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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第5章
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第95話

結局その日は野宿となった。

肉を焼く焚き火がなんとも寂しい。

だが騎乗用の魔物用品を売っている店で割りと良い感じの鞍を買うことが出来た。

これで少しはお尻の状況が改善されることを願いたい。

ついでに荷物をしっかり固定する用の紐なども購入したため、シロに振り落とされないように気をつけ荷物にも気を使うという、かなり疲れることをしなくても良くなった。


「教会の印象かなり悪くなってんじゃん、どうすんの?」

「どうすると言われましてもねぇ。わたしとしてはこのまま瓦解していただけると助かるんですが」

「瓦解したあとどうすんだよ。無秩序の有象無象とかなんでもやんぞ」

「おやっ、経験がおありで?」

「200年くらい前だったか?亜人討伐で有力な魔人が何人か死んだ。それでそいつが支配してた地域が荒れたんだとよ。俺もガキの頃だからあとから調べた記録だが、上がいねぇ間に誰がまとめるまとめないで殺し合いが起きたんだよ。上に立てばそれだけ数の少ねぇ女体魔人を確保できるからな」

「おやっ、女性のほうが少ないのですか?」

「そりゃそうだろ。何故か筋力の上限が低いから力出すのに余計な魔力も使わなきゃいけねぇし、ガキ産むために………、あー、そうかお前らはそうだったな」


何故か途中で切って1人納得しているが、こちらは話がさっぱり見えなかった。

なのでしばらく3人で無言の圧力を掛けていると、うーんと唸り、そして諦めたように口を開いた。


「女体だと月1くらいで股から出血するんだよ、それも数日に渡って結構な量が出る。それがめんどくせぇから女体を積極的に選ぶやつがいねぇ」

「えっ、なにそれ。死ぬだろ!?」


ヒッとアンリが声を上げて身震いをした。


「なんでそんな事が…」

「知らねぇよ。数少ないモノ好きのお袋曰く、妊娠の為の体の仕組みなんだとよ。ある程度身体が出来た女体は全員起きる」

「アンリさん、経験あります?」

「えっ、無いけど?聞いたことも無い。ココも無いよ、ずっと一緒にいたから分かる」

「お前らはねぇってよ。なんか色々説明されたが、俺らとお前らの身体の作りで明確な違いだって言われたな」

「はえぇ、魔人の女って大変なんだな」

「だから少ねぇんだよ。出血しねぇようにするには内臓を弄るしかねぇ。でもそんなめんどくせぇことしてまで女体にしようって酔狂なやつなんてほとんどいねぇよ。でも子を産むには女体になるしかねぇし、女体を維持してる奴のほうが妊娠しやすいから取り合いになる」

「なかなか根の深い問題ですね、それ解決方法あるんです?」

「それを今考えてんだよ。魔族は力が基準だから自力でなんとかしろって意識が他人には強ぇからな、先ずはそこを変えなきゃいけねぇんだが……」

「頭の痛い話ですね。現状の話ですが、女体を選んだかたを保護したりはしないんですか?」

「一応自主的に強ぇ奴の傘下に入る奴はいるな」

「対処療法ではないですか」

「それしか他に方法がねぇんだよ。一番やべぇのは子供は弱い奴筆頭だからな、誘拐して無理矢理女体を選ばせる奴とかいる」

「…うわぁ……」


あまりの内容に3人とも三者三様で顔が引きつった。

子供の誘拐もドン引き案件だが、目的はさらに醜悪だ。

つまり子供に妊娠させることを目的に誘拐しているという事である。

外道の所業だ。

ここでコルトは1つ気になる事を質問してみた。


「ねぇそれ、発覚したら魔族はどうしてるの?」


するとルーカスの目が据わった。


「放置だ」

「野蛮人め」


ノータイムで罵倒語が出てきた。

だがそうとしか言えない所業ではないだろうか。

ルーカスはぶすくれた表情で肩肘をついている。


「しょうがねぇだろ。それが何千年も続いてんだ、今更特に見返りもなく止めろって言っても変えらんねぇよ」

「一応それがマズイって意識はあるんですね」

「俺はそれは悪いことだって言われて育てられてるし、普通に考えても先がねぇだろ」

「あなたの親は魔王でしたよね?ということは魔王もそれが悪いという意識はあっても変える気がないと」

「そうみてぇだな。どうも親父はこっちにちょっかい出すほうを優先して、あんま魔人同士のいざこざには首突っ込まねぇんだよ。議会の奴らも目に余るなら口出ししてっけど、全体としてやっぱこっち優先みてぇだ」


それを聞いてハウリルはふむと何かを考え始めた。

魔族全体の治安を捨ててでもこちらを優先する理由についてだろう。


「ルーカスをそれを変えたいの?」

「当たり前だ。こんなクソみてねぇ事いつまでも続けられるかよ」

「共族に協力するのもそれが理由?」

「そうだ。そんなつもりでこっちに来た訳じゃねぇが、ラグゼルで色んなやつが色んな生き方してんの見たら、アレを魔人社会でもやりてぇだろ」

「でもそれって女体が男体とくらべて不便ってのが根本的な問題だよね。そこはどうするの?」

「コルトのくせに嫌なところを突くじゃねぇが」

「そもそもの話の始まりがそこだろ。そこに何か解決策が無いとどうにもならないじゃないか。何か考えてるの?」

「……まぁ一応な。エクレールのとこがヒントだ」

「エクレール……ファラン家?」

「それだ」


ファラン家がなんでヒントになるのだろうか。


「現状女体を選ぶ理由がねぇなら、選ぼうって思える理由を作ればいい」

「それとファラン家が何の関係があるのさ」

「あそこには”美”っていう力があった。己の外見っていう、後からでも変えられるモノで他者を支配する力だ。しかも自己満足っていうか形も存在する。他人に気遣わねぇ魔人なら、多少は不便でも自己満足でそれを選ぶやつはいる」


現状の力が絶対の魔族の価値では、女体は出産ができるだけで他に利用価値が無い。

それならその価値を増やせばいい。

理屈は簡単だった。


「でもそれなら男性体でも美を追求したっていいじゃん、実際ラグゼルはそっちも推進してるし」

「そこはあれよ。意図的にそっちの文化はいれねぇことで制御する」

「肝心なところがガバガバじゃん!バカだろ」

「うっせぇ!んなこたぁ分かってんだよ!でもそうやって強引に進めないとどうにもなんねぇとこまで来てんだ」


不機嫌に顔を歪ませてルーカスは焼けた肉にヤケクソのように齧り付いた。

力で何とかする価値観を破壊するために力を使うことが滑稽なのは分かっている。

だが話し合いで解決できるような状態ではないのだ。


「でもその先の夢くらい語ったって良いだろ?いつかこうしたいあぁしたいで今を頑張ることくらいお前らだってあんだろ」


それは希望を願う未来の話。

そのために今ある現実を変えたいという原動力。

人が持つ普遍の力。

コルトがよく知る力だ。


──同じだな。同じだ、魔族も同じだ。


同時にそれはコルトをさいなんだ

得体のしれない敵だと思いたくても、突きつけられるのは同じ人という情報。

魔族という無条件に敵愾心を持っても良い相手という思い込みに、罪をつきつけてくる。


「ふむ。教会の瓦解後の話から思わぬ話を聞けましたが、なるほど。あなたの現在の原動力はそれなんですね」

「なんか文句あるか?」

「いえっ、全く。寧ろ安心しました、あなたはあなたの利害で協力をしているのなら、信用できますから」

「はっ。なら心置きなく瓦解後の心配をするんだな」

「心には止めておきましょう」


だがその顔はどうみてもどうでも良さそうだった。

そしてしばらく肉を咀嚼する音と、火が爆ぜる音だけが場に響いていた。

最初に食べ終わったのはアンリだ。

途中から完全に聞き役に徹していたせいか、食べ終わるのが一番早かった。

そのアンリが興味本位で質問をしてもいいかとルーカスに聞いている。


「言ってみろ」

「2つあるんだけどさ、強いやつの下に入るってんなら、お前のとこにもそういう奴って来たのか?」

「あるけど断った。アイツら俺じゃなくて、親父が目的だからな。利用されてたまるかよ。それでもう1つはなんだ」

「えぇうんまぁ、その、なんだ。聞くのもどうかと思うけど、聞かないのも気になるんだけどさ」


妙にアンリが言い淀む。

未だに聞くべきか否か迷っているみたいだが、2つあると言ったのに今更悩む姿にルーカスがさっさと言えと強めに促す。

それで意を決したようだ。


「……お前も股から出血したことあんの?」


ピシッと音がついてもおかしくないくらい、明確にルーカスが固まった。

その様子に明らかに失言だったと慌ててアンリが謝っているが、ルーカスは固まったまま動かない。

ハウリルはそれを見て面白そうにおやおやと言っている。


「なんでそう思ったんですか?」

「だっ、だってなんか結構実感籠もってたじゃん。実際に見なきゃどのくらいの量とかわかんないだろ。股から出血してんの普通他人に見せるか?なら実体験で言ってるって思うだろ」

「なるほど、それは道理ですね。それで答えのほうはというと、本人の反応的には答えるまでもない感じでしょうか」


ハウリルは杖で完全に固まっているルーカスを突き始めた。

アンリはひたすら謝り続けている。

そのうちあまりに反応がなさすぎて、アンリのほうが涙目になってきた。

シロも心配そうにアンリの顔を覗き込み、そして前脚もルーカスの顔面に押し付けた。

それでさすがに正気に戻ったらしい。


「何しやがる、このクソ馬!焼いて食っちまうぞ!」

「あなたがあまりに反応が無いので、アンリさんが悪い事を聞いたと泣き出したんですよ」

「べっ別に、そんな事はねぇし!!お袋が伝え忘れてただけだし!?汚したのは俺は悪くねぇよ!?」

「落ち着きなさい、返答になってません。ですが大体何があったのかは分かりました」

「………ああああああああああ!!!!!!」


数秒の間の後、悲痛な絶叫が森の中に響き渡った。

どうやら本人のトラウマを割りとピンポイントで刺激してしまったらしい。

それから数日、魔物が全く見当たらず、しばらく食料集めに苦労したのはきっと関係ないだろう。


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