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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第4章
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第69話

翌日、予定通りに拠点街について一行は、まず真っ先にアーク紹介の支店へと向かい、短期間で再訪した商会長に驚く従業員たちに迎えられ店の奥へと通された。

そこで出された紅茶を飲み、一息つくとどっと疲れが湧いてきた。

アンリはもう動きたくないなどと言っている。


「皆さんここまで休めるときがありませんでしたからな、ここらでしばしゆっくりしてくだされ。部屋も用意させますんで」

「やった!久々に屋根の下だ!」

「ありがとうございます。さすがにここまでほとんどまともに休めていませんでしたから」

「ネーテルから壁へ、そして休むまもなくアウレポトラからのここですからな。お疲れでしょう」


そしてルブランはしばしここでお待ちをと言い残して部屋を出ていくと、それに軍人夫婦もついていった。

彼らはルブランの護衛が本来の仕事なのだ。

部屋に3人だけになると、さっそくアンリがイスの上でだらしなく横になった。


「アンリ、やめなよその格好」

「うるさいな、別にいいだろ」

「行儀が悪いよ」


足を投げ出した格好に忠言を入れると、追加の紅茶を自ら入れているハウリルが口を挟んできた。


「まぁいいではないですか。今は3人しかいませんし、ここまでまともに休めていないうえに、ここを出たらまたしばらく休めないのです。楽できるのは今のうちですよ」

「そうだぞコルト。お前もたまにはだらけてみろ、気持ちいいから」


そう誘われてもさすがに他人の家でそこまで寛ぐなんて事は出来ない。

とはいえ、疲れていることに変わりは無いので商会の割と座り心地の良いイスに座っているうちに、ウトウトとつい寝入ってしまった。






『最強の生物を作りたい』


手にした本から顔を上げる。

そんなものを作ってどうするのか。


『やっぱり作るなら一番良いものを作りたい』


バカバカしい、目的を考えれば最良である必要は全くない。

ただの道具と変わらないのだ、最低限のスペックさえあればいい、見本もたくさんある。

そもそも今まで多くが挑戦して皆失敗に終わっている。


『だから作るんじゃないか』






起こされたのはそれから小一時間ほどたってからだ。

何か夢をみていたような気もするが思い出せない。

思い出せないなら大したことでは無いだろうと切り替え、そしてアーク商会経営の支店の隣の宿に案内され、そこでその日を終わらせる。

久々の人間の寝床は最高だった。

翌日、アンリは情報収集をするというハウリルについていき、コルトはコルトで魔石について色々調べたいというアーク商会お抱えの職人のところにルブランと共に出向いていた。


「ほーん、これが魔力の塊ね」


工房の奥に案内され早速魔石を見せてみると、職人は様々な角度から眺め始めた。

火釜の光が反射して、水属性を宿した青い魔石がキラキラと光っている。


「見た目は宝石にしかみえねーが、これだけの数を全く同じ形と大きさで揃えるたーすげーな」

「魔石にするときの型がその形なんですよ。用途に合わせていくつか種類があります。それは一番小さな型のはずです」

「なるほど、そりゃ面白いな」


それから職人は金槌で魔石を軽く叩き始めた。

強度を確認しているらしい。

魔石は密度によってその強度が変わる。

今回のものはあまり光の反射が強くないのでそこまでの密度はないはずだ。

案の定、割とすぐに砕けていた。


「加工はしやすいが、これじゃ武器につけるにはちと不安だな。激しい戦闘の衝撃で崩れたんじゃ使いもんになんねーだろ」

「なにっ!それでは無駄な物を掴まされたか!?」

「えぇ!そんなちょっと待ってくださいよ」


武器に使えないと聞いてルブランが憤り、コルトも焦った。

ラグゼルでは一般的に普及しているもので日常的に使っているものだ。

それを無駄と言われるのは少々癪に障る。

どう反論しようかと考えていると、なんと職人のほうが味方をしてくれた。


「まー待ってくれ商会長さんよ。壁の悪魔共はこれを確かに武器に使ってたんだろ?」

「あっあぁ確かに、武器にはめ込まれているのをわしは見た」

「そうか。なら俺も武器職人として何とかしないわけにはいかねーよな」

「あぁぜひそうしてくれ!もちろん魔石単体でもいいが、魔術入りの魔石がはめ込まれた武器が出来ればうちの売りになる!」


先行投資。

西はともかく、東の状況的にはアウレポトラ次第で大幅に世の中が変わる可能性がある。

その時、状況にいち早く対応出来ればそれだけ儲けが出るのだ。

職人もそれは分かっている。

商会所属の職人として、先ずは利益が出るものを作るのが優先なのだ。


「……なら、坊主。ちょっと向こうで使ってる武器について教えてくれないか?」

「構いませんけど…具体的にはどんな……」

「現物の武器が手に入るのが一番いいんだが」


現在ラグゼル製の武器を持っているのはアンリと軍人夫婦だ。

アンリは今はいないし、外で待機している軍人夫婦のほうも工房を見た段階で、武装については答えられないと一言入れていた。

コルトはいいのかという話だが、特に口止めはされていないので多分大丈夫だ。

だがさすがにあまり深く突っ込んだ事を聞かれるのは困る。

そのくらいは分かる。


「向こうじゃ魔物の素材は無いんだろ?なら代わりに何を使ってるんだ?」

「そんなの金属に決まってるじゃないですか」


と、身構えていたが思ったより簡単な質問がきたので拍子抜けしてしまった。

金属以外に何があるというのか。

だが職人にとってはかなり衝撃的だったらしい。


「金属!?鉱山があんのか!?」

「ヴェハァッ!?」


驚愕の表情を浮かべた職人の顔が勢いよく近づいてきて、思わず変な声をあげながら後ずさってしまった。


「さっ、さすがに鉱山はないですよ!?」

「ならどうやって金属を手に入れた!」


コルトは小一時間かけて無魔と共鳴力について知っている事を1から説明するはめになった。

当然というべきか、話の内容に職人はかなりショックを受けている。

ルブランは前に色々説明したことがあったが、改めて聞いてもやるせないのか悲しい顔をしている。


「……そう、か………そうか…。無魔がな…そうか……」


職人は複雑そうな顔して魔石を握りしめ、一呼吸置いてから開くと改めて見つめた。

無魔の真相はこちらの人には耐え難いのだろうか、大体みんな同じような反応をする。


「そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ。みんな優しい人たちだからきっとまた仲良くなれます」

「……小僧。人の恨みはな、そう簡単には晴れねーのよ」

「えっ?」

「大事な人を、愛しい人を奪われるってのは、自分を奪われるのと同じなんだよ。そう簡単には晴れねーよ」


──恨みが…晴れない?そんなことはないはずだ。だってアンリとココは大丈夫だった。なら人はもっと前を向いて歩ける、そういう生き物のはずだ。


衝撃的な事を言われ、それからのことはあまり覚えていない。

完全に上の空の状態だった。

どうやって宿まで戻ったのかも覚えていない。


「影響受けすぎだろお前」


帰ってくるなりコルトを見たアンリが開口一番にそう言った。

ハウリルとの情報収集を終えて宿に帰ってくると、入り口に申し訳無さそうなルブランがいて事情を聞いたようだ。

ハウリルはルブランにまだ用があるとかで、先にアンリ1人が戻っていた。


「つーかお前、前に似たような時にルーカスにはめちゃくちゃ反論してたじゃん。それがどうして今日知ったような奴に言われてこうなるんだよ」

「あの時はアンリだって同意してたじゃないか」

「そりゃ私とココの仲だぞ、そう簡単に壊れてたまるか」

「だからそれで普通だと思ったんだよ」

「ハァ、お前マジで言ってんの?」


今のコルトの言葉にアンリはかなり頭にきた。

見ず知らずの人間同士のいがみ合いと、生まれた時からずっと一緒にいたココとの関係を同列に語られた。

知っているはずのコルトに言われたのだ、許せるものではない。


「ずっと一緒にいた私とココを、顔も知らねぇような奴らと一緒にすんじゃねぇよ!」


コルトの胸ぐらを掴んで怒気を昇らせるアンリ。

あっ、これは殴られる、と思ったときだ、何も知らないハウリルが戻ってきた。

部屋に入って最初に見たものが殴り殴られる寸前の2人だったことに、さすがのハウリルもびっくりしたのか一瞬固まった。

だがそこはハウリルなので、アンリよりも先に復帰すると素早く腕を掴んで止める。


「おやめなさい、何があったのです」

「放せよ!」

「ダメに決まってるでしょう。あなた結構力強いんですから、コルトさんが無事ですむわけないでしょう。あの2人がすっ飛んできますよ、面倒事はよしてください」


それを聞いたアンリは舌打ちしながらもコルトから手を離した。

ハウリルは溜め息を吐くと、アンリの腕を掴んだまま手近なイスを引き寄せてそこに座らせると、何があったのかを2人に聞き始めた。


「なるほど、それはアンリさんが怒るのも分かりますね」


フンフンと頷いたハウリルにだろ!とアンリが息巻く。


「コルトさん。なんでアンリさんとココさんの距離と、見知らぬ他人同士の距離が同じだとでも言うようなことを言ったのです」

「…だって……同じ共族同士だし」

「だからそれがおかしいって言ってんだろ!」


コルトの意味不明な発言にすかさずアンリが突っ込むが、ハウリルが手を上げて静止させた。


「コルトさん、同じではありません。前者は個人という最小単位の話で、後者はもっと大きな共同体での話です。なぜそこを混同してしまったのです」

「……個人…共同体………でも、共族なのは同じで」


ハウリルが頭を抱えた。


「思ったより重症ですね。どこから説明すればいいのか分かりません」

「……こいつ、もしかして共族と魔族って括りしかないんじゃねぇの?私らの言葉は割とほいほい聞くし反論とかもしないのに、ルーカスの言ってることはいつまでたってもすぐ反発すんじゃん」

「いくらなんでもそれは雑過ぎでしょ」

「でもこいつ前にルーカスに似たような事言われたときと影響のされ方が全然違うじゃん」

「……はぁ。全くどこでその価値観を身に着けたのです。ラグゼルのあの様子では、あなたのような価値観になるような教育はしていないと思いますし」


それに対する答えをもっていない。

だって誰にも教えられずに、自然とそういう風に思っていたからだ。

それに誰も間違っているとは言わなかった。

王家だって、殿下だって偏見が無いのは良いことだって、壁の外の調査要員に選んでくれたのだ。

納得していない事が顔に出ていたのか、アンリとハウリルが呆れたように顔を見合わせた。


「ともかく、今回の件はここで終わりにして、以後話題にはしないようにしてください。屋敷に帰る前に頓挫されては困ります」

「お前はお前で自分のことしか考えてないのな」

「それだけ今まで色々やってきたのです。運良くここまでこぎつけたのに、ここで崩れてしまったら気が触れてしまいます」

「はいはい、分かったよ。全くどいつもこいつも……私が我慢すればいいんだろ!」

「ことが終わればいくらでも殴られましょう」

「そうさせてもらうよバーカ!」


そう言い残してアンリは与えられた部屋に下がっていった。

ハウリルも食事を早めてもらうと言って部屋をでていく。

残されたコルトはしばらく膝を抱えたまま、言われた事について考え続けていた。


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