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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第3章
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第65話

拠点につくと軍人達が何やら慌ただしくしていた。

とは言え何かといつも忙しそうにしているのですっかり見慣れた光景になってしまった。

外れのほうではアウレポトラの人達が再会を喜んだり、また街の状態に呆然としたりしているのがチラッと見えた。

アンリはそれらを一切気にせずドンドン奥に進んでいる。

そして奥まで来ると、見慣れた緑髪が視界に入った、その隣には知らない軍人2人がルブランと何かを話している。


「ハウリルー。コルト連れてきたぞ」

「おかえりなさい。色々あったそうですがご無事でなによりです」

「僕は特に何もしていないので」

「いえいえ、監視で忙しい彼らの代わりに色々なところに必要な物を届けて回っていたと聞いています」


確かに表面だけ取ればそうだが、実際はクルト達が率先して頑張っていたためコルトはほぼその付添だった。

そしてハウリルと喋っていると、ルブランと喋っていた軍人2人が振り返った。


「やぁコルトくん、それとアンネリッタちゃんと言ったかな、初めまして。僕達は今回こちらのアーク商会の専属護衛をすることになったアーリンと」

「妻のリビーよ」


差し出された手をコルトとアンリはそれぞれ握った。


「ルイの事は聞いた?」

「はい、アンリに聞きました。一度ラグゼルに戻るって」


言われてみれば3人集まってるのにまだ姿を見ていないなとぼんやりと思っていると、


「今も全く目覚める気配がない。それで一度ラグゼルで療養させる事になった」

「目が覚めない!?」


それは初耳だ。

亜人をルーカスと共に討伐したと報告が入ったためこちらに来ることになったのだが、ルーカスの現状については何も言われなかったためまさか意識が無いとは思わなかった。

アンリもさっきは無理としか言っていない。

驚くコルトにハウリルが言ってなかったのですか?とアンリに聞き、アンリもまた聞いてなかったのか!?と驚いた。


「もしかしたら彼らがいたから敢えて詳細は伝えなかったのかもしれませんね」

「そのとおりだ。だが問題なのはそっちじゃなくてな」


ルーカスがいないという事はコルトの護衛がいなくなるということだ。

今までは一応ルーカスがいたからコルトの壁外での行動が認められていた。

そのため現状ではコルトのこれ以上の壁外での活動は認められないのだが、


「それだと貴方達が納得しないでしょ。だからアーク商会と行動を共にするという条件で貴方の活動を認めようって話になったの」

「このままここにいるのも時間の無駄ですからね。なのでこのままルンデンダックまではアーク商会と共に行きますが、そこからはルーカスの合流待ちです」


ルーカスであれば恐らくルンデンダックまで1人でもたどり着けるし、そこからコルト達3人も見つけるくらいは出来るだろう。


「戦闘大分激しかったみたいなのよ」

「そうですね、かなり無茶をしたようで姿も大分変わっています。アシュバートさん達の部隊にいた医者の方が言うには魔族と言えど姿のベースは人であるというのがルーカスと共に共通の認識らしく、どうやら今回は肉体を大幅に人から離してしまったので負担が見た目以上に出てしまったそうです」

「人…ですか」

「鱗や角生えててもか?」

「はい。ルーカスは我々と同じ共族の見た目になるのにほとんど肉体の負担を感じていないそうです。それについて壁内では創造神が魔人を作る時に人から改造したのではないかと予想していました」

「私らから作ったのか!?」

「あくまで予想です。わたしたちからさらに改造したのが魔人なのか、それとも全く別の工程で生み出されたのか、事実は神しか知らないでしょう」


共族も魔力を使えるので案外進化した共族として作ったのが魔人かもしれませんよ?とハウリルが言っているが冗談じゃない。

魔人が魔族が共族の進化した存在であるなんてそんな訳がない。

あんなに自分勝手で攻撃的な存在を作るわけがない。

明らかに不機嫌になったコルトに、ハウリルは冗談に決まっているじゃないですかと言った。

根っこはともかく、どうみても能力に差がありすぎるので進化したと言うには一気に飛躍しすぎていてあり得ないだろうと付け足した。


「ふーん、まぁ今後の事は分かった。ならコルト、しばらく会えないんだし顔くらい見といたらどうだ?一応同じ奴だなって分かるくらいには面影あるぞ」


言うが早いか、アンリは問答無用でコルトの手を引いて歩き出すと、ある一つの天幕に近づいた。

入り口では何人かの軍人が腕を組んで話し合っている。


「中入ってもいいか?」

「ん?おぉ、アンリちゃんとコルトくんか。いいぞ、起きないとは思うけど一応うるさくするなよ」

「分かってるよ。それよりあんた達は何話してんだ、ここ入り口だろ?」

「あぁすまない、少しズレるよ。ルイを運ぶためにどうするかって段取りを決めてるんだ」

「なるほど。んじゃ私らは遠慮なく」


とアンリは天幕の入り口を開いた。

中は薄暗く、少し音が遮断されているのか微妙な静けさだ。

そしてルーカスはその中央から少し奥に寝かされていた。


「……なんだこれ」

「第一声それかよ」


そんな事を言われても、角は前見たときよりも巨大になって縦にも横にも張り出しているし、体に布がかけられていてもチラッと見える手足も以前よりも心なしか鱗が尖った大きくなっているような気がした。

さらに羽っぽいものや尻尾のようなものまで飛び出ている。

確かに顔は面影はあるが、以前見た魔族の姿よりも鱗の侵食率が上がっており、口も耳に向けて大きく裂けている。

その耳は逆に退化しているのかほぼ穴のような状態になっており、髪が無ければ正直気持ち悪い。

その違い過ぎる姿に、コルトにはとても同じ人には見えなかった。


「ここまでしないと勝てない相手だったんだろうな」

「……僕亜人の事そんなに聞いてないんだけど、そんなに凄かったの?」

「らしいぞ。私も到着したときすでに終わってたからハウリルとクーゼルに聞いただけだけどな」


曰く、巨大化していただの、大量の触手だのなんだのでまず間違いなく普通の共族が戦えるような状態ではなかったらしい。

それを聞いて余計に侵略してきた魔族が恨めしくなった。


「どうしてアンリ達は平気なの?」

「何が?」

「こんな…こんなに魔族にいいようにやられて、どうして平気なの、こいつらがいなければ今も平和に暮らせてたはずなんだよ!?」

「じゃあどうしろって言うんだよ」

「追い出すべきだろ!?」

「どうやって」

「どうやってって、そんなの向こうの、元住んでた時の技術を使えば!」

「お前、それ本気で言ってる?」

「本気って、当たり前じゃないか!」


アンリが盛大に溜息をついた。


「まずどうやって向こうに行くんだよ。お前ら話し合いでこいつの協力が無いと無理ってなったじゃん」

「でもこっちに地下道があるんだよね」

「それ教会が抑えてるって話だったろ」

「何とか話し合いで」

「無理だろ」


お前はちょっと理想を語り過ぎだとアンリがコルトを嗜めると、何を騒がしくしているのかとハウリルが天幕を開けた。


「仮にも怪我人の前ですよ、騒ぐなら出なさい」

「うっ、すいません」

「…悪い」


出るように促されて2人は決まり悪く天幕から出ると、ハウリルが2人に向き直った。


「それで、何を揉めていたのです」


アンリが説明するとハウリルも無理ですねと即答でバッサリと切り捨てた。


「彼らは今の利権を捨てるつもりは無いと思いますよ。向こうの技術は共鳴者でないと使えない可能性が高いので、それを考えると今も多数の共鳴者がラグゼルが圧倒的に優位です。教会の頂点で他人をこき使ってるような奴らが、使われる立場になる事を容認するとは思えませんね」


誰だって下には落ちたくない。

それはラグゼルだって同じだ。

どんなに否定したくても一度上にいった者の中には必ず下を見下すものが現れた。

それは変えようの無い事実だ。


「そもそもですが、あの神の支配下だったからこその今だとわたしは思っていますよ」

「どういう事ですか」

「前にも言ったかもしれませんが、われらの神は争い、諍い、あらゆる暴力を否定していました。当然武器なんて物もありません。世界があそこだけならそれで良かったかもしれませんが、現実としてすぐ側に魔族がいたのです。そのときに武器があれば今が変わっていたかもしれませんよ」


実際やろうと思えば作れる技術はあるのだ、それはラグゼルが証明している。

だからハウリルは現状がどうだろうと神の支配下におかれるよりはマシだ、と教会ですら思っていると付け加えた。

戦うことを否定し、だからと言って守ってくれる訳でもない存在などいないほうがいい。


「って事は、一応神はいらないで教会も壁も一致してるって事か?」

「そうなりますね、結局は彼らも力による支配なので。問題は今の世界を神は許容しないはずなのですが、魔族侵攻を受けたときから反応がないので……」

「されるがままって事か。……死んでるんじゃね?」

「どうでしょう。神が死ぬような存在なのかも分かりませんし、敢えて魔族に好きにさせてる可能性もあります」

「何のために!?」

「知りませんよ。魔族内で自称上位のルーカスに神から何か指令が下されているようにも見えませんし」


結局結論はいつもと同じになってしまった。

だがそれよりもコルトは神を否定された事が何故だが自分を否定されたような気がして気分が悪かった。

争いが嫌いみたいだし、そこのところに共感をしたからかもしれない。

と3人が喋っていると、軍人達がぞろぞろと集まってきた。

どうやらルーカスを運び出す算段がついたらしい。

毛布が敷き詰められた犬馬車も到着し、そしてルーカスは数人の護衛と共に犬馬車に乗せられて移送されていった。

するとアンリがポツリと呟いた。


「なんかいなくなるとそれはそれで寂しいな」

「おやっ、意外ですね。割と気に入らない存在かと思っていましたが」

「コルトと一緒にすんなよ!最初はやっぱいけ好かないやつだったけど、なんだかんだで色々教えもらったしな」


なぁ?と同意を求められたが、コルトは特に何も教えてもらってないのでここで同意を求められても困ってしまう。


「そういえばハウリルさん、教会の人達を探してるって聞きましたけど」

「それについては良い報告は出来ませんが、生き残りは必ずいるはずです」

「なんでだ?」

「何人か知ってる顔の死体が見つかっていないので」

「溶かされてる可能性はないのか?」

「無くはないですが、それにしては溶解液の痕跡が見つかっていません」


死体が無く、消える可能性も無いのであれば生きてるだろうというのがハウリルの予想だった。

それを聞いてコルトは少し希望がみえたが、それは同時に問題でもある。

主にこの場にいるラグゼルの軍人の存在だ。

いることが分かれば彼らは必ず殺しに来るとハウリルは断言した。


「この状況ではどう見ても占領しているように見えますし、2年前の敵討ちにもなります」

「話聞くようには思えないしな」

「はい。なので現在アシュバートさん達が広範囲に渡って偵察部隊を出しつつ、すでに撤退準備を進めています。住民をここに送り届けた以上長居する理由はありませんからね」


なので、わたしたちも早々にここを立つ予定ですよとハウリルが言ったが、コルトは気になることがいくつかあった。

まずは送り届けた住民のこれからの生活についてである。

基盤が全て破壊されてしまった以上、ここで生活するにはあまりにも心もとない。

そして2つ目がクレーターに残された亜人の根である。


「友好的ではない相手に対してこれ以上何かをするつもりはないそうです、要するに知らん勝手にしろということでしょう。アンリさんには分かりますよね」


とアンリにふると、あーという顔をしてアンリがそうだなと実感の籠もった顔で同意した。

壁の住人であるというだけで助けてもらったにも関わらず、ここ数日のアウレポトラの住人の態度が酷いらしい。

さらにここでも住民間での仲間割れが発生しており、これ以上はこちらが疲弊してしまう。

あれはもう色々と酷いとアンリが腕を組んでうんうんと頷いている。

一体何があったのか。

それにリキュリール達やクーゼル、アーク商会との取引が成立している以上、早々にそちらに着手したいという事情もあった。


「2つ目の王の根についてですが、このまま放置するようです。すでに本体と根もいくらか採取していたので、彼ら的にはもう用が無いのでしょう。頑丈な建材に使えそうと言っていたので、そのうちアウレポトラの住民が使うんじゃないですか?」

「そういやいつの間にか消えた大量の雑魚はどうしたんだ?私はずっとルーカスを見てたから何してたのかあんま知らないんだよ」

「そちらもいくつかは回収して、あとはまとめて燃やしていましたね。教会も機能していませんし、魔物と言えど死体をいつまでも放置するのを彼らが嫌がったので」

「……なんか僕が来るまでに色々片付いていたんですね」


やることがなくて寂しいと思ったが、ハウリルはぐだぐだせずに仕事が早くて助かるとニコニコしている。

ハウリルも大人として働く側なのでそう思うのだろうが、まだギリギリ子供の区分であるコルトとしてはいらない子と言われているようで、ちょっと悲しかった。


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