合流とお説教 2
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
怪我人の確認から捕縛、移送など、もろもろの作業が終わったのは明け方近くになってからだった。
お兄様がやりすぎなければ捕縛と移送だけですんだのに。
とはいえ、わたしが攫われたせいでもあるので、わたしも文句は言えない。わたしさえ攫われなければお兄様が激怒してやりすぎることもなかったはずだもんね。
アレクサンダー様もニコラウス先生もヴォルフラムも騎士さんたちもぐったりしてる中、元凶であるお兄様はけろりとしているのが解せないけど。
わたしも疲れたので寮に帰りたいところだったけど、今回の話があるからって、全員お城に連れていかれたよ。
まあ、「あとよろしく!」で逃げられないのはわかってたけどね。
さすがに夜の間ずっと作業していたから、お城についた後で仮眠はさせてもらえた。
お城の客室を用意してくれたんだけど、お城のベッドはふっかふかで寝心地がよかったわ! 昨日は絨毯の上に転がされていたから余計にそう感じるね。
ちなみにハイライドはわたしの枕もとで爆睡していた。
わたしたちが作業している夜の間も、わたしの肩の上とか頭の上で一人だけうとうとしていたくせにちゃっかりしてるわ!
そして仮眠から目覚めたのがお昼すぎ。
侍女さんたちがお昼ご飯を運んできてくれたからいただいて、そのあとで事情聴取をされた。
といっても、わたしは攫われた時のこととかをちょろっと聞かれただけで、あとはお兄様やアレクサンダー様たちが対応してくれたのですぐに終わったけどね。
ちなみに、途中でヨルク・カトライア政務次官もやって来て、ニコラウス先生に「お前がついていながらどうしてああなった⁉」とお説教していて、もう本当に、心の底から申し訳なかったよ! お兄様がすみません! ニコラウス先生は悪くないんです! だって駆けつけてきたときにはすでにお兄様がやらかしていたあとでしたから!
ニコラウス先生は大人なので、そんな言い訳はせずにただヨルク様に「申し訳ありません、兄上」って謝ってたよ。うぅ……。
そしてここでも元凶のお兄様はしれっとした顔をしていて、アレクサンダー様がじろりと睨んでいた。
全部の聴取が終わった時には夕方になっていて、わたしたちは国王陛下の計らいでお城にもう一泊することになった。
近く褒賞も出るみたいなことをおっしゃってたけど、あれだけ手間を駆けさせて褒賞までもらっていいのかしら?
あ、オルヒデーエ伯爵も大丈夫だったよ!
ボールマン伯爵捕縛に協力したということで、オルヒデーエ伯爵家にも褒賞が出るんだって。ボールマン伯爵に巻き込まれなくてよかったよかった。
そんなこんなで、まだ寝不足のわたしは、夕食の後でまた爆睡……しようと思ったのだけど、そうは問屋が卸しませんでしたとも。
「マリア、いいかい?」
わたしの隣の部屋を使っているお兄様が、有無を言わさぬ笑顔でやってまいりましたからね、はい。
わたしは全力で「よくありません!」と言いたかったけど、そんな勇気はなかったよ。
お城の広い客室にお兄様が入って来る。
ヴィルマはいないから部屋の中にはわたし一人――ってああああああ! ヴィルマのこと忘れてた!
休みから帰ってきてわたしがいなかったら心配……は、あいつのことだからするかどうかはわかんないけど、びっくりさせただろうから帰ったら謝っとかないと!
いつもならまだ寝るには早い時間だったから、お城のメイドを呼んでハーブティーを運んできてもらう。
お兄様にお説教される気配がプンプンしていたから、わたしは極力距離を取ろうとお兄様の対面のソファに座ったのだけど……、ぐっと笑みを深くしたお兄様が、ぽんぽんと自分の隣を叩いたので、心の中で泣きながらお兄様の隣に移動したよ。
隣に座った途端にがしって肩にお兄様の腕が回る。
まるで逃がさないと言っているみたいね。逃げませんよ。お兄様から逃げられるなんて思っていませんから。
「それでマリア。攫われた時の話を詳しくしてほしいんだけどね」
「そ、そう言われても……、寝ている間のことだったみたいで、まったく記憶にないんですけど……」
「寝ている間。寝ている間ね……。ねえマリア、おにいちゃまはお前が攫われたと聞いて気が気じゃなくて、特別に女子寮のお前の部屋を見せてもらったんだ。そうしたら窓ガラスが粉々に割られていてね。あれだけ粉々だったのだから、窓ガラスを割った時には大きな音がしたはずなんだよ。実際にお前の隣の部屋を使っている子は夜中に大きな音を聞いたと言っていたからねえ。……それなのにお前は、部屋の中にいながらその音に起きなかったのかい?」
……起きませんでした。
わたしはついっと視線をそらした。
お兄様の目が、とってもイタイ子を見るそれだったからである。
「能天気にもほどがあるね。それともう一つ。なんでヴィルマに休暇を与えた?」
「え?」
「おにいちゃまがお前の部屋に行った時、ヴィルマが不在だったんだ。聞けば休みを取っていたというじゃないか。どういうことなんだい?」
「どうって、そりゃあお休みくらいとるでしょう? 休みなく働かせるなんてブラック……じゃなくて、侍女を酷使しすぎですよ。わたしはそんな冷血女じゃありません」
お兄様ってば非常識よ、と軽く睨んだら、じろりと睨み返された。何故に⁉
怖かったのでまた視線を逸らしたら、お兄様が盛大にため息をつく。
「マリア、おにいちゃまは、黒豹やヒルデベルトの一件が片付くまで身の回りに注意するようにと言ったよね?」
「もちろんです。だからちゃんと、部屋の窓には施錠をして寝ましたよ」
「施錠しても、窓ガラスを割られたら意味がないね?」
「う……」
「ヴィルマは侍女であると同時にお前の護衛でもあるんだよ。その護衛にこのタイミングで休暇を与えるなんて、不用心すぎると思わないかい?」
……いやでも、ヴィルマの休暇はずっと前に申請されてたんですよ? 家族にも会いたいでしょうし、いきなり「やっぱお休みなしで」なんて言えないでしょう?
言われれば確かに不用心だったかもしれないけど、たった一日だったし、まさか女子寮に誰かが侵入するなんて思わないじゃない。警備も厳重になってたしさあ。
とわたしは心の中で言い訳する。
口に出したら怒られそうなので、もちろんお口にはチャックである。
わたしが何も言わずに視線を反らしたまま黙っていると、お兄様がわたしの顎を大きな手でむにっと掴んだ。
「マリアちゃん?」
あぅ、なんかその「ちゃん」付け、怖いです。
わたしがそれでも黙っていると、お兄様がまた大きく嘆息する。
「そうか、お前がそのつもりならいいよ。あのタイミングで休みを取ったヴィルマは護衛失格だからね。おにいちゃまから父上に申請して解雇しておこう。それでいいね?」
「よくありません!」
わたしの侍女を勝手に解雇しないでください!
「というかお兄様横暴ですよ! ヴィルマだって家族に会いたいんです! 楽しみにしているお休みをやっぱりだめなんて……」
「ダメと言ってるんじゃない。何故、状況が落ち着くまで延期させなかったんだと言っているんだよ。もしくは、ヴィルマに休暇を与えるなら、何故代わりの護衛を付けなかったのかということだ。私か父上に言えば代わりの護衛を用意できたんだからね」
「うぐ……」
お兄様の言っていることは正論だ。
たった一日だから~と高をくくっていたわたしが悪いのはわかっている。
だけどまさかこんなことになるなんて思わないじゃない? わたしが考えなしで危機管理もできていないのは認めるけど、攫われるなんて予想できなかったんだもん。
ヴィルマだって、まさか休みの間にわたしが連れ去られるとは思わないでしょ?
「ヴィルマもそうだが、お前ももっと自分が公爵家の人間だということを自覚しなさい。おにいちゃまだって、何もお前に自由にするなと言っているわけじゃない。だけど、もっと状況判断ができるようにならないと、ヴィルマではなくもっと監視の目の厳しい人間をお前につけるしかなくなるよ」
そ、それは嫌だ!
ヴィルマは少々口は悪いしわたしに対する態度もどうかと思う時はあるけど、一緒にいるととっても楽なのだ。それなりに付き合いも長いから言わなくても通ずるところもあるし、なんだかんだとわたしに甘いから買い物とかにも付き合ってくれるし、ヴィルマでなければ嫌なのである。
……ほかの侍女がつけられたら、あれこれ小言が多くなって全然楽しくないじゃない!
ヴィルマを取り上げられるのは絶対嫌だ。
「お、お兄様……」
ここは必殺泣き落とし、とお兄様を見上げると、お兄様が片眉を上げる。
だけど、演技のできないわたしは都合よくポロリと涙をこぼすのは無理だった。くっそう!
「お前、ちゃんと反省しているのかい?」
「してます! ごめんなさいもうしません!」
「次に同じことがあったらお仕置きだよ」
ひい!
「それから罰として来週末はおにいちゃまのお買い物に付き合ってもらうからね」
「も、もちろんです」
お仕置きが怖いので、わたしはぶんぶんと首を縦に振った。買い物くらいつき合いますとも! お兄様のご機嫌を取っておかないと、本当に怖いですからね!
「ああ、あとそれから、ヴォルフラム・オルヒデーエから、お前が光魔法を使ったとかなんとか、耳を疑うことを聞いたよ。それについては月曜日、ニコラウス先生も交えて話がある。……正直、ヴォルフラムが勘違いをしているのではないかと思っていたのだが……なるほど、何か秘密がありそうだね」
わたしの表情の変化をつぶさに確かめていたお兄様がそう言った。
どうやら「やっばー!」って思ったのが顔に出ていたらしい。
お兄様はわたしの頭にぽんと手を載せる。
「ここで問い詰めて吐かせたい気もするが、お前も疲れているだろうから許してあげるよ。そのかわり、月曜日にはしっかり説明してもらうからそのつもりで」
「はひ……」
うう、一難去ってまた一難とはこのことね。
お兄様は長居をするつもりがなかったのか、わたしの頭を撫でて立ち上がる。
「おやすみ、マリア。もうおにいちゃまに心配をかけたらだめだよ」
「はい……」
わたしだって怒られたくありませんからね。くれぐれも、気を付けますとも。
お兄様が部屋から出て行くと、わたしはベッドにばふんとダイブした。
枕元ではハイライドがすでに熟睡中である。
……うぅ、月曜日、どうしよう。
ハイライドにも相談したいのにこの妖精王子は起きそうにないし、頭が痛い。
わたしは何とかして誤魔化せないかと考えたけど、結局名案は浮かばずに、考えすぎて疲れたわたしはいつの間にかそのまま眠ってしまっていた。
ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ