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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第4章
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第76話

「……壁の者はデカイな」


アーク商会と共に護衛として来たアーリンとリビーを見て、フラルネールはそう感想を零した。

アーリンは180を軽く超えているし、リビーも170を超えている。

さらに体を鍛えているので厚みもあり、2人が並ぶと威圧感があった。

コルトも肉がないだけで身長はリビーとほぼ変わらない、しかも年齢的にはまだ成長期だ。

対して、こちらの人は全体的に平均身長が低いし、体の厚みもあまりない。

その分魔力が多いので筋肉が無くても問題はないのだろうが、アンリはコルトの肩下だし、ハウリルもコルトと目線がほぼ一緒である。

ルブランも大きくはないので、アーリンとリビーに挟まれているととても凸凹している。

威圧感のある2人を従える姿は堂々としていれば威厳たっぷりなので、ハッタリが効きそうだ。


「君たちをこの屋敷から出したという事で身分証を発行すればいいんだな」

「是非そうしていただけると!!」

「良いだろう、ハウリルが連れてきた2人と一緒に4人分の身分証の発行を急がせよう」

「ありがとうございます!」


揉み手で礼を言うルブラン。

ハウリルはさっさと次の話題を出した。


「ルブランさん、魔石をこちらに」

「もちろんですとも!」


そして運ばれてきたのは大量の宝石箱だ。

ラグゼルから持ってきたときは簡素な木箱だったが、一度帰った時に入れ替えたのだろう。

ルブランはその中で一番見た目の豪奢な箱を手に取ると、恭しくフラウネールの前に運び蓋を開けた。

美しい箱に入れられた魔石は、パッと見は間違いなく大粒の質の良い宝石だ。

金銀細工で縁取りすれば、間違いなく引く手数多で高値がつく。

それをフラウネールは臆すること無く手にとった。


「これが魔石か。なるほど、確かに見た目は完全に宝石だな」

「魔術を刻むと魔力を通すだけで魔術が使えるようになるので、その辺の下級討伐員でも中級以上の働きが出来るようになると思います」

「それが面白い。大量に行き渡らせれば、一気に戦力を押し上げる事が出来る。これは無魔も使えるのか?それと魔族はどうだ?」


その質問にアーリンとリビーは顔を見合わせ、それからコルトを見た。

無魔が使えないのは知っているが、魔族がどうかは知らない。

なので首を横に振ると、リビーが分かったというかのように縦に振り返して口を開いた。


「無魔は使えないわ、発動のトリガーが魔力な事に変わりはないもの。魔族はまだわからないの、試す前に本人がぶっ倒れちゃったから。ただ魔石を使わせてみた感想だけど、魔力量が少なすぎて魔族が使う理由がないそうよ」

「ほぉ、なら君たちはその魔族の魔力から魔石を作ろうとは思わなかったのかな?」


それに対して答えたのはアーリンだ。


「知らないな、そういうのは情報が降りてこない」


それを聞いたフラウネールは口をへの字に曲げた。


「……しっかりしてるな。……分かった、シュルツ、言い値で買っておけ」

「分かりました」


シュルツが恭しく礼をする。

それを確認すると、ところで、とフラウネールが話を切り出した。


「君たちにお願いがあってね」

「何でしょうか?私共に出来ることであれば、是非お力になりたいとは思いますが」

「嬉しいことを言うじゃないか。君たちには子どもたちを壁まで運んで欲しい」


壁と聞いてアーリンが腕を組んだ。


「どういう事だ」

「こちらにある無魔の牧場が焼失した。そしてこの屋敷には各地で生まれた無魔の子供を密かに育てている」

「食べるものがないのね」

「そうだ、子供だけでも受け入れてもらいたい。5人だ」

「……俺達からは返答出来ない」


彼ら2人はあくまでアーク商会の護衛だ。

コルトならまだしも、国の代表としてここにいるわけではないため正式な返答が出来ない。


「子供を見捨てるのかな?」

「失礼ね。これでも人の子の親よ、助けてあげたいけど気持ちはあるわ。でも上が納得するかは別問題だし、無事に連れていける保証もない」

「それに、俺達はあくまでアーク商会の護衛だ。積荷に何かをいう権限はない」

「だそうだ」


フラウネールがルブランを見た。

ルブランは目を泳がせている。

出来れば今後のためにもここでフラウネールの要求は飲んでおきたいが、ただの物品ではなく生き物、それも無魔の子供5人だ。

どう考えてもリスクが高い。

商会員も不安そうにルブランを見ている。


「しっ、しばらく考えさせてくだ…さい……」


震える声でルブランは絞り出した。


「仕方ないな。1週間で覚悟を決めて欲しい、それ以上は待てない」

「断らせるつもりがないわね」

「そうだよ」

「いっぺんに5人は無理でも、2組に分けたりは出来ないの?」

「往復の間にこちらの備蓄が尽きる、残り3ヶ月分しかない」

「ギリギリ無理そうね」


2人の会話にルブランは頭を抱えた。


「すいません、ルブランさん。引き受けてもらえませんか?僕からもお願いします」

「あらっ、コルトくんはそちらの味方するの?」

「何言ってるんですか、幼い子供の命が掛かってるんですよ!どっちの味方もないですよ」

「それはそうなんだけどね」

「俺達が連れて行くのは構わないんだよ。でも王家がどう判断するか、俺達には分からない。今までを考えれば見捨てる可能性もあるし、友好を結ぶ相手として受け入れる可能性もある。ただ受け入れを拒否した場合どうなるか俺達には分からない、希望を持った人間を貶めるようなことはしたくない」

「君のそれはエゴだろう?」

「そうだ。俺達は軍人だ、上の決定には絶対に逆らわない。だが何も思わないわけじゃない、上の決定とはいえ見捨てた事実は必ず俺達を鈍らせる。守りたいもの守れなくなる可能性を上げたくない」


それなら最初から見えないところにいて欲しい。

視界に入ってこないで欲しい。

情を生ませないで欲しい。

それを非情と人でなしと罵れるだろうか。


「それなら王家の人達が絶対に面倒を見てくれる保証があればいいですか?」

「あるのか?」


コルトは頷いて親書の件をアーリンとリビーに話した。

2人は親書が2枚に分けられていて、コルトの持つものと合わせないと意味がない事を知ると、やれやれと言った感じで呆れていた。


「食えない王宮らしいわね。殿下かしら?」

「殿下だろ。イリーゼ様ならもっと正面からド直球にぶつかるぞ。でもそうだな、その追加目録の代わりならある程度の期間は保証出来る」

「だそうだ。アーク商会、そちらはただ積荷として子供を運んでくれればいい」


ルブランは苦虫を噛み潰したような顔だ。


「我が商会の従業員に何かあったら守っていただけるだろうか」


不本意とはいえもうすでに大分危ない橋を渡ってはいるのだが、だからってそれでハッチャケられるようなタイプではないらしい。

組織を束ねるものとして、その下の安全には気を付けたいのだろう。


「当然だろう、君たちの代わりを探すほうが面倒だ。というより、これからを考えて向こうに本店を移したらどうだ?」

「ありがとうございます。ではお引き受けいたします。本店移転も考えておきましょう」

「ここで決めてくれてありがとう。シュルツ、魔石を言い値で買っておけ」


シュルツは一礼すると、どうぞこちらへとルブランとアーク商会員を連れて部屋から出ていった。

残ったのは兄弟とコルト達と軍人夫婦だ。


「さて……ざっくりとだが、壁…あー、ラグゼルと言ったかな?そちらが魔族と組んでまで何をやりたいのかは大体聞いた。俺も出来るなら妙案だと思うしこの機を逃せば次は無いと思っている、引き続きハウリルを連れまわして欲しい」

「理解と賛同に感謝する。こちらからももっと人員を出せればいいのだが、今は国内事情でコルトくんしか出せない。うちの国ではコルトくんは非戦闘員なので戦えないが、機械系統の組み立てや修復では優秀な成績を修めていると聞いている。向こうで活躍してくれるだろう」

「うっすらとだがそちらの技術力については聞いている。よくそこまで再現したものだ」

「ほとんど再現出来てないわ。先祖の残した記録と比べれば、私じゃ足元にも及んでないそうよ」

「それでもこちらとは雲泥の差があるだろう」


国家繁栄のためには人口を増やすのが手っ取り早いが、その分食料も多く必要になる。

ラグゼルは完全に閉鎖された国であるため、食糧自給は全て国内で賄わなればならない。

土地も増やせないので農地畜産に使える土地とそこから算出される食料から、どうしても人口の最大値が決まってしまうのだ。

仮に人口を抑えたとしても、発展にはどうしても電力エネルギーかそれに変わるものが必要だ。

現在のラグゼルはどちらも計算上の頭打ちがきている。

そしてタイミングが良いのか悪いのか、協力的な魔族が現れた。

さらに教会側の情報も得ることが出来た。

今後を考えるなら、絶対にこの期は逃せない。


「装置の場所の検討はついてるのか?一応言っておくがエルデには装置が無かったと記録にあるぞ」

「エルデには無いわ。よく知らないけど、建国のときに何らかの理由でもらえなかったらしいのよ」

「さすがに他国の情報までは持ってないから、正直に言うと虱潰しだ。でも魔人の協力で移動には困らないから、そこそこの期間でなんとかなるんじゃないかとは思っている」


と、大人の中で会話が始まったのでアンリがこっそりとコルトの袖を引っ張った。


「なぁなぁ、えるでってなんだ?地名っぽいのは分かるけど」

「えぇっと……」


聞いたことはあるような気がするが、いまいち記憶があやふやだった。

なので口ごもっていると、


「ちょっとコルトくん、貴方歴史の授業寝てたの!?」


呆れ返る軍人夫婦がコルトを見ていた。


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