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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第4章
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第75話

翌日、気力を取り戻したコルトはぼんやりと屋敷の玄関から空を眺めていた。

客人という扱いなので屋敷の手伝いは断られてしまったし、かといって今は身分証が無いため自由に出歩くことも出来ない。

なのでとりあえず庭でも見ようかと外に出てみた。

故郷と変わらぬ空だが、少し乾燥しているように感じる。

ラグゼルが海沿いの国であるのに対し、ルンデンダックは内陸に存在する街だからかもしれない。


──あまり雨は降らないはずだけど、近くに川が流れてるし砂漠化もしてないみたいだ。


綺麗に整備された庭の草花や木はとても瑞々しい。

そのままボーっとしていると、背後から突然声を掛けられた。


「この街をどう思う?」


びっくりして振り返ると、フラウネールが立っていた。

相変わらず得体のしれない苦手意識があって、目が泳いでしまう。


「えぇっと…空は変わらないなって……。あとは乾燥してるけど、砂漠にはなってないなって……」


ちゃんと答えになっているか分からない返答をしてしまったが、フラウネールは気にしていないようだ。


「共通点が見つかって良かった。それと、サバクとは何か聞いてもいいかな?」

「雨がほとんど降らない、とっても大きな砂地です。岩場のこともあります」

「そんなところがあるのか。壁の向こうにもあるのかな?住みにくそうにも思うけどね」

「……無いです、割と雨が降るので」


返答をして、そこでふと思った。


──なんだろう、なんかおかしいな……。


一瞬変な違和感を感じたが、それがなんなのか分からない。

きっと大したことではないのだろう。

それよりもこの場を離れたいと思っていると、フラウネールに図星を指されてしまった。


「君は俺が嫌いかな?」

「うぇ!?……へっ、いやっ、あの……そんなことは……」


あからさまに動揺してしまい、これでは肯定しているのと同じだ。

だがフラウネールはハッハッハと快活に笑った。


「君は正直だな、気にするな。これまでの確執を考えれば、君が俺にいい感情を抱くはずがないからな。ここに来てくれただけでも感謝しよう」

「……はい」


なんかもう返答がめんどくさかった。


「ところで、俺はこの通り髪が白いだろ?理由が分かるかな?」


早く解放されたいと願っているが、なんとクイズが始まってしまった。

仕方なく観念してフラウネールに付き合うことにした。


「魔力を複数属性持ってる、とかですか?」

「正解だ。俺は4属性全て扱える、それも自分で使う属性をコントロール出来るし、人よりも量が多い」

「魔族みたいですね」


即答で出てきた返答だった。

共族での複数属性持ちは2種持ちが極稀に生まれるくらいだ。

4属性全てというのは聞いたことがない。


「やっぱりそう思うか……。君たちの仲間には魔族がいるのだろう?俺と比べてどうだ?」


どう、と言われてもそもそもあれを仲間とは思いたくないし、比べてと言われても違いがよく分からない。

強いて言うなら、あっちは嫌いに踏み込んでいるが、こっちはギリギリその手前で踏みとどまっている感じだ。

だがそんなこと絶対に言えないし、そもそもコルトの個人的な感情は聞いていない。


「……そのうちここに現れるので、本人に聞いたほうがいいと思います。僕にはよく分からない」


投げやりな返答になってしまった。


「君は手強いな。なら少し別の話をしようか。この屋敷では無魔野菜を作るための研究をしていてね、だが全く上手くいかないんだ。何が悪いと思う?」

「土だと思います。全部取り替えないと意味ないと思いますよ」

「やっぱり土か。俺がこの屋敷をもらってからは魔力精製の水を使わないようにしていたんだが」

「1回の使用で魔力が抜けるのに十数年は掛かりますし、あとは根本的に魔力持ちがずっと住んでる土地ならどうしようもないです」

「住んでるだけでもダメなのか」

「魔力持ちは生きてるだけで魔力を漏出するので、広範囲に侵入制限掛けないとダメです。というか、漏れること知らないんですか!?」


計測しないと漏れていることが感覚的には分からないが、これだけずっと魔力を地盤とした社会を築いているのだ、知っててもおかしくないと思うが。


「感覚として漏れているなというのは分かる、だが具体的にどのくらい漏れているのかは分からない。俺以外はその感覚も分からないみたいだからな」

「…魔力社会を築いているのに経験的に分からないんですか?」

「痛いところをつくが、魔力が漏れることが害であるってなるとね、こちらの社会秩序が崩れるんだよ。教会の支配が揺らぐから、知っていても隠しているだろうね」


魔力によって土地が汚染されることが悪となれば、存在すること自体が悪になってしまう。

そうなったらどうなるか。

恐らく果てのない内戦状態になるだろう。

存在が悪だとして人を滅ぼそうとする者。

それでも生きたいとして抗い続ける者。

その状態に利を見出そうとする者。

その他、ただ強者に使われるだけの者。

上げたらキリがない。


「君の言い方だと、そちらでは経験ではなく実際に漏れる量が分かるのかな」

「計測機器がありますし、量による数値の基準や、段階によって住む場所も制限されてます」

「面白いな。具体的にはどんな感じなんだ?君の魔力量は?」

「……僕は向こうの基準で6です。1を基準として、1未満がギリギリ無魔地区に住める量、3以下ではある条件下でのみ共鳴力の受信だけ出来ます。6は割と多い方、8以上だと極端に減りますね。貴族の家系には多いですけど」

「君のその髪色で多い方なのか、6というのは1の単純に6倍という値でいいのかな?」


頷いて肯定する。


「厳しいな、こちらにはまずいない。……ハウリルも計ったのかな?」


本人に直接聞けばいいという言葉を飲み込んで、コルトは武器開発の時の資料を思い出した。

確かアンリは9くらいで、ハウリルは17とかだった記憶がある。

因みに魔族は計測エラーで数値が出ていない。

ただ医療区の電力供給量から400は軽く超えていると予想があった。


「……そうか………」


フラウネールは何かを考え始めた。

これを聞いたフラウネールは何がしたいのだろうか。

人の上に立つ立場で、ここの人達をどうしたいのだろうか。

コルトはそれをじっと見つめ、口を開く。


「フラウネールさんは人をどうしたいんですか?魔力があるとマズイと分かって人を滅ぼしたいですか?」

「滅ぼす?俺が?冗談はよしてくれ。人を滅ぼすってことは弟の世界を奪うって事だろう?出来るわけがない」

「……ならそのハウリルさんが亡くなったらどうするんですか?」

「そんなことは起きないから分からないな」

「……仮定の話でも?」

「そうだ。想像出来ないし、そんなことは俺がさせない」

「ならハウリルさんがそれを望んだら?」

「望むわけないな。あれは口では人付き合いは苦手だと言うが、なんだかんだ誰とでも仲良くしているからな」


あり得ないと笑うフラウネールだが、以前ハウリルはなんて言っていただろうか。


──どうでもいい。そんな事を言ってた。でもこの人は信じてる。


何かが噛み合っていない。

でもそれを赤の他人のコルトが指摘するのもどうなのか。

とりあえず逃げる事にする。


「すいません、変なことを聞きました」

「それは構わんが、君は変な子だな。俺のことが嫌いなのに、悪いことをしたと思ったら謝るのか」


何を当然のことを言っているのか。

意味が分からなくて眉根をひそめる。


「嫌いなやつに謝るやつなんていないぞ、1つも良いことないからな」

「悪いことをしたら相手が誰であっても謝れ、それが社会秩序には必要なことだって教えられました。僕もそう思いますし、表面上であっても責を認めることはその人の成長にもなると思います」

「相手がつけあがるだけだろう」

「謝罪がいらないなら、裁判にもっていけばいい。あとは適切に裁いてくれます」

「あれは権力者が社会に己の正義を示すためのものだぞ」

「違います。裁判は全ての人が同じ人である事を示すためものです」


みんな平等に生きている。

だが立場は不公平だ。

だから法を全ての人間に如くことで、立場の不公平差を埋めるのだ。

少なくともコルトはそういうものだと理解している。

フラウネールは一歩も引かないコルトにクックッと笑い声を零した。


「よく分かった、壁の向こうは良いところのようだな」


フラウネールは満足そうに笑った。


「君は身分のある生まれではないのだろう?」


質問の意図が分からないが、王族貴族ではない労働者階級という意味ではまぁそうだろう。

王宮や領主館勤めでもない、平均的な一般家庭出身だと思っている。


「それでも君は全ての人は同じ人だと断言した、裁判も適切に裁いてくれると断言した。つまり君はその裁きが適切なものだと思っているわけだ」

「当然でしょう」

「こちらでは当然ではない。冤罪なんて日常的に起こるし、身分のある者が犯した罪はなかったことにされる。それを下のものは当たり前だとして抵抗する気すらもう無い」


正義とは強き者の下にある、それが現在の教会だ。

とフラウネールは溜め息をついた。


「本来そんなものは誰の下にもない、俺はそれを変えたい。このままだと俺がいなくなってからのハウリルがどうなるか分からないからな」

「………」

「それで現状をぶち壊すには壁の悪魔を動かすしかないと思っていてな、一か八かの賭けだった。そちらの状況がこちらよりも悪い可能性もあったからな」

「……失礼ですね」

「あぁそうだ、謝罪する。君たちは手を取るのに十分過ぎる相手だ」

「……親書のこともあったのに?」

「アレは腹が立ったが、同時にそのくらいの頭と技術がある相手という事も分かったからな。それに、上がどういう奴らかは下の人間、つまり君を見れば分かる。何より実際に過ごしたハウリルが何も言わないからな。問題無いだろう」


そしてフラウネールはそろそろ時間だなと踵を返した。

だがふと立ち止まって振り返る。


「久々に有意義なとてもいい時間だった、君に嫌われていることだけが残念だよ」


そしてアーク商会が来るから一度君も中に戻ると良いと言い残して、フラウネールは扉の中に消えていった。


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