第1話、気づいたら海だし、とりま天使なう
プロローグ0と今回の間のお話は次回
『ご希望は?』
やっぱりカワイイ女の子が良いな!
兄弟もいて、優しくパパとママがいて、仲の良いおじいちゃんおばあちゃん、それに、それに、・・・
『………』
ごめん
おかしいね、これから助けに行くのになんでだろう、センチメンタルな気分になっちゃうなんて
『マリちゃんの希望は全て叶えてあげられないけど、なるべく近いところに転生させてあげる』
ありがとう。
『それと、転生後にアドバイスをくれるサポートを付けるから、わからないことはそいつに質問してね』
あなたが助けてくれるんじゃないの!?
『そうしてあげたいのは山々なんだけどさ、規則で直接生きている者に支援はNGなんだ、ごめんね』
『でも、生者でなければOKということで、マリちゃんにしか見えないし聞こえない守護霊みたいなやつを一緒に送る』
わかった、何から何まで助かるよ!
『そいつを介してこれからもマリちゃんを見守るから、安心してセカンドライフを楽しんでね!』
安心できたけど、楽しめないよ、だって
『人の一生はあっという間だ、オレたち神とは違い生命がある。美味いもの食ったり、友達と遊んだり、恋人を愛したり、家族を作ったり、色々な自由があるんだ。マリちゃんには使命がある、だからと言って、その人生を全て使命のために捧げることは違うと思うんだ。マリちゃんにとって大切な家族の魂を守りたいと思うように、マリちゃん自身の魂も大切に守ってあげてね』
なんだよぉ、あんなにチャラチャラしてたのにさぁ、最後になんでそうカッコつけるかなぁ
『オレはいい加減な仕事はしないぜ、これでも神様だからね』
ありがとう、何かに引っ張られるような、吸い込まれるような感覚と共に遠ざかる神の存在に、何度も何度もありがとう、ありがとうと、わたしは叫び続けた…
転生して初めての感覚は温度だった。
身体全体にまとわりつくような生ぬるさ。赤ちゃんを優しく包み込むおくるみとは違い、ふかふかの厚手のタオル生地ではなく、ぶよぶよの体脂肪のような物の中を漂う感覚。でも窮屈ではない。
次第に光を感じられるようになった。
まだ目が発達していないのか、ものは見えない。僅かな明暗の感覚が久しく思えた。まだ前世を終えたばかりだというのに。
そうか、赤ちゃんに転生するんだった。
16年前に自我なんてないし、記憶もない。当然だよね。
今はママの腕の中、ではないな、お風呂に入れてもらってる?ゆらゆらと揺れて…
ゆらゆらとゆらゆらと…
ちょっと速いな。それに大きく揺らしすぎだって!
揺れるというより揺さぶられてる?
違う!
流されてる!!!
溺れちゃう!助けて!ママ!
誰よわたしのことお風呂に入れてるの!
下手くそでしょこの人!
目が、目が回る!
どっちが上だ!?早く掬い上げて!本当に溺れちゃうよ!子供は溺れる時静かなんだよ!気づいてよ!
『どうやら無事、マリさんの魂は定着したようですね、ひとまず安心しました』
何処からともなく声が聞こえてきた。が、言葉の内容の10%すら理解できないほど、冷静さを失ってしまっていた。
どこが安心なのよ!早速大ピンチなんだけども!
『………』
無視しないでよ!もしもーし!助けてー!
嫌だ、せっかく生まれ変わったのに開幕バッドエンドじゃない!
神様!どうかわたしの声を聞いて!
頭の中での問答中に、咄嗟に出た“神様“というキーワードに、冷静さを少し取り戻せた。
そうじゃん!神様だよ!
わたしを助けてくれ…る…
あーーー生きてる人間に手助けできないんだったーーーー!
違う!サポート役がいるはず!
さっきの声!!!そうだ!
サポート役の人!わたし大ピンチ!助けて!ヘルプ!
『………』
なんも役立たねーじゃんかぁ!!
水飲んじゃってるよー!窒素するよー!聞こえてますかー!?
全然平気だわ。
全然苦しくないわ。相変わらず水中を激しく流されてる気がするけど、なんら苦じゃないわ…
ハズっ!脚が着くプールで助けてーって言ってるハズい人じゃん!
アイに見られたらしばらくはそのネタで揶揄われただろうな…
『そうでした!私とのコンタクトの方法を伝えていませんでしたね、申し訳ありません!』
再び女の人のような、少年のような声が聞こえてきた。
ちょっとー!ここどこ!?
わたし死ぬかと思ったんですけどー!?
ちゃんと転生できてるのこれ!?
声はわたしの問いかけの内容と関係ないことを伝えてきた。
『はじめまして、私、マリ様のサポートを務めます、タイプ10Cと申します』
そんなこと今聞いとらーん!
わたしは今どうなっとるか聞いとるんじゃーい!
『それではこの宇宙の特徴と法則について説明させていただきますね』
人の話を聞けー!
『よろしいですか?』
よろしくなーい!
『………』
黙るなー!
『そうでした!マリ様は私に言葉を伝える方法をまだ知らないんでしたね!大変失礼いたしました!』
聞こえとらんかったんかーい!
てかさっきも自分でおんなじようなこと言うとったやろがーい!
『マリ様、まずテレパシーの魔法の使い方を覚えていただきます、そうすれば私とも会話が可能になります』
テレパシー!
すげえ!超能力者じゃん、わたし!
『まず言葉を伝えたい対象を意識していただきます。ただ、意識の仕方が中々難しいので、私なりの方法で説明いたしますね』
『これは全ての魔法使役に共通することなのでしっかり覚えていただきますよ』
『ここまで大丈夫でしたら、両手を大きく動かしてください』
ああそうだ、少しの間だったけど、魂だったから自分の身体を動かすってこと忘れてたよ!
OK!見えてるー?
『大丈夫そうですね、では、頭の中で私10Cをイメージしてください。容姿の細部などは気にしなくて平気です。私がこの場に存在しているとイメージするのです。できましたか?』
そもそも目が見えてないんだから簡単だよ、OK。ふりふり
『ではそこにマウスカーソルを持ってきて、私をクリックしてください。もちろんイメージなので本当にマウスを操作する動作は必要ないですよ』
急に俗っぽくなったな。
OK。ふりふり
『では私と会話をしてみましょう。頭の中でパソコンでチャットをするイメージをしてください。キーボードでメッセージ打ち込んで、最後にエンターキーを押すイメージです。そうすれば私に届きます』
めちゃくちゃ面倒くせえ!
これ毎回イメージしないといけないの?
まあでも小学校の時パソコン部だったわたしにはブラインドタッチなんて余裕だよ!
それじゃあ
「Hello,would! 」っと
届いたかな
『プログラミングじゃないので、日本語で大丈夫ですよ』
おおお!なんか感動!
わたしテレパシー使えたんだ!すごっ!
魔法使いだ!やった!
『あくまで魔法という抽象的な感覚の操作を私なりに伝えているだけで、慣れれば一瞬でできるようになります。初回ですから、丁寧に進めております』
「教え方うまっ!天才かよ!」
『マリ様のセンスの賜物ですよ。では続いて、テレパシーの中断についてです』
「ふんふん、一通りテレパシーのコツは掴めてきた。ところで、わたしって今何歳なの?さっきから気になってたんだけど、ずっと、水の中を漂っている感じがするんだけど…ここってお腹の中だよね?」
『現在マリ様は生後3ヶ月ですね』
「3ヶ月かぁ…」
「3ヶ月!?じゃあここ何処なの?もしかして赤ちゃんだから感覚機能がまだ発達していないからこんな感じなの?」
『確かに受容器や神経などは発達途中ですが、ここは仰る通り水中』
『海です』
は?
「まずいじゃんそれ!わたし漂流してるじゃん!どうしよう!助けてー!大人の人ー!この子のお母さーん!てかわたしのお母さーん!」
『テレパシー対象は今現在私だけですので、その救助信号は意味ないですよ』
「冷静かよ!なんとかしてよ!お助け役でしょ!」
『そうですね。では視覚の取得をしましょう。こちらもテレパシーと同様にすぐにレクチャーできますので』
「そんなの後だよ!まずは安全の確保でしょ!」
『仰る通りです。安全の確保のために視覚情報は大切かと』
「呼吸だよ!溺れちゃうって!」
『苦しいですか?』
「いいえ全然!」
『では焦る必要ないですね、まず人間だった時のことを思い出してください。マリ様は今瞼が下りている状態だと、イメージするのです』
「はい、やってみます」
たしかに呼吸の苦しさはない、しかしわたしは前世でカナヅチだったんだよ!
転生したからと言って、いきなり泳げるようになるとは思えない!
『では瞼をゆっくり上げるイメージしましょう。イメージではなく、人間だった時のように、筋肉を使って目を開く意識の方が良いかもしれません』
OK
ん?人間だった?
お!おおおおおおお!
見える!本当に水中だ!ってか海だ!
スチールたわしのように複雑に絡み合った海藻、8の字を描くように踊り狂う無数の細かな気泡、わたしは確かに海中にいる!
『どうですか?見えますか?』
「うん!見えるようになった!」
前世では当たり前にできていたことだけど、感動だよこれは!
『では視点を変更してみましょう。マリ様であれば、ご自身を中心とした半径2m以内に眼を移動させ、鏡を使わずとも第三者の視点からお身体見る事も可能です』
すげえーーー!
『方法は、再び目を閉じて、今度は見たい位置にカメラを設置して、それをモニターで観ているとイメージしてください』
ふむふむ、せっかくだからどんな顔なのか見ておこう。赤ちゃんなんてみんな生まれたては誰も彼もサルみたいなものだけど、美人になる人は赤ちゃんの頃から目鼻立ちが整ってるものよね!
………
『できましたか?』
「わたしがいないんだけど」
見えてはいるけど、わたしがいない!
カメラを動かしても、赤ちゃんらしき影も形もない!
『カメラ位置が良くないのかましれません、私にマリ様が観ているビジョンの共有をお願いします』
「そんなことできるの!?」
『はい、テレパシーで会話ができます故、視覚情報を相手に届けることも可能です』
「なんかわたしとあなた、運命共同体みたいだね」
『はい、私はマリ様と共にある存在。マリ様にしか認識できない、マリ様と神を繋ぐ存在です』
「そうだよね、これからあなたのことテンって呼ぶね。わたしのこともマリ様じゃなくて、マリって呼んで!あと敬語も禁止!運命共同体なのに他人行儀なのって変でしょ」
『ご命令とあらば、マリのことはこれからマリと呼ぶわ』
「適応力が高くて助かるよ」
海外も行ったことがないわたしが、宇宙すらも飛び越え、異世界にひとりで乗り込んで、本当は不安な気持ちでいっぱいだった。今もわたしの心のコップから不安が溢れそうだったけど、テンが少し飲み干してくれた。わたしにしか見えない存在が異世界での友達第一号だ!
『じゃあ、テレパシーの時のように私をカーソルで選ぶイメージをするんだけど、今度は私の上で右クリックをしてみて』
このパソコン教室にわかに信じ難いんだけど、効果的面なんだよね(笑)
『そうしたら、コンテキストメニューの中から、視覚共有を選ぶの。もちろんイメージよ』
「はいはい、どう?見えてる?」
『大丈夫、成功してる!今度はカメラをそこから右斜め上に向けてみて』
言われるがまま、視点を移動させると
「なにこれ………」
「超ーーーーーーーーーーーーーっカワイイイイイイイイイ!!!!」
純白のローブを纏い、背中には紺色の透けた翼、そして誰もが羨むような亜麻色のサラサラショート、そしてそして!まあるく潤んだ翡翠色の瞳!
「こ、これがわたし!?」
『ううん、私、テンだよ。ようやく見てくれたね、これからよろしくね!マリ!』
うそぉ!
超カワイイんですけどテン!
かわいすぎて泣けてきた!これがわたしにしか見えないとか勿体無いけど、こんな美少女を独占できるって思えたら、先程の不安が一気に干からびた!
「わたし、わたしは!?どこどこどこ!?」
『そこからまっすぐ下にカメラを向けて』
この宇宙の神の美的センスはパーフェクトだ!高鳴る期待の中映し出されたマリは
「いないじゃん」
宙に舞う天使の足元は何もない浅瀬。
やはり人らしき姿はどこにもいない。
もしかして、自分で自分を見ることはできないのかと考えた。
『いるじゃん、ほら』
「え、いないよ!わたしには見えない!」
『拡大してみ?』
『ほら、この、黒っぽいトゲトゲがマリだよ』
ウニじゃねえかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
なぜマリちゃんはウニになったのか!
待て次回