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第10話 忘れ行く中で

 総督府では取締局のサンキン局長が報告に来ていた。


「・・・というわけで、会議室に踏み込んだ時にはトーマが呆然として座り込んでいました。その部屋には銃で撃たれた幹部たちの死体が散らばり、トーマのそばに銃が落ちていたものですから彼が幹部たちを射殺したものと思われます。」


 リカード管理官は書類を見ながらじっと聞いていた。そしておもむろに口を開いた。


「トーマはどうしてそんなことをしたのだ?」

「それはわかりません。トーマは気が抜けてしまっているような状態です。幹部たちを皆殺しにしたショックかもしれません。」


 リカード管理官は書類にあった銃の項目を指さした。


「この銃は先ごろ、教祖のカンジを射殺した銃と同じ型式だな。」

「はい。同様に武器監視装置を潜り抜けるように改造したものでした。カンジ殺しの容疑者は何者かに射殺されていますが、それは今回、トーマが使ったと思われる銃と同一のものであることを確認しています。」

「すると教祖のカンジの殺人についてはトーマ達が関わっていたのか?」

「多分そうでしょう。」

「それにしても会議室で起こったことは謎だらけだな。」

「ええ、ただトーマは『闇が・・・』とつぶやいていましたが・・・。」


 それを聞いたリカード管理官は眉間にしわを寄せた。


「するとまたあの忍者たちが関わったというのかね?」

「いえ、それは・・・。もう少し捜査して報告書を持ってきます。」


 問い詰めようとするリカード管理官に恐れをなしてサンキン局長は部屋を出て行った。リカード管理官は席を立ち、窓の外を眺めた。街角ではもうトウライ教絡みのデモは起こっていなかった。


「地球人め!」


 リカード管理官はそう呟きながら、少し微笑みを浮かべていた。




 トウライ教はまるで幻だったように地球から消えた。地球にいた幹部たちはすべて殺され、トーマ法師も裁判を受けるために遠い星に旅立っていったからだ。その彼はやはり正気に戻らず、ただ空を呆然と見上げていたという。もしかしたらそこにカンジ教祖の姿を見ているのかもしれない。

 トウライ教のことは月日がたち、次第に人々の記憶から消え去ろうとしていた。だが多くの地球人、いや地球に住む者に深い傷痕を残していったのは確かなのだ。


 ◇


 正介は笠取荘の玄関の片づけをしていた。そこには女将さんが高いお金を出して買ってきたあの置物があった。それは誰からも忘れられたようにほこりをかぶっていた。正介は受付にいた女将さんに大声で聞いた。


「女将さん。どうします? これ。」

「ああ、捨てといておくれよ。何のご利益もなかったし。見れば見るほど気味が悪いから。」


 と言葉が返ってきた。正介はそれをポイとゴミ箱に入れた。するとその底に『すべての人に幸福を』というトウライ教の教義が見えた。


(カンジ教祖はそれを心から願っていたのだろう。だがその教えが捻じ曲げられて多くの人々を不幸の底に落としてしまった・・・)


 正介の脳裏には頭を抱えて悩み苦しむカンジ教祖の姿が浮かんでいた。そして無念の表情で死んでいった信二の姿も彼の胸に刻み込まれていた。


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