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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第4章
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第84話

3人がフラウネールの屋敷に戻ったのは深夜、というよりそろそろ朝日が昇るのではないかという時間だった。

西の教会地区の門のところで待っていたハウリルは、門番に金を握らせると身分証の無いルーカスをそのまま中へ招き入れた。

そして屋敷に戻ると疲れたと一言呟いたアンリがさっさと部屋に引き上げてしまう。

コルトも今日は早く寝るように促されたため大人しく部屋に戻るとその日はそのまま眠りについた。

起きたのは翌日の昼頃だった。


「お体の調子はどうですか?」

「はい、大丈夫です」

「それは良かった、フラウネール様が随分と心配されておいででした」


食事はどうするかと聞かれ、食べると答えるとすぐ用意するので食堂で待ってて欲しいと言われる。

アンリとハウリルはどうしたのかと聞くと、ハウリルはアーク商会へもろもろの事後処理に出掛け、アンリもついさっき起きて現在食事中のようだ。

そして朝食はスープ系がいいなぁなどと考えながら食堂に入ると、アンリが凄い勢いでパンやら肉やらをかき込んでおり、その隣ではルーカスがドン引きしながらそれを見ていた。


「おっ、おはようアンリ。あんまり急いで食べるのは体に悪いよ」

「おふぁよう、こふぉと。ふぁらだふぁいじょうぶか?」

「えっ、あーうん?」


多分体の心配されてるんだろうなぁって思いながら返事をすると、アンリの前に封筒が置いてあるのが見えた。

それは何かと問いかける前に、視線に気付いたアンリがまた口を開きかけるが。


「お前は喋るな、食事に集中しろ!俺が言うから」

「ふぉがっ!」


横から手を伸ばしたルーカスに口を塞がれてしまう。

そして開いているもう片方の手はコルトにさっさと座れと促した。

なのでとりあえず手近なところに座ると、さっそく目の前に水や食器が置かれ、そのあとすぐにパンとスープが運ばれてきた。

見た目は美味しそうだ。

コルトが食事を始めた事を確認したルーカスは、さっそく話を切り出した。


「これはココからの手紙だよ。早く読みてぇからこいつはこんなきったねぇ食べ方してんだよ。お前にもあるぞ」

「…僕にも?」


ルーカスが懐から1通の封筒を取り出した。

そしてそれを風に乗せると、ふわふわと漂いながらコルトの目の前に着地する。

手にとって宛名を見ると、筆跡も名前も両親だ。


「お前も読むなら後にしろよ」

「分かってるよ、うるさいな」

「わざわざ運んでやったのに、出る言葉がそれかよ。感謝しろ」


それはそうなのでぐぬっとなり、とりあえず小さな声でありがとうと言う。

とりあえずはそれで納得したらしい。


「お前の親には会ってねぇが、元気でやってるとは聞いた。ココのほうも大分良くなってたな、引き離されてたガキのほうもどうするかやっと決められる状況になったって聞いてる」

「どうするって決める事あるか?ココが元気になったなら、普通にココが育てるだけだろ?」


食べ終わったアンリが口元を拭いながら首をかしげた。


「そこんとこは俺よりコルトのほうが詳しいんじゃねぇか?多分、ラグゼルの教育を受けさせるか、こっち準拠にするかって話だろ」


なんでそんな事で悩むのか、普通にラグゼルの教育を受けさせればいいのではないかと一瞬思ったが、恐らく親であるココの出自が問題なんだろう。

ラグゼルの教育を受けさせるには、壁外出身のココが親だと子供が認識しているのはマズイ。

それに現状育てるとすれば王宮内になる。

王族でもない子供が王宮で生まれ育つなどありえない。


「そっか、ラグゼルの教育を受けるなら、ココさんと引き離す必要があるのか」

「はぁ!?なんでだよ!!」

「僕たちの国ではまだ一般的には壁外の人達は敵なんだよ。その子供が自分たちに中に一人だけ入ってきたら、子供社会だし絶対良くない事が起きるよ」

「……うっ…ぐぅ……反論出来ない」


確実にいじめが起きる。

大人が見張っていればというにも、その大人も信用がおけない。

相手が弱い子供だからと、見えないところで何かするヤツが絶対に現れる。

それを避けるために事情を知る王宮から人をだしても、それはそれで特別扱いだのなんだのと言われる事は間違いない。

これらの問題を避ける方法があるとすれば1つだ。

子供本人と周りが壁内出身であると思い込んでいればいい。

事情を知る里親の元で壁内の子供として育てば問題ない。

生みの親と育ての親が違うという問題は、ラグゼルでは人口維持促進のために、子供を生む事を職業にしている人が実際にいて、そのための養子縁組制度も存在する。

なかには自分たちの子供を育て終わったあとに、国から里親をお願いされることもある。

そのため生みの親と育ての親が違うのはラグゼルでは普通だ、親が違う事は問題にはならない。

だがこれはココから子供を奪うのと同義だ。

少なくとも大人になるまでは子供にココの事は知らされないだろう。


「ラグゼルの教育を受けるならココは子供を捨てなきゃいけない、教育を諦めるなら一緒にいられると思うけど……」


それはある意味とても残酷だろう。

子供は周りが当たり前に出来る事を教えられないまま育つ事になる。

周りが出来て与えられたものを、自分が出来ない与えられない事は確実にストレスになる。

子供の気質次第でどう思うかは変わることだが、悪い方向に転がる可能性のほうが確率が高い。


「そりゃないよ……」


アンリはガックリと項垂れた。

だがこれに楽観的な意見を述べるものがいた。

この話を持ってきたルーカスだ。


「まぁでも多分大丈夫なんじゃねぇか?」

「関係無いから無責任なこと言えるだけだろ」

「それはそれとしてまぁ聞け、クソ司教も来たら改めて言うが、ラグゼルはアウレポトラの件で大分状況が変わった」

「どう変わったんだ?」

「リンデルトが食料供給政策の一環で、軍が外での活動を始めたのを大っぴらにすることを決めた」


どうやら色々な理由で国内から幅広い人材を確保するために、外での活動を開始したことを開示することにしたらしい。

本格的に外を開拓するつもりになったようだ。

ある意味それは侵略行為と言えなくもないが……。


「アウレポトラが降伏宣言をした」

「なんだって!?」

「それでアシュバートのヤツが条件をまとめて、その内容でリンデルトも支援を決めた」


アウレポトラの降伏、壁際で置物を決め込んでいた使用人達もさすがに動揺したのか、顔に緊張が走った。

みな視線を泳がせてシュルツを見ている。

だがそんな事を全く気にしていないルーカスはなおも話を続ける。


「アウレポトラの偉いヤツが教会からの離反を決めた、状況が状況だからな。それに合わせて他の街も同調するところと、受け入れられなくて反発するところで、今東はかなり混乱してる」


そのせいで港の機能が完全に停止しているらしく、恐らくこちらに情報が伝わるまではかなりの時間がかかるだろう。

具体的には壁に近いほど反発が強く、離れるほど薄くなる。

アンリの村も反発側らしい。

それを聞いてアンリは深い溜め息をつき、頬杖をついた。


「それがココとココの子供になんの関係があんだよ」

「リンデルトは外に自分たちの教育を持ち込むつもりだ」

「どういう意味だ?」

「あのめんどくさいガキ達がいたろ?あいつらにも壁みたいにしっかり教育を施すつもりらしい。それである程度成果が出れば、ココと一緒に外に出してそっちで育てるって手がある」

「なんであいつらがそんな事すんだよ、恩を売ってるつもりか?」

「先行投資だとよ」


今のうちのコストを掛けてでも外に味方になる人材を育てて、将来自分たちに有利なように動かす。

考えられるとしたらこの辺りだろうか。

なんにせよ、ラグゼルが外に出てみんなと仲良くしようとするのは良いことだ。

これでまた仲良くなれたらいい。


「なら、多少は希望を持っても良い……のかな?」

「あいつらだって無駄に恨み買うような事はしねぇだろうよ」


それでアンリも多少は落ち着いたらしい。

ココからの手紙を手にとった。

そして会話が途切れたのですかさずシュルツが割って入ってくる。


「申し訳ありません。今のお話は真でしょうか?」

「どっからだ?」

「全部です!真であれば詳細をなるべく早くフラウネール様にお教えいただきたく」

「ここでそんな無駄な嘘言うかよ、全部だ。俺も他にも報告したいし、なるはや言うならさっさと本人連れてきな」

「かしこまりました」


そう言って腰を深く折るとシュルツはソワソワしていた使用人達に支持を出し始める。

コルトも会話が終わったので食事に戻った。


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