第6話 陰謀のにおい
信二が連れ込まれた部屋は朽ち果てかけた雑居ビルの1室だった。そこをじっと見張る者の影があった。
(信二に何事もなければいいが・・・)
それは翔だった。彼は半蔵の命令で信二を見張っていたのだ。ただ酔っぱらって介抱されているだけなのかもしれないが、翔は何か悪い予感がしていた。
しばらくして信二がそのビルから出てきた。その手には布にくるまれた何か大きな物を抱えていた。翔は信二のことが心配になり、彼の前に姿を現した。
「あっ! 翔さん!」
「信二! 大丈夫か?」
「ええ。酔っぱらって部屋で休ませていただいただけです。」
「俺の見るところ、お前を連れて行った男は何か胡散臭い。何か言われたのか?」
翔にそう言われて図星だったようで信二の目が一瞬、泳いだ。それを翔は見逃さなかった。
「何かあったな? これからお頭のところに行こう。何もかも申し上げるんだ!」
「何でもないですよ。本当に。」
「嘘をつくな。俺の目をごまかせると思っているのか?」
翔にそう言われて信二はごまかしきれないと感じた。だが本当のことを言うことはできない。ならばここから消えるのみ・・・信二は周囲に目を配り、さっと背後に飛んで逃げた。
「待て!」
翔も信二の動きを警戒していた。逃げた信二の後をすぐに追った。信二は大きな荷物を持っているから動きづらい。そこに翔にぐっと腕をつかまれた。するとその拍子で布の一部が取れて抱えていたものの一部が見えた。
「お前!」
翔は思わず声を上げた。それは一瞬だったが、スコープや引き金が見えたのだ。
「そんなものをどうするつもりだ!」
「復讐してやるんだ。これを使って・・・。邪魔しないでください!」
信二は翔の腕を振り払ってまた走って逃げた。翔は追いかけたが信二は巧みにビルとビルの間を飛び回り、ついにその姿を見失ってしまった。
「見失ってしまったか・・・。しかし信二が・・・。お頭に報告しなければ・・・」
翔はすぐにその場を離れた。
◇
笠取荘の隠し部屋に半蔵と児雷也、そして疾風が集まった。疾風は半蔵にその時の様子を話した。
「・・・というわけです。お頭。信二は銃のようなものを持っていました。それで復讐すると言っていました。」
「復讐? ということはトウライ教にか? 誰かを狙撃するつもりか?」
「多分、そうだと・・・。しかし何か大きな銃でした。」
それを聞いて児雷也が横から言った。
「多分、武器監視装置をかいくぐるためでしょう。聞いたことがあります。武器監視装置を欺瞞する銃があると。その銃は複雑な機構を持っているためかさばりますが、威力は100メートル先の人を殺すのに十分だと。」
「うむ。それで誰を狙うというのかだ・・・」
半蔵は首をひねった。そこに遅れて佐助と霞が入ってきた。佐助はカンジ教祖を見張り、霞はトウライ教内部のことを調べていた。
「お頭。部屋からの電話を傍受していましたが、カンジ教祖は明日の昼、また地球支部新東京教会を訪れるようです。」
佐助がそういうと半蔵はうなずいた。
「そうか。カンジ教祖は今のトウライ教のあり方を悩んでいた。特にこの地球での活動に。彼はそれを刷新しようとするのだろう。」
「それについて気になることが・・・」
霞は新東京教会内部のきな臭いにおいをかぎ取ったようだった。
「幹部の動きがおかしいのです。特に教会の責任者のトーマ法師が・・・」
「どんな動きだ?」
「どうもカンジ教祖排斥の動きがあるようです。怪しげな連中が教会に出入りしていました。どうも武器のブローカーらしいのです。」
「何かを企んでいるな。」
半蔵はそれで一連の話がつながったと思った。それは疾風も同じだった。
「すると狙いはカンジ教祖。信二に銃を渡して狙撃させる気でしょうか?」
「恐らくそうだ。」
半蔵はそう答えた。疾風はすぐに教会周囲の地図をテーブルに映し出した。
「教会のビルに入るためには車寄せから少し歩かねばなりません。だとすると手前のビルから狙撃することになります。」
「確かにそこからだろう。我々はそれを阻止するのだ。よいな。」
半蔵の言葉に児雷也と佐助と霞はうなずいた。だが疾風のみは何か言いたげだった。
「どうした? 疾風。」
「お頭。もし止めても信二がどうしても狙撃しようとするなら・・・」
「その場合は信二の命を絶て。それが掟だ。」
半蔵は冷たく言い切った。疾風はそれを聞くと、ため息をついて隠し部屋から出て行った。