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攫われた攻略対象 1

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 何かあれば言えとヴォルフラムにもお兄様にも言われていたけれど、夜にヒルデベルトが侵入してきたとはさすがに言えない。


 夜に侵入者を許したともなれば、ヴィルマが叱責されるだろうし、学園側に知られたら女子寮にめちゃくちゃ警備がつくだろう。

 そんなことになれば、わたしが喋ったのは一目瞭然で、ヒルデベルトに「ばらしたな」と今度こそ首ちょんぱされる可能性がある。


 結果、わたしの中で、昨夜のことはなかったことにする、という結論が出た。

 ちょっと前にお兄様に「お前は考えることには本当に向いていない」と言われたけれど、そんなの知らない。だって相談できる相手がいないんだから、わたし一人で結論を出すしかないでしょう?


 朝、女子寮の玄関前まで迎えに来てくれたヴォルフラムと一緒に学園へ向かう。


「ヴォルフラム、今日は補習の日だから、夕方は送ってくれなくて大丈夫よ」

「わかった。……しかし、何度聞いても耳を疑うな。補習というのはまあ君の成績からは納得なんだが、君が素直に補習を受けるとは思わなかった」


 あんまりな言いようであるが、前世の記憶を取り戻す前のマリアならば、さもありなんな状況なので笑うしかない。


「わたしだって、成長するのよ。人間だもの」

「……そうだな。それは、そうだ。だが、君の場合は差がありすぎて、頭が混乱しそうになる」


 ……まあ、わたしの場合は、いきなりマリア・アラトルソワの人格に前世のわたしの人格がのっかったから、別人みたいに変わったでしょうけどね。


 前世の方が長く生きていたので、性格も前世に引っ張られることが多い。

 別に以前のマリアが完全にいなくなったわけでもないし、記憶もこれまで蓄積してきた性格も残っているには残っているのだけど、なんて言うのかしら……、非常識なこれまでのわたしに、前世で培った常識が融合したから、ちょっとは常識的で謙虚な性格になったってことよ。


 ただ、それまでのわたしがあまりにもひどすぎたため、劇的に成長したように見えるんでしょうね。


「結婚が決まると、人間は変わるものなんだな」


 ……あら、以前ヴィルマに言われたようなことを言われたわ。


 わたしの変化が「結婚が決まったから」という理由に結び付けられて納得されるのは、何故なのだろう。


「思うに、今までの君のあれは、婚約者が決まっていなかったことへの焦りだったんだろうな。君の身分から考えると、王子殿下の婚約候補にも上がっていただろうから安易に婚約者を決められなかったのだろう。それについては同情する」


 よくわからないが、勝手に納得されて同情までされたよ。


 ……でもそっか~。見方によってはそう見えるのね。


 確かにわたしは、婚約者が決められていなかった。

 理由は公爵令嬢だからだ。

 近い年齢に世継ぎの王子がいる以上、身分の高い女性はその結婚相手の候補に選出される。

 公爵令嬢で、一番ルーカス殿下に年齢が近かったわたしは、間違いなく候補の中の筆頭であったのだ。


 この部分は政治的な思惑が絡むため、ルーカス殿下がわたしを好きか嫌いかという問題は関係ない。

 身分的に最有力候補の一人であったわたしを、国も家族も、簡単に別の男性と婚約させるわけにはいかなかった。

 だからこそ、わたしは幾人もの「婚約者候補」と顔合わせはさせられたけれど、特定の誰かと婚約はしていなかったのである。


 それがここにきてお兄様との結婚許可が下りたのは、ひとえにわたしがバカすぎたからだろう。去年一年の行動、そして成績を鑑みた結果、ルーカス殿下の婚約者候補から転がり落ちたというわけだ。

 そうでなければ、お父様とお母様が了承したところで、国王陛下が許すはずがない。

 貴族の結婚許可が下りたと言うことは国王陛下が了承したと言うことなので、すなわちそれは、わたしは未来の王妃の候補から外されたと言うことにほかならない。


「もしかして、去年の君のおかしな行動は、殿下の婚約者から外れたいがための行動だったのだろうか? だとすると、君はある意味天才だろうな。自分を愚かに見せることで、自分が一番望む相手との結婚を勝ち取ったのだから」


 あらあら、どんどん勝手な想像をして勝手に納得してくれているわ。どうしましょう。これ、否定しない方がいいやつかしら?


 でも、「自分が一番望む相手」というのが解せないわね。

 わたしはお兄様と結婚するのが最善だとは思ったけど、別にお兄様に恋をしているから結婚するのではないのよ。あくまで「契約結婚」だもの。


 ……だけど、この勘違いは、このまま放置しておくのがわたし的にも得策のような気がしてきたわ。一応良心的に受け取ってくれているみたいだし、わざわざ否定する必要もないわよね。そして否定したところで、わたしには説明はできないもの。よし、このまま便乗しよう。


「わたしも、お兄様と結婚が決まってホッとしているわ」


 よしよし、この受け答えなら、ヴォルフラムの推測を肯定も否定もしない、曖昧な感じよね。うんうん。もしこの先何か言われたとしても、誤魔化す余地を残した素晴らしい回答だわ。


「そうか、それはよかった。……いや、少し残念かもしれないな。今の君なら――、いや、なんでもない」


 ヴォルフラムが何かを言いかけてやめる。

 途中で止められると気になるから最後まではっきり言ってほしかったんだけど、言うつもりはないらしい。


 学園の玄関に到着したので、靴を履き替えてヴォルフラムと並んで階段を上っていると、背後から「ヴォルフラム様っ」と可愛らし声が聞こえてきた。

 ヴォルフラムとほぼ同時に振り返ると、赤い髪をゆるふわな感じで巻いてツインテールにしている、小柄で可愛い感じの女の子が立っている。


 ……どこかで見たような顔ね。……あ! オリエンテーションのときに同じグループだった、一年生の女の子の一人だわ。


 記憶がつながってすっきり~と頷くわたしの横で、ヴォルフラムがぐっと眉を寄せた。あら、不機嫌顔。どうしたのかしら?

 女の子はたったったっと手を横に振りながら可愛らしい感じで階段を駆け上って来る。


 そして、ヴォルフラムの腕にぎゅうっと抱き着くと、キッとわたしを睨みつけた。


「ヴォルフラム様はわたくしの婚約者になる予定の方ですのよ! 気安く近づかないでくださいませ!」


 ……おおぅ、これはもしかしなくても、修羅場ですか? 修羅場というやつですか?


 でも、わたし、何もしてませんけどね……。





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