第8話 半蔵の決意
地球代表部の大山参事の部屋だけは深夜でも明かりがついていた。今夜も彼は書類仕事に追われていた。しかし彼がその時間までそこにいたのは他に目的があった。
「待たせたようだな。」
半蔵が姿を現した。大山参事はゆっくりうなずいた。トウライ教のカンジ教祖が銃殺された事件が起こり、大山参事は闇の者の関わりを疑っていた。だからこの時間まで執務室に籠り、半蔵を待っていたのだ。
大山参事は半蔵を上目使いで見ながら尋ねた。
「カンジ教祖が殺された。武器監視装置に引っかからない銃が使われている。武器商人が何者かの依頼で地球に持ち込んだ物だ。」
「我らの仕業と思ったのか? 我らも低く見られたものよ。」
半蔵が自嘲気味に言った。だが大山参事は表情を崩さず、問い詰めるように言った。
「もちろんそんな銃を使ったのだから君らの仕業ではないと思う。だが何か関わりがあるのか?」
「なぜ、そう思う?」
「狙撃した者は何者かに現場で射殺されていた。その身元を調べたが、新山信二という普通の青年だった。トウライ教に家族を壊されたという動機のある・・・。だがこちらの調査で彼が忍びの里の出身ということは調べがついてある。それに現場で忍び装束の者を見たという証言がわずかながらある。」
その言葉は言い逃れを決して許さないというように聞こえた。半蔵は一呼吸おいて答えた。
「確かに我らと関わりはある。撃ったのはかつてのわれらの仲間。忍びの心得がある。だがその者は何者かにそそのかされていた。」
「それは誰だ?」
「多分、新東京教会のトーマ法師たち幹部の者だろう。地球であくどい真似をしたのがカンジ教祖にばれて排斥されそうになっていたからだ。」
「なるほど。では君らが手を下したわけではないのだな。」
その言葉に半蔵は大きくうなずいた。それに嘘はあるまいと大山参事にはわかったようだった。
「それならばよい。君らが関わりになる相手ではない。この件からもう手を引け!」
だが半蔵は、今度は大きく首を横に振った。
「いや、このままでは済まされぬ。信二がだまされた挙句、殺されてしまった。信二の無念を晴らせねばならぬ。」
「そんなことをすると君たちも危ないぞ!」
「われらは所詮、闇。死さえいとわぬ。そんなことより、今までも、そしてこれからもトウライ教で苦しむ者たちがいるのに放ってはおけぬ。しかもカンジ教祖の純粋な思いを踏みにじる者を。」
半蔵のその言葉には怒りと殺気が込められていた。
「半蔵。相手は教会だ。幹部の下には洗脳された人たちがいる。あまり過激なことをすると殉教者が出たとして、ますますその活動に手が付けられなくなる。」
大山参事はそうなることを心配していた。これ以上、信者の活動が激しくなると地球独立運動にも支障が出る、と。だが半蔵は大きく首を横に振った。
「我らは自らの正義に従うのみ・・・」
半蔵はそう言い残して姿を消した。
「半蔵! 半蔵!」
大山参事が呼び掛けてももう返事はなかった。彼は大きくため息をついた。今となっては不安を感じながらも半蔵に任せるしかなかった。