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ジークハルト・アラトルソワ 2

お読みいただきありがとうございます!

本日三話目の更新です(#^^#)

「ひぎゃああああああああ‼」


 わたしは大声で叫ぶと、お兄様から逃げ出そうと試みた。

 が、背が高く、瞬発力も高く、わたしより何倍も賢いお兄様から、わたしが逃げられるはずもない。


「こらこらこら、待ちなさい」


 あっさり手首が取られて、壁に縫い留められる。

 自慢じゃないが、前世の三十年、わたしは恋とは無縁に生きてきた。

 スマホの乙女ゲームをやりこんで、それで恋を知ったような気になっていた、実践未経験の超のつく初心者である。

 今世は今世で、悪役令嬢ポジションのわたしは、男性を追い回すことはすれど、わたしを相手にしてくれる男性は一人も現れなかった。


 つまり、経験値ゼロのずぶの素人相手であるわたしが、色気だけで言えば他に追随を許さないようなお兄様に勝てるはずもないのだ。


 早まったー!

 前世の記憶を取り戻したばかりで混乱していたからって、早まりすぎたわたしー!

 いくらなんでも相手が悪い‼


 本気で涙目になったわたしを見て、お兄様が「やれやれ」と肩をすくめる。


「お前はおバカさんだけど、理由もなく兄に結婚してくださいなんていう子でもないだろう。何か理由があるんだろうねえ」


 わたしは涙をいっぱいにためた目で、こくこくと頷く。


 理由があるんです!

 だから手加減してください!


 するとわたしの心の声が通じたのか、お兄様がベッドまで戻って、その縁に足を組んで座った。

 そして、意地悪な顔をして笑う。


「そうだねえ、お前が私を楽しませることができたら、一考してやろうじゃないか。ほら、三回回って、可愛らしくわんわんって鳴きなさい」

「…………」


 心の声が通じたかもと思ったわたしの感動は、あっという間にひゅるり~と心の中の木枯らしに攫われていった。


 こ、この、くそ兄‼

 そうだった。

 そうだったよ‼


 お兄様はこういう人だ。

 顔面偏差値も頭脳偏差値も高くて、加えて魔力も高くてスポーツ万能でただ事ではない色気をお持ちのミスターパーフェクト人間なお兄様は、(主に妹のわたしに対して)とんでもなく意地悪なのだ‼


 くそー! 足元見やがって‼


 早まったと思ったけれど、今のわたしにはお兄様しか縋る人がいない。

 というより、前世も今世でも「おバカさん」の部類に入るわたしの頭脳では、この先いくら考えたところで、素晴らしい悪役令嬢回避策が思いつくはずもないのだ。

 そして、まさか前世の記憶を持っていてこのままだと破滅するからと、他の人に協力要請することもできない。そんなことを言えば、まず頭の中を心配されるだろう。


 ……わたしはもともとおバカさんだから、そんなことになれば絶対におかしくなったと思われて病院とかに入院させられる! そんなの絶対にいやあ!


 ゆえに、ものすごく不安で仕方がないが、わたしはお兄様に契約結婚してもらって、ヒロインと攻略対象が無事にくっつくのを見届けるのだ。ヒロインと攻略対象の誰かがくっつきさえすれば、わたしの悪役令嬢ポジは必要なくなるはずだからである。

 それまでは、何としても人妻ポジにいなければならない。

 わたしは羞恥でぷるぷる震えながら、やけくそになってその場で三回回った。


「ワンワン‼」

「うん、恐ろしく色気がないな。やり直し」


 嫌そうな顔をしたお兄様が、無情にもやり直しを要求する。

 悪魔だ! この男は悪魔だ! でも、背に腹は代えられない‼


「ワンワン‼」

「もう一回」

「ワンワンッ‼」

「だから可愛らしくと言っているだろう?」

「わ、わんわん?」

「ダメ」

「わんわんわん!」

「わんは二回だ」


 なんだそのこだわりは‼


 わたしは恥ずかしさを通り越してだんだんイライラしてきた。

 結局何がダメなのか、「三回回ってわんわん」を二十回もさせられて、わたしはぜーぜーと肩で息をする。

 それなのにお兄様は微妙な顔をして、はあ、とため息を吐き出した。


「お前は顔だけはものすごくいいのに、致命的に色気がないな。頭も悪いし運動音痴だし、魔力もたいしたことない。つまりはお前の長所はその顔だけだな。はっはっは!」


 殴ってもいいだろうか?


 ……いや、落ち着けわたし。ここでお兄様の機嫌を損ねてはならない。笑っていると言うことは、それなりにご機嫌な証拠だ。あともう少し。もう一押し‼


 わたしはお兄様のそばまで寄ると、くるくるくるとその場で三回回る。


「わ、わんわん……」


 くそう、恥ずかしいよう!


 お兄様はじっとわたしを見つめて、ふっと笑った。


「まったくもってだめだが、面白かったから許してやろう。それで、契約結婚だったか。話を聞くくらいはしてやるから座りなさい」


 わたしはひとまずほっとして、お兄様の隣に座ると、拳を握り締めてお兄様と契約結婚したい理由を力説した。





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