王都の義賊 7
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さすがは乙女ゲームの世界。
オペラなのに、なかなか少女漫画チックな展開ですこと。
もちろんその方が楽しめるからいいのだけれど、と思いながらわたしがオペラに集中していたときのことだった。
突然「ドオオオオン‼」と大きな音がして、地震が来たみたいにビリビリと会場が揺れた。
「「マリア‼」」
過保護なお兄様とアレクサンダー様が左右からわたしを抱きしめるように手を伸ばす。
ボックス席から見渡せる一階の観客席からは、いくつもの悲鳴があがって、それが波のように二階まで駆け上がってくるかのようだった。
舞台のシャンデリアが大きく揺れているのが見える。
……なに?
薄暗い劇場の中では、何が起こったのかいまいちわからない。
お兄様とアレクサンダー様に左右から抱きしめられながら、わたしは少しでも情報を集めようと下に視線を向けた。
そのとき、ボックス席に劇場の使用人の一人が駆けこんでくる。
「何があったんだい?」
お兄様の問いかけに、使用人が劇場の外で爆発があったのだと教えてくれた。
「爆発だと?」
アレクサンダー様がぐっと眉を寄せる。
使用人によれば、劇場のすぐ近くで、義賊「黒豹」の人間が小競り合いをはじめたらしい。
……リッチーが言っていた、義賊の分裂のせいかしら。
義賊「黒豹」は二つに分裂して、旧勢力と新勢力で争っているのだそうだ。
「迷惑な……。仮にも義賊を名乗っているくせに、民衆に迷惑をかけてどうするんだ」
アレクサンダー様がわたしから手を離して立ち上がった。
「いやいや、アレクサンダー。義賊なんてかっこいい言葉を使っているが、やっていることは結局盗賊団と変わらない。民衆の迷惑を考えず街中で戦争のまねごとをはじめるなんて、盗賊団よりたちが悪いともいえるな」
お兄様も、わたしの頭を撫でて立ち上がる。
どうやら二人とも、外へ様子を見に行くつもりらしい。
「お兄様、アレクサンダー様、わたしも行きます」
「お前はダメだよマリア。危ないからね」
お兄様が、ふにっとわたしの鼻を指先で押して笑った。
「いい子で待っていなさい。私たちは様子を見に行って、状況によってはかるーくお灸を据えてくるからね」
お兄様は「かるーく」言うけれど、アレクサンダー様と二人だけで義賊に立ち向かおうなんて危ないに決まっている。
「お兄様!」
「マリア、これは貴族の義務というやつだよ。近くに居合わせていながら知らん顔はできないからねえ」
「心配しなくていい。私もジークハルトも、無茶はしない。だからここで待っていてほしい」
アレクサンダー様もわたしを安心させるように微笑む。
わたしはまだ不安だったけれど、お兄様もアレクサンダー様もわたしを一緒に連れて行ってはくれないだろう。というより、ろくに自衛もできないわたしでは二人の足手まといになる。
……わたしを守ろうとすることでお兄様たちが危険にさらされるかもしれないわね。
ここは、お兄様たちの指示に素直に従っておくところだろう。
わかりました、と頷くと、お兄様が「いい子だ」と褒めてくれる。
お兄様とアレクサンダー様がボックス席を飛び出していくのを見送って、わたしはそっと息を吐き出した。
……わたしも、お兄様たちと同じくらい強かったら、一緒に連れて行ってもらえたのかしら?
別に、危険に首を突っ込みたいなんて考える破滅主義者ではないけれど、ただ待っているのは不安なのだ。
……お兄様たちに追いつくには、いったいどれだけレベルを上げないといけないのかしらね。
ふと、ゲーム「ブルーメ」の中で、ヒロインのリコリスがよく攻略対象に投げかける言葉を思い出す。
――わたしだって、あなたを守りたいんです!
わたしも、そんな言葉が堂々と吐けるくらい強かったらいいのに……。