真夜中の侵入者 1
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「お前はいつのまにか魔性の才能にでも目覚めてしまったのかな。それともあの変な店主から変な薬でも仕入れたのか……。どちらにせよ、おにいちゃまは心配だよ」
口調はとても優しいけれど、目は全然笑っていない笑顔で、お兄様がわたしの肩に腕を回した。
翌日の月曜日のライチタイム。
わたしはお兄様に強制連行されて学園の屋上のベンチにいた。
わたしの手には、お兄様がわざわざ買ってきてくれた、カフェテリアの特製弁当がある。
ブルーメ学園のカフェテリアでは、ランチやカフェメニューの提供以外にも、お弁当の提供をしているのだ。カフェテリアは混雑するので、持ち出して外で食べられるお弁当はなかなか人気が高い。
「お、おおお、お兄様、マリアは、お兄様が何をおっしゃっているのか、皆目見当もつきませんわ」
「ほほぅ、そうかい? じゃあ教えてあげよう。おにいちゃまの情報によると、お前を毛嫌いしていたはずの、お前と同じクラスのヴォルフラム・オルヒデーエが、昨日あたりからやたらとお前にべったりとくっついているらしい。これはどういうことだろうねえ」
「うぐっ」
「アレクサンダーがお前に興味を持ちはじめた時もどうしてやろうかと思ったが、また余計な羽虫が増えて、おにいちゃまはとっても心配なんだよ。ねえ、マリア」
「あぅ」
お兄様のそれは、心配なんじゃなくて怒っているんですよね。ええ、わかります。でも、怖くてそんなことは指摘できません。
というかお兄様、情報通でいらっしゃいますね。いつも思うけど、お兄様はそれらの情報を、いったいどこから仕入れていらっしゃるのでしょうか。
お兄様はお弁当の蓋を開けて、フォークでプチトマトを刺すと、わたしの口に「あーん」と近づけて来る。
わたしとしてはプチトマトよりそっちのローストビーフサンドの方が食べたいんですけど……いえ、もちろん、何も言いませんとも。
もぐもぐとプチトマトを食べていると、お兄様がこれ見よがしなため息をついた。
「お前、また何か妙なことに首を突っ込んでいるんじゃあないだろうね」
「ちがいみゃしゅ」
「飲み込んでからしゃべりなさい」
わたしは急いでプチトマトを咀嚼して飲み込むと、言いなおした。
「違います。わたしは何にも首を突っ込んでいません!」
ヒルデベルトとの邂逅は不可抗力だし、それによりヴォルフラムが守るとか言い出したのも、やっぱり不可抗力である。
そして、わたしは自分の意思で何かの問題に首を突っ込んでもいない。
だから、これは否定していいやつ!
だというのに、お兄様の目は全然わたしを信じていなさそうだった。
「では、どうしてヴォルフラム・オルヒデーエがお前につきまとっているのかな?」
「つきまとっているわけではないんですよ。……ちょ、ちょっと成り行きで、わたしの身を守るとか、なんとか……」
「つまり、アレクサンダー二号ということだな」
「そういうわけでは……」
少なくともヴォルフラムには「一生」なんて宣言はされていないもんね。うん、違う違う。
「で? 何故ヴォルフラム・オルヒデーエはお前を守るなんて言い出したんだ?」
「さ、さあ……?」
「理由もなく、お前のナイト宣言をするとは、おにいちゃまには思えないのだけど?」
「そ、そう言われても~……」
「土曜日、私たちが劇場の外に様子を見に行った時に、お前がヴォルフラム・オルヒデーエに似た男とやけに親密な雰囲気だったという目撃情報がある」
お兄様、知っていて遠回しに責めてくるのは卑怯というものですよ‼
というとあれですか、お怒りなのはヴォルフラムのこと以外に、土曜日にわたしが天井の板について誤魔化したからですか? だからですね⁉
これはまずい。これ以上隠そうとしたらお兄様の逆鱗に触れる。
わたしは早々に白旗を上げた。
「……土曜日にわたしが話をしていたのは、ヴォルフラムじゃないですよ。あと、別に親密でもありません。だってあのとき、わたしはその男に短剣を突きつけられて脅されていたんですもの」
お兄様が、さっと表情を強張らせた。
「詳しく話しなさい」
ヴォルフラムだけじゃなくてお兄様にまで知られたら、わたしの死亡フラグが本当に立つのではなかろうか。
うぅ……ヒルデベルトに殺されないか、不安です。
でも、今この場では、ヒルデベルトよりお兄様が、怖いです!
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