めたくなってきた。

 知らない間に非難される立場にいたなんて冗談ではない。


 わたしがこの場をどう切り抜けたものかと悩んでいると、ヴォルフラムが嫌そうに彼女の腕を引きはがした。


「ツェリエ・ボールマン嬢、事情も知らずにいきなりアラトルソワ公爵令嬢を非難するのは失礼だろう。第一、彼女は君の先輩で、公爵令嬢だ。いくら学園内とはいえもう少し立場を考えたらどうだ」


 あら、ヴォルフラムがかばってくれたわ。なんだか新鮮ね。

 というか、彼女の名前はツェリエ・ボールマンだったわね。


 ……うん? ボールマン?


 そう言えば、ヒルデベルトに劇場で会った時、彼はボールマン伯爵を探していたようだったわね。これは偶然なのかしら?

 ヴォルフラムとヒルデベルトは、生き別れた兄弟でもあるし、なんだかこれは無関係ではないような気がしてきたわ。考えすぎかしら……と、わたしがぼけっと考え込んでいると、ツェリエがふんと鼻を鳴らした。


「まあ、ヴォルフラム様こそ何をおっしゃいますの? その方のどこに敬意を払えばよろしいのか、わたくし、わかりませんわ。だってそちらの方はルーカス殿下を追いかけまわしてご不興を買ったばかりか、大勢の男性に色目を使って相手にもされなかった落ちこぼれの公爵令嬢ではありませんか。成績もものすごく悪いのでしょう? そうそう、オリエンテーションのときに初級魔法に失敗しているのも見えましたわ。食事のときも、わたくしたちに生野菜をかじることを強要して、自分だけ食事をするような底意地の悪い方ですし、はっきり言って、先輩だとも思いたくありませんわ」


 前半はともかく、後半は自分たちが生野菜をかじるという選択をしたくせに、わたしのせいにされている。

 さすがにムッとしたが、わたしが言い返す前にヴォルフラムが口を開いた。


「君は何もわかっていないようだな。君の今の発言は、彼女を批判すると同時にアラトルソワ公爵家を陥れる発言だ。伯爵家が公爵家を非難することがどれほど恐ろしいことか、その年になってもまだ理解していないとは驚きだ」


 するとツェリエは顔を真っ赤に染めて、キッとわたしを睨みつける。……だから、なんでわたしを睨むのかしら。


「学園内では身分に関係なく平等だと、学園規則にありますわ。それなのに、その規則を無視して身分を振りかざすなんて、なんて性格の悪い方なのかしら!」


 いやいや、わたしは何も言ってないよね?

 それに、ヴォルフラムの言ったことは正しいよ。

 学園内では一応、多少の無礼は見て見ぬふりはされているけど、一歩学園の外に出たら違う。

 そして、学園内のこととはいえ、行き過ぎた行動や発言は、当然問題視される。


 学園内で彼女におとがめがなくとも、外で暮らしている彼女の親におとがめがないとは言い切れないのだ。


 ……わたしも去年まで大概な行動を取ってたけど、それでも一応、このあたりのことは理解して行動していたのよね。だから「バカな子」くらいですまされていたのよ。


 わたしは高飛車な行動を取っていたし、迷惑を顧みずにルーカス殿下やアレクサンダー様たちといったイケメンたちを追いかけまわしていたけれど、ルーカス殿下に対して、無礼な発言はしていない(迷惑はめちゃくちゃかけたけど)。


 つまり、殿下を慕うあまりの超傍迷惑な自己アピール、というレベルで納められていて、学園の外は問題視されていない。そうでなければとっくに王家から公爵家に苦情が入っている。

 まあ、あれほど迷惑をかけておいてその程度で許されていたのは、わたしが公爵令嬢だったからだろう。これがもし伯爵家以下のご令嬢であったらこうはいかなかったはずだ。


 ……あんなに迷惑をかけていたわたしでも、一応は殿下の婚約者候補だったからねえ。


 そして、王家が苦情を入れない以上、他の家がアラトルソワ公爵家に対して文句をいえるはずもない。

 だから黙認されていたのだ。


 でも、ツェリエの今の発言は違う。

 オリエンテーションのときのわたしへの態度の問題もあって、恐らく学園が夏休みに入ったあたりで、お兄様とお父様から彼女と、同じグループだったもう一人の新入生の女の子の家には苦情が入れられるはずだ。

 さらに今の発言まで問題視されれば、場合によっては公爵家に対する不敬罪が適用される。


 公爵家は準王族扱いでもあるので、その家に対する侮辱は、不敬罪が適用される対象になるのだ。


 もっとも、王家のそれほど厳しくはないので、厳重注意か罰金程度ですまされることが多いけれど、貴族社会ではかなりの汚点となるだろう。

 少なくとも、アラトルソワ公爵家の息のかかった貴族は、彼女の家を相手にしなくなる。


 ……つくづく身分社会って怖いわ~。


 ゲーム「ブルーメ」で悪役令嬢マリア・アラトルソワは破滅したが、現実世界では誰もが小さなきっかけで破滅を迎えてしまう可能性がある。それが貴族社会だった。

 だからこそ、わたしはここで不用意な発言ができない。

 もしわたしがここで彼女を糾弾した場合、彼女のわたしへの不敬罪が確定するだろう。

 今回はわたしがちょっとのことで目くじらを立てたとして見逃してはもらえない。何故なら、彼女の今の発言は、ヴォルフラム以外にも、近くを歩いていた人たちに聞かれていたのだから。


 ……さて、どうするべきかしら。何も言わないのはわたしの立場的に、下級生の伯爵令嬢に舐められたまま何も言えない公爵令嬢、なんて言われかねないから何も言わないわけにはいかないんだけど、かといって何か言えばボールマン伯爵家の、アラトルソワ公爵家への不敬罪が確定しそうなのよねえ。


 さて、困りましたよ。

 お兄様から「お前は考えることには本当に向いていない」と言われるわたしにとって、かなりの難問です。


 何というのが一番穏便にこの場を納められるのかしら?


 一番いいのは、ツェリエが今の発言を謝罪して、それをわたしが受け入れたという形を取るのがいいのでしょうけど、彼女、絶対に謝罪なんてしそうにないし。


 朝から面倒くさいことになったなあと思っていると、騒ぎを聞きつけて、アレクサンダー様とお兄様が駆けつけてきてしまった。





ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ