真夜中の侵入者 2
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「なるほど、そんなことがあったのか」
わたしから土曜日のすべての情報を聞き出したお兄様は、腕を組んで眉を寄せた。
……あのぅ、お兄様。どうでもいいけど、お弁当食べませんか? わたし、お腹がすきました。そしてのんびりしていたら、ランチタイムが終わると思います。そのローストビーフサンド、食べたいです。
お兄様はわたしの恨みがましい視線に気が付いたのか、お弁当を食べていいと頷いてくれる。
わたしはホッとして自分の手元にあるお弁当の蓋を開いた。
「さっきプチトマトをもらったので、お返ししますね」
そう言ってわたしがお兄様のお弁当箱にプチトマトを返そうとすると、その前にお兄様があーんと口を開ける。
……ええっと、これは、食べさせろと言うことですね。そうですか……。
わたしはプチトマトにフォークを刺すと、お兄様の口の中に入れた。
……うぅ、恥ずかしいわ。
お互いに「あーん」しあうなんて、まるで恋人同士みたいじゃないの。あれ、でも、契約とはいえ結婚する予定だから、「あーん」しあうのは間違いではないのかしら? 恋愛偏差値が低すぎてわかりません。
「それで、土曜日にヴォルフラム・オルヒデーエに似た男に会い、お前は会ったことを他言するなと脅された。けれどもその時の様子をヴォルフラム・オルヒデーエに見られていて、他言するなという約束を守れなかったから、その男に命を狙われる可能性がある。だからヴォルフラム・オルヒデーエはお前のナイトを買って出た。そう言うことでいいのかい?」
「その通りですお兄様!」
「ふむ。一見筋は通っているように聞こえる。だけどねマリア、よく考えてみなさい。そのヴォルフラム・オルヒデーエに似た男は、お前に四六時中張り付いて、お前が自分のことを他言しないかどうか見張っているのかい? そんな無駄なことに時間を使うくらいなら、私ならさっさとお前を殺すかどこかに攫って閉じ込めるかするだろうねえ」
お兄様、さらっと怖いことを言わないでください。
でも、確かにおっしゃるとおりであります。
……ということは、わたしは考えすぎなのかしら?
お兄様は残念な子を見るような目をわたしに向けた。
「マリア、私が思うに、お前は考えることには本当に向いていない。お前が考えて出した結果は、おにいちゃまの目には、どうも頓珍漢なものばかりのように思えるよ」
「ぐ……」
その通りな気がするので、わたしは何も言えない。
お兄様はしょんぼりと肩を落としてお弁当を食べるわたしの頭をよしよしと撫でながら、「だからね、不思議なんだよ」と続けた。
……何が不思議なんですかね、お兄様。わたしの考えがいつも的外れで頓珍漢なことが不思議なんですか? わかっていますから、止めを刺しに来ないでくださいませ。
お兄様はわたしの頭を撫でるのをやめて、ふにっと指先でわたしの頬をつついた。
「ヴォルフラム・オルヒデーエは、別に馬鹿ではあるまい? 私が思ったことくらいすぐに思いついただろう。その上でお前を守るなんて言い出した。……これは何かあると、私は思うな」
「そうですか?」
昨日のヴォルフラムの慌てぶりを見るに、そんな風には思えませんけどね。
「お前は頓珍漢な上に、少々他人を信じすぎるきらいがあるね」
要するに、単純だとおっしゃりたいんですね。わかります。
お兄様は、神妙な顔をして続けた。
「いいかい、マリア。ヴォルフラム・オルヒデーエがお前を守るナイトになると言った以上、これはもうどうしようもないだろう。折を見ておにいちゃまが引きはがしてやろうとは思っているが、今それをするのは賢明ではないと思う。そして私は、彼が何を考えているのか探りたい。相手の企みがわからない状況で動くのは得策ではないからね」
企みってお兄様、その口ぶりではヴォルフラムが何か企んでいるみたいじゃないですか。
わたしを守ることで得られるメリットが、ヴォルフラムにはあるってことですか?
「しばらくは様子を見よう。ただし、ヴォルフラム・オルヒデーエと決して二人きりになってはいけないよ。いいね?」
「わかりました」
とりあえず、お兄様の指示には従っておこう。というかこういう時のお兄様の指示には従わないと後が怖い。
「よし、いい子のマリアには、おにいちゃまがデザートを進呈しよう。ほら、あーん」
お兄様、わたしはまだ、おかずを食べている途中ですよ。
でも、そのイチゴは真っ赤で艶々で美味しそうだからいただきます!
「あーん」
大きく開けたわたしの口に、真っ赤なイチゴが放り込まれる。
もぐもぐもぐ、イチゴ、あまーい! 幸せ~!
イチゴ一つで幸せになれるわたしは、お兄様の言う通り単純なのかもしれなかった。