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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第4章
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第81話

アンリは屋敷の客間のテーブルの上に置かれた中級討伐員に変わった身分証を見ながらふくれっ面を晒していた。

討伐試験結果は成功で怪我もなく短時間で終わったというのに、戻ってきたアンリは明らかに不機嫌だった。

アンリと共に戻ったファルゴと名乗った男が、審査方法に不満があるらしいという事を言っていたが、何があったのか不機嫌なアンリに直接聞く勇気が無かった。

なので今も顔色を伺っていると、ハウリルがため息を吐いてアンリの身分証を手にとってヒラヒラした。


「アンリさん、いつまでも拗ねるのは止めてください。教会が色々とアレなのは事前に言ったでしょう?」

「分かってるよ!分かってるけど、それで納得できるかは別だろ!」

「納得しろとは言ってません、機嫌を直せと言ってるんです。いつまでも不機嫌なせいでコルトさんが困ってるんですよ」

「ブフォッ!?」


まさかこちらに投げられるとは思わなかったので、飲んでいたものを思わず吹き出してむせてしまった。

シュルツがすかさず布を差し出してくる。

こちらに飛び火するような事を言わないで欲しい。

アンリがジロッとコルトを見た。


「不機嫌な人間がいると、それだけで空気が悪くなるんです。余計な気遣いって疲れるんですよ」

「……分かったよ、私が悪かったよ!!」


アンリはハウリルから身分証を奪い返すとポケットの中にしまい、テーブルにあったジュースを一気飲みした。


「……あぁもうルーカスは一体何やってんだよ、さっさと出ようぜこんなとこ」

「それについてですが、さすがにそろそろ何かしらの情報が欲しいですね。なのでお二人にはアーク商会の本店に行って、それらしいのが来ていないか聞いてきてくれませんか?」

「こっちから行くのか?」

「こちらへ尋ねるのに手続きがめんどうですし、言伝も内容があれで頼めませんからね。こちらから出向いたほうが早いのです。それと、もしかしたらすでについていてもこちらの居場所が分からないのではないかと思いまして」

「アイツ魔力で探せるんだろ?なんで分かんないんだよ」

「以前魔力持ちが多すぎてうるさいって言ってましたよね、それで思ったのですが、ここの魔力持ちが多すぎてわたしたちが紛れて探せないのではないかと思いまして」


確かに以前そんな事を言っていた。

ハウリルはここのところフラウネールについて教会の中枢のほうで働いているようだし、コルトとアンリの魔力量はこのルンデンダックの人と比べると少ない。

周りの魔力に隠されている可能性があると、探すのはかなり難しいかもしれない。

とはいえ、ハウリルの兄の素性を知っているしそこから教会の人に訪ねたり、それが叶わなくてもアーク商会の場所くらいは分かりそうなものだが。


「目立つ行動を避けているのかもしれません、あの身長と体格では人混みに紛れても飛び抜けるでしょうし、身分証もありませんからね」

「あいつ遠目でもすぐ分かるもんな」

「そんな人物が少数派の枢機卿を訪ねるのはかなり目立ちますよね。アーク商会を探すにしても、市民から見ても威圧感が大きく警戒されますよ」


それで怪しまれて騒ぎになればコルトたちを探すどころではない。

向こうをこちらが見つけるというのであれば最短かもしれないが、その後のリスクが大きすぎる。


「なのであなた達には本店で情報収集しつつ、それとなく目立つ人間の目撃情報が無いか探って欲しいのです。もちろん屋敷からも人を出します、南はあなたたちには任せられませんから」

「分かりました。……ルーカスのやつ、せめて看板からアーク商会を探すくらいはしててくれないかな」

「お忘れかもしれませんが、こちらに文字文化はありませんよ。看板を見ても何の店なのかを示す紋と、大きなところが独自に紋を作ってるくらいなので、それを知らなければまず無理でしょうね」


アーク商会の紋は馬車にあったので分かるかもしれないが、大量に色々なマークが並んでいるルンデンダックの街なかでは確かに1つを探すのに苦労するかもしれない。

こればっかりはしょうがないかと、コルトはため息をついた。






コルトはアンリと共に西地区にあるアーク商会の本店に来ていた。

中に入ると明らかに異質な二人組に客にジロジロと観察されて視線が痛かったが、飛んできた店員に身分証を見せるとすぐに奥に案内された。

どうやらフラウネールの紋の身分証を持つ人間は奥に通すように言われていたらしい。


「背の高い赤髪の男がルンデンダックに来ていないか知りませんか?」

「その人物については会長からも聞いておりますが、申し訳ありません、こちらでは把握しておりません」

「…そうですか」

「他になんか外から来た目立つヤツの話とかないか?」


赤髪の男とは言ったが、本来は暗い青髪であることを考えれば他の姿になっている可能性もある。

という事で一応聞いては見たものの、


「重ねて申し訳ありません。外からの討伐員などはよく出入りをしているため、さすがに全ては把握しきれません。最近きな臭い噂もありますし、あまり商会と関係ない事を探るのは……」

「そうですよね。こちらこそすいません」

「いえいえとんでもない。こちらでも引き続きそのような人物が来たらこちらでお引き止めいたします」


結局収穫無しという事で2人は残念な気持ちで店の外に出た。


「アイツどこで何やってるんだよ。まさか投げ出した?」

「さすがにそれは無いんじゃないか?」


仕事放棄を疑うコルトに対して、アンリはそれには懐疑的だ。

とはいえ、他に意見も無いので店の脇で2人で次にどうするか唸っていると、声を掛けられた。

顔を上げると試験でファルゴとか名乗っていた男だ。

アンリが軽く手を上げて挨拶ついでにどうした?と聞く。


「こっちのセリフだ。お前らは魔力が少ないからあんまりここに留まると店の奴らに嫌がられるぞ。それと最近外から来たやつが誘拐されるって話もあるからな」

「知ってる、人目の無いところと南には行くなってさ。店に用があったんだよ、当てが外れたけどな」


それを聞いたファルゴは驚いた。

アーク商会が店で取り扱うものは宝飾品や希少な魔物素材などが多く、顧客は金持ちや上級討伐員などが主らしい。

なので、つい先日まで下級で他所からきたコルト達がアーク商会に用があり、さらに普通に応対されたというのが意外だったようだ。


「商会長さんとは知り合いなんです。それで訪ねたいことがあって来たんですけど…」

「知り合い?そういやここの商会長は、店は他に任せて自分でも色々売り歩くヤツだったな。東で会ったのか?」

「はい。僕たちの連れが来てないか聞きに来たんですけど、まだみたいで」

「連れ?」


コルトはファルゴにもルーカスっぽいヤツを見ていないか聞いてみたが、ファルゴも分からないようだ。


「聞く限りだと見た目はかなり目立ちそうだな」

「こいつよりもさらに首1つ分はデカイからな、人混みの中でも紛れられないだろ」


それでも見つからないと、ため息をつくアンリ。

ファルゴは腕を組んで何かを考えている。


「そいつがお前の師匠なのか?」

「えっあーうん、色々教えてもらってはいるな」

「……強いのか?」

「……一応」


あれはそもそも強い弱いと比較するのがおかしいような気もする。


「東で会ったんだよな」

「そうだけど、……なんだよ」

「気に障ったなら謝る、東でそんなに強いヤツがいるって聞いたことがなかったから」

「……討伐員とか興味無いらしい」

「そうか」


ファルゴはまだ何かを考えているような素振りを見せている。

これ以上突っ込まれるとどこでボロが出るか分からないので止めて欲しい。

なので話を反らす事にした。


「ファルゴさんはどうしてここに?」

「試験が終わって故郷に戻る前に色々見て回ろうと思ってな」

「そういやお前も外から来たんだったな」

「そうだ西のかなり遠いところだ」

「なんでそんなところからわざわざルンデンダックまで来たんだよ。中級試験ならそっちでも受けられるだろ?西っていや上級もたくさんいるし、やってないわけないよな」

「一度くらいは教会の総本山見てみたいだろ」


あー、とアンリが納得顔になった。

ここに来たばかりの2人もテンション高くフラフラしたため、ハウリルに怒られた事を思い出す。

やはり何かの中心地というのには憧れが出来るようだ。


「それで、この後お前らはどうすんだ?店の用事は終わったんだろ」

「もう少し街中歩いてそれっぽいヤツの情報が無いか探してみる」

「アーク商会の店の場所が分からないんじゃないかって可能性も捨てきれなくて」

「なら俺もついていこう、お前らだけじゃ心配だ」


探している人物がアレなのでさすがにそこまでしてもらうのは悪いと断ってみたが、魔力の少ない子供2人がウロウロしてたら気になって帰れない、とファルゴも引く気が無い。

アンリとどうしようかとしばらく顔を見合わせる。

すると、それを見たファルゴが何か納得のいったような顔になった。


「あぁ、すまん。俺の気が利いてなかったな。他人には言い難いよな、そういう年頃だ」


すまんすまんと謝り、先程とは打って変わった態度になったファルゴ。

何を言ってるんだと思ったが、改めて現在の状況を考えてみると10代半ばからの男女が商業区にいる。

つまり周りからみればそうと思われても仕方がない。

コルトは慌てて勘違いだと言うが、ファルゴは気にしなくていいと完全に決めつけた態度だ。

横でアンリの機嫌が急降下していくのを感じる。

なんとか勘違いを正そうと頑張ってみるが、正そうとすればするほど逆効果になっていく。

そして勘違いしたままファルゴは日が沈む前に宿に戻れよ、と言って去っていった。


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