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ヴォルフラムの提案 2

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

「ど、どうしてそれを……」


 うっかりそんなことを口走って、「しまった語るに落ちてしまったわ!」と慌てて口を塞いだがもう遅い。

 ヴォルフラムは「我が意を得たり」と言わんばかりに口端を持ち上げた。


「実は昨日、俺もあの劇場にいたんだ。二階のボックス席にな。そこから、君たちが座っている席が見えていた」


 なんてことだ!


「で、ででで、でも、ボックス席はいくつもあるのに、よ、よくわたしたちに気づいたわね……」

「君はバカか? 公爵家が押さえている席だ、注目を集めるに決まっているだろう。ましてやナルツィッセ先輩もアラトルソワ先輩もあの容姿だ、ひどく目立つ。……君も、外見だけは素晴らしいからな」


 ……ふむ、わざわざ「外見だけは」とつけたってことは、この「素晴らしい」は誉め言葉ではないわね。ええ、もちろん、ヴォルフラムがわたしを褒めることなんて絶対ないとわかっていますけども!


 わたしは失念していたが、公爵家が年間キープしているボックス席に人が座っていたら、それは目立つに決まっている。

 ナルツィッセ公爵家がキープしていると言うことは、そこには公爵家の人間かその関係者が座るのはわかり切っているからだ。誰かが座っていたら注目を集めるのは間違いない。

 しかし、昨日は劇場の外で義賊黒豹が騒ぎを起こしていた。

 爆発音も聞こえてきて、劇場内はパニック状態にあった。

 その状況でも冷静にボックス席を観察していた人はとても少ないだろう。


 ……というか、ヴォルフラムはあの状況でよく気づいたわね。


 劇場内の照明は落とされていた。

 わたしがいたボックス席の中に第三者がいたと気づいても、顔までははっきりとわかるまい。

 それを「俺に似た男」とまで断定したと言うことは、ヴォルフラムは視力を強化していたのではあるまいか。


 それはいったい、なぜ?

 そもそも、ヴォルフラムは義賊黒豹から分裂した白獅子のリーダー、ヒルデベルトが自分の兄だと知らないはずだ。

 それに気づくのは、ヴォルフラムルートでのことなので、ゲームのストーリーがはじまる前の現在では知らないはずなのだ。


 ヒルデベルトが人攫いにあった際、ヴォルフラムはまだ一歳だった。

 自分に兄がいたことは知っていても、まさかその兄が義賊のリーダーをしているなんて、想像もつかないことである。


 ……まずいわ。慎重に答えないと、わたしのうっかりした口が、ぽろっと言ってはいけないことを言いそうな気がする……。


 この時点でヒルデベルトがヴォルフラムの兄であると知られるのはまずい。

 ヒロインリコリスがもしヴォルフラムと恋仲になった場合、その後予定されている展開がうまく進まなくなる可能性があるからだ。ヒロインが誰を選ぶのかは未来のことなのでわからないが、その未来の可能性を摘むのはよろしくない。


 ……すでにアレクサンダー様がちょっとよくわからない感じになっちゃったし、アグネスを目覚めさせちゃったから正規のアレクサンダールートはわたしが潰したも同然だもの。これ以上はまずいわ。


 用意されている物語を潰しまくっていたら、どんな未来に転がっていくかわかったものではない。

 そうなったら、せっかく悪役令嬢にならないように頑張っているのに、その頑張りがぱあになってしまうかもしれない。


 ……よし、今からでも遅くない。とぼけよう。


「な、なにが聞きたいのかわからないけど、て、ててて、天井から降って来た人はわたしを脅してまた去っていきましたわ、ほほほほほ……」

「何を脅されたんだ?」

「…………」


 わたしのばかー!


 またしても余計な単語をくっつけてしまった。わたしはどうしてこう、頭が回らないのか。

 これは、どこまで? どこまで教えてセーフ? ヴォルフラムは何が知りたいの? というかわたし、ヒルデベルトに喋るなって言われていたんだったわ! ということは、喋ったらまずいわよね。「喋ったな!」って命狙われるやつだよね?


「ざ、残念ながら、喋るなって脅されていますの」

「つまり君はその男から何か重要な話を聞いたのか?」


 何故そうなる!

 何も聞いてませんよ!

 ボールマン伯爵を探しているっぽかったけど、それ以外何も知らないわ!


 わたしはただ、ヒルデベルトと会ったことを喋るなと脅されているだけで――ってあら? ということは、ヴォルフラムに気づかれている時点ですでにアウトじゃあないかしら?

 さーっと血の気が引いていく。


 やばい! これ、死亡フラグ立った⁉ ヒルデベルトが「約束を破ったな」って殺しに来るパターン⁉


「君は一体何を知っている?」


 ちょっとヴォルフラム、黙ってくれないかしら!

 わたしは今、大変な事実に気づいて、それで頭がいっぱいなのよ!

 死んじゃったら恨んで出てやるから覚悟してなさい!


 わたしがうつむいて必死になって死なないためにはどうしたらいいのかを考えていると、わたしの手のひらの上でクッキーを食べていたハイライドが顔を上げる。


「どうした、顔色が悪いが」


 ええ、ハイライド、いい質問です。でも、今この場で答えることはできません。

 ハイライドも人前でわたしがハイライドとお喋りできないのはわかっているので、わたしからの答えは待っていないだろう。クッキーを食べ終えた彼はひらりとわたしの肩に飛び乗ると、わたしの頬を慰めるようによしよしと撫でてくれた。

 わたしが考え込んでいると、ヴォルフラムは答えないわたしに苛立ったようだった。突然わたしの頬を両手でつかむと、ぐいっと自分の方を向かせる。


 ……って、ぎゃああああああっ!


 とんでもなく至近距離にいい顔があって、わたしは真っ赤になった。


 デジャヴ、デジャヴですよ! 昨日のヒルデベルトに至近距離で短剣を突きつけられた時のことを思い出すから、あんまり顔を近づけないでほしいんですけど!

 というか、この世界の男性は、不用意に女性に顔を近づけすぎだと思うんです!

 これが前世とかなら「セクハラ」とか言われているレベルですからね! ちょっと顔がいいからって許されると思うなよこんちくしょー!


 ああ、そんなことを思いながらもドキドキしてしまうわたしっていったい……。ものすごく敗北感だよ。

 そしてヴォルフラムにはどうでもいいことなのかもしれないけど、両手で頬を挟まれているわたしの顔、今とっても不細工なことになっているんじゃあないかしら? だって、肩の上でハイライドが笑っていますからね。絶対に変顔になっていると思いますよ。女の子に強制的に変顔をさせるのは、男としてどうなんでしょうか!


「あの男は、何をしようとしていた。というより、あの男が何者なのか知っているのか?」


 ヴィルフラムの顔は、わたしを睨んでいるというよりはどちらかと言えば切実な表情だった。

 彼はヒルデベルトの何が知りたいのだろう。


「ほ、ほんひょに……」


 ああ、ヴォルフラム、あんたはやっぱりヒルデベルトの弟だわ。というか、一緒に暮らしていなくても、行動パターンは似てくるのかしら?

 ヒルデベルトにも昨日こうして問いかけられながらも上手く話せないという状況に追い込まれていたわたしは、じろりとヴォルフラムを睨んだ。だって、わたしがごにょごにょ言った途端に、ヴォルフラムが横を向いて「ぶはっ」と噴き出したからだ。行動がそっくりですね、兄弟さん!


 ただ、昨日と違うところは、わたしに短剣が突きつけられていないということだ。

 腹が立ったわたしは、「えい!」とヴォルフラムの手を払いのけた。


「本当に知らないわよ! 突然天井の板が落っこちてきたと思ったら、あの人が降って来たんだもの! そして、ここで自分と会ったことは話すなって脅されたの! だから、あなたにその事実が知られている今、わたしは命の危機なわけ! わかる? 死んだら一生恨んでやるから、覚えてなさいよ‼」


 わたしの反撃に、ヴォルフラムはひるんだように「うっ」と息を呑む。


「そ、そうだったのか」

「そうよ! いい? わたしが死んだら、あんたのせいだからね! 今から女子寮に帰って遺書書いてやる! ヴォルフラム・オルヒデーエのせいで死にましたって書いてやる‼」

「やめろ!」


 さすがに公爵令嬢にそのような遺書を残されるのは非常にまずいらしい。

 ヴォルフラムが顔色を変えて慌てだした。

 ふふん、いい気味だわ! わたしを命の危険にさらしたんだから、このくらいの仕返しは許されるでしょう。

 というか、本当にヒルデベルトが口封じに来たらどうしようかしら。


 ……ヴィルマとヒルデベルトってどっちが強いのかしらね?


 ヒルデベルトは仮にも攻略対象。つまり超ハイスペック。いくらヴィルマが有能でわたしの護衛を兼ねた侍女でも、ヒルデベルト相手には負けてしまう可能性がある。

 わたしにはハイライドもいるけれど、さすがに外出先にまでは連れて行けない。


 ……くっそぅ、つまりしばらくの間は、身の安全のために休みの日も寮に閉じこもっておかなくちゃいけないってことね。


 それもこれも、ヴォルフラムが余計なことを言い出すからだ!

 ヒルデベルトがわたしを殺さないって確証が持てるまでは、おとなしくしておかなくてはならない。

 そうと決まれば、急いで寮に戻らなくては!

 ここは学園内だが、今日は日曜日なので人が少ない。もし学園の中にヒルデベルトが侵入してきたら大変だ。


 ヴォルフラムを無視して急いで寮に帰ろうとしたわたしは、はしっと彼に手首をつかまれて振り返った。


「……まだ、何か用かしら?」


 これ以上の身の危険は必要ないので、もう、お口にチャックをしてくれないかしら?

 すると、ヴォルフラムは神妙な顔をして、こう答えた。


「俺が君を危険にさらしてしまったというのならば、責任をもって、俺が君が安全だとわかるまで守ることにする。帰るなら寮まで送ろう」


 わたしは一瞬何を言われたのかわからなくなって、目を点に、思わず大声で叫んでしまった。


「なんですってー⁉」


 ヴォルフラム、あんた、わたしのことが嫌いでしょう⁉

 それなのに一体どういう風の吹き回しなの?


 というか、風邪なの? 熱でもあるの? いったいどうしちゃったのよー‼





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― 新着の感想 ―
2人きりで話してる時点でたぶんお義兄様(婚約者!)の逆鱗に触れまくるんだが
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