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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第5章
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第93話

コルト達は渓谷の川沿いで昼食ついでに休憩をしていた。

一角馬との戦闘で特にアンリが自力で歩けないほど酷く消耗したため、このまま進むのは危険と判断して一度休憩を挟むことにしたのだ。

急ぎの旅だが脱落者を絶対に出せないし、一角馬が早期に仲間になったことで一先ず荷物という負担が1つ減った。

ここで一度休憩しても全体には響かないだろう。

ということで、動けないアンリ以外の3人は川で魚を獲ったり、焚き木用に枝を探したりしている。


「じゃあお前は他に仲間がいないんだな」

「ヒヒン」


消耗が激しいアンリは座った一角馬に寄りかかり、先程から色々と質問攻めにしていた。

喋れないがハイか否かの受け答えは出来るので、会話をするのに支障はないようだ。

すっかり慣れたのか殺し合いをしていたとは思えないほど和やかな空気だった。


「仲間がいるなら人数分の馬を用意出来ないかとも思いましたが、無理そうですね」

「どうせ周りと違って白いからって理由で外されたんだろ」

「魔物がそんなことしま……いやっ、これだけの知能があればしますね」

「知能とか関係なく、大体の生き物って外れた個体は仲間はずれにしますよ。そういう生存戦略だとは思いますが」


その辺りは人も動物も変わらない。

そしてそれがいいか悪いかコルトには分からない。


「それにしてもすっかり慣れましたね。魔族も魔物を使役したりするのですか?」

「上位の奴は基本しねぇな、魔物を使うより自分でやったほうが早い。時々見目の良い奴を愛玩用に飼ってる奴はいるが、何か仕事させるなら下位魔族に押し付けたほうが楽だからな」

「なるほど。魔族と魔物の間は結構断絶してそうですね」

「俺の周りがそうだってだけだぞ、基本的に下位の奴らと交流なんてしねぇし」

「そういえば、あなた意外とおぼっちゃんでしたね」

「おぼっちゃんはねぇだろ……」


そんなことを話していると一角馬がジッとルーカスを見ていることに気がついた。

アンリも気がついてどうしたのかと聞くと、一角馬がルーカスとアンリを交互に見て首かしげながらヒヒンと鳴いた。


「ここにルーカスがいることを疑問に思っているのでしょうか?」

「ヒヒーン!」


どうやら正解らしい。

確かに上位魔族らしいルーカスがこんなところで共族と一緒にいるのは、知能のある魔物からしたら意味が分からないだろう。

自分たちを異郷の地に力付くで強制連行出来る存在が、その自分たちよりもさらに弱い存在と行動をともにしているのだ。

それも力で無理矢理というわけでもない。


「お前が知ってどうすんだ」

「ヒヒッ!?…ヒヒーン」

「そんなこと言うなよ、可哀想だろ」

「はぁ!?そいつも所詮は魔物だろうが、何絆されてんだ」

「そうは言うけど、これからしばらく一緒にいるんだしさ」

「……魔物だぞ…」

「魔物だけどさぁ」


むーっとした顔のアンリと、眉を顰めるルーカスでしばらく無言の応酬が続いたが、先に折れたのはルーカスだ。

ため息をついて焚き木に火を灯すと、川魚を焼き始めた。

それを見てアンリはなら勝手に話すぞと言い、ルーカスも魚から視線を逸らさずに手をヒラヒラとさせている。


「なんだっけ、なんか魔王の納得がいかなくてこっちに来たんだよな」

「大雑把に言えばそうだったはずですね」

「ブヒヒン!?」


魔王という言葉に一角馬がやたら反応して顔をブンブン振っている。


「ルーカスは一応魔王の息子、娘?……まぁ子供なんだよな」

「証拠が無いので今のところは自称止まりなんですけどね。ただこちらで確認されている人型魔族の記録から、かなり強いほうの魔族なのは確かみたいです」


それを聞いて一角馬は頭を下げて媚びるような態度を取り出した。

随分と現金なやつである。

そんな一角馬をルーカスは一切見ていない。


「わたしも目の前で本気の戦いを見ましたが、確かにあれだけ戦えるのにこちらに対してかなり中途半端、というよりやる気のない対応をするのは疑問にも思いますよね。それが何故なのかと調べるためにこちらに来たのが始まりです。ここまでは良いですか?」

「ヒヒン」

「よろしい。それで現在わたしたちと共にしているのは、魔王のさらに上の存在がそれに関わっているのではないかという推察があるのです」

「……ヒン?」


一角馬はよく分からないようだ。

魔王が一番強く偉いというのは分かるようだが、その一番にさらに上がいるということがよく分からないのだろう。

話のスケールが大きすぎて、かなり知能がありそうな一角馬でもさすがにその視点は分からないらしい。


「魔王を裏で操ってる存在がいるのではという話ですよ」

「ヒヒン」

「本当にいるのか否か、それが知りたくてこうしてわたしたちと行動を共にしているのです。わたしたちもそんな存在がいるなら、どうしてそんな事をするのか知りたいですし、一回くらい殴りたいですしね」


戦う力を奪った状態で以前の高度な文明構築を先導しておきながら、それが破壊される事態になっても無言を貫き千年以上こんな状態が続いているのだ。

一発くらいは殴っても許されるだろう。

ハウリルは笑いながら言っている。

コルトは正直複雑な心境だった。

神が共族を本当に滅ぼしたいなどと思っているとは微塵も思わないが、状況的にはそれを肯定することができない。


「そんな理由でわたしたちはここにいるのです。あなたにはそのための足になって欲しいのです」

「ヒヒン!」


分かったのか分かってないのかよく分からないが、とりあえず一角馬は納得したようだ。

タイミングよく魚も焼き上がった。

それを食べていると、アンリが口を開いた。


「ところでさ、こいつの名前どうするよ」

「確かに、名前が無いのは不便ですね」

「さすがに魔物が名前つけてるわけないよね」

「………」


アンリが一応名前はあるのか?と聞いてみたが、案の定無かった。

それなら何かつけようとのことで3人で考え始める。

ルーカスはやる気がない。


「よしっ!一角馬だしイッカク!」

「お前は人に人って名前つけるタイプか?」

「はぁ!?」


全く考える気は無いくせに、余計な口だけは挟むらしい。


「そういえば、ラグゼルでは犬を割りとよく見かけましたが、彼らの名前はどうしているんですか?」

「うーん、色々ですよ。人と同じ名前をつける人もいれば、食べ物の名前とか体の模様から名前つけたりとか。犬って名前つける人はさすがにいませんけど」

「模様って言ってもなぁ、こいつ全身真っ白だし」

「そうすると単純にシロって名前になりますね」

「それでいいじゃねぇか。白い魔物なんてほとんどいねぇし、森の中で白い体なんて目立つだろ」

「でもなんかもうちょっと捻りたいというか」

「自己満足で他人の名前つけんじゃねぇよ。思いつかねぇなら分かりやすいのにしとけ、どうせ半年も一緒にはいねぇんだぞ」

「あっ……そっか………。さすがに連れてけないか」


無慈悲に無理だと言うルーカス。

アンリはそれにしょんぼりとした。


「…そうだな。ならシロにする。短い間だけどよろしくな、シロ」

「ヒヒン」


よく分かっていないシロの頭を撫でるアンリに、ルーカスは情が湧くような事をするなと警告を入れた。






それから数日。

一行は順調に森の中を進んでいた。

シロは4人分の荷物を背負い、さらに魔物の中でもそこそこ強いというルーカスの言う通り、ある程度の弱さの魔物も近寄ってこなくなったのでそちらでも余裕が出来た。

具体的には夜番で寝られる時間が増えたのだ。

なかなかに頼もしい。

お陰で日中走る余裕ができ、かなりの距離を稼ぐ事ができた。

具体的には、コルトとアンリがシロの背中に乗って、ルーカスがハウリルを背負って走ったのだ。

鞍も何もないシロの背中は最悪だったが、急ぎの旅だ、文句は言えない。

ただコルトは頑張った。

そんなこんなで4人と1匹はルンデンダックから3つ目にあたる街の目の前にまで来ていた。


「そろそろ街が見えてくるはずです」

「それじゃあ私は迂回して先に行って待ってるな」

「わたしたちも情報収集と買い出しが出来たらなるべく早く合流します」

「1日くらいは泊まってこいよ。私はシロがいるし、コルトはそろそろケツが限界だろ?」

「でも僕たちだけ屋根の下で寝るのは悪いよ」

「なら次は交代すればいいだろ」


そういってアンリとシロは分かれて先に行ってしまった。

それを見送ったコルトとハウリルは森の中から抜け出して街道に出る。

ルーカスは一応名目上はコルトの護衛なので、少し離れたところからついてくるようだ。

一緒に行かないのかと問うと、情報収集も兼ねているなら敢えて別行動で他の視点も持ったほうがいいだろうと、割りと真っ当なことを言う。

中級討伐員という身分もあるので、怪しまれることはないだろう。


「街についたら先ずは宿を取りましょう。終わったら買い出しを、そのあと情報収集をしたいと思います」

「分かりました」

「コルネウス枢機卿の情報が何かしらあるといいのですが…」


ここまで来る道中、コルネウス枢機卿と思われる一行の魔力をルーカスが全く感知できなかった。

もっと北のルートを通ったのではという予想もしたが、ヘンリンに北側のルートは少々遠回りで道中にも問題があった。

その問題は途中に巨大な湖とそこから続く滝と川があるのだが、なかなかに河幅が広く流れも急なため、橋がかけられないらしい。

そのため対岸には上流の湖を船で渡るのが一般的だが、いかんせんこちらの船だ。

動力は風と人力のみなので、速度に限界がある。

早く移動したいのであれば、あまり合理的な手段とは言えなかった。

なので南側のルートではないかと予想をつけたが、魔物をほぼ無視して突っ走れるコルトたちの足でも追いつけなかった。

普通ならあり得ない。

いくら枢機卿たちがこちらの魔力強者でも、それはあくまで共族の範囲だ。

どんなに多く見積もっても日に進めてせいぜいが100キロで、ルーカスみたいにその倍以上を時間単位で進めるわけではない。

道中の魔物も完全に無視することはできないだろうし、それを考えると追いつけないのが不思議だった。

なので一度街によって情報収集をしようという話になったのだ。

ついでにシロにつける鞍も欲しい。


──余計な事に首を突っ込まないように我慢しないと。


次の街はハウリル曰く、南方の街らしく討伐拠点となる街で、それなりに活気にある街らしい。

コルトとハウリルは一先ず教会の魔物調査で派遣された司教とその従者、という設定で街に入ることにした。

街に入るのに身分証は必要ないが、コルトは少しドキドキしていた。


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