「第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」参加作品シリーズ
黒猫ひまわりは気苦労が多い
「じゃあ行ってくるよ、留守番よろしくな、ひまわり」
ようやく漕ぎつけた初デートとあって浮かれた様子で玄関へ向かう翔太。
黒猫のひまわりは、ニャーニャー鳴きながら翔太を追いかける。
『おい翔太、口元にご飯粒がついているにゃ!!』
これからデートだというのになんてだらしのない奴にゃ。こんなことで彼女さんにフラれたら不憫にゃし、最悪私のご飯の質に影響が出ないとも限らない。まったく仕方ない奴にゃ。
翔太の顔を舐めて綺麗にしてやる。少し痛いかもしれないが我慢するにゃ。
翔太は、私の身の回りの世話をしてくれる人間だ。
黒猫でグリーンアイなのになぜかひまわりとかいう謎のネーミングセンスだし、許可していないのに勝手に身体を撫でまわすし、色々不満はあるけれど、ご飯が美味しいのでそばに置いてやっている。
しごととやらで失敗するとすぐに落ち込んで私のご飯を忘れたりするので、細かなサポートとケアが欠かせない。
まったく世話の焼ける使用人にゃ。
「はは、痛いよひまわり、まったく甘えん坊なんだから亅
口元を舐められ満更でもない様子で黒猫をモフる翔太。
『おい、ヤメロ!! せっかく整えた毛並みが乱れるじゃないか。それよりなんだその酷い寝ぐせは!!』
いくら服装に気を使っても台無しじゃないか!! ほら直してやるから頭を下げるにゃ。
両肩に足をかけ必死に後頭部を舐めるひまわりであったが、翔太はその意図に気付くことはない。
「あはは、くすぐったいよひまわり。わかってるって、ちゃんとお土産にプレミアム猫缶買ってくるから」
……相変わらず話が通じないやつ。まあいいにゃ、プレミアム猫缶さえ忘れなければ。
でも、なんにゃこの違和感は……? まだ何か……見落としているのかにゃあ?
あ……
『おい待て翔太、大事なところのファスナーが開いてるにゃ!!』
突然とびかかってきたひまわりに慌てる翔太だが、ひまわりを引き剥がそうとして致命的な失態に気付く。
「危なかったなあ」
『私のおかげにゃ』
「あ、やばい、電車の時間が……じゃあなひまわり」
バタバタと出てゆく翔太。玄関マットの上にちょこんと座って見送るひまわり。
『……あの馬鹿、左右違う靴履いて行ったにゃあ……』