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神がおちた世界  作者: 兎飼なおと
第3章
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第63話

上半身が弾けとんでもルーカスは攻撃の手を止めなかった。

これだけやってもまだ生きてるんじゃないかという恐怖が全身を支配し、燃える剣で残った下半身を何度も何度も斬りつけた。


「ルイ、もういい。多分もう死んでる」


そう肩に手を置かれ、後ろに引かれるまでそれは続いた。

一瞬邪魔をするなと攻撃性をそのまま後ろに向けかけたが、見慣れた人の顔が目に入り、急速に頭が冷えた。

頭部だけ鎧を脱いだらしい。

冷えた頭で亜人を見ると、確かに生命活動を停止しているらしく魔力もその場で停滞するどころか、徐々に霧散しているようだ。

だが、亜人を殺したところでやるべき事は残っている。

雑魚の魔物がまだ残っているはずだ。


「おい、どこに行く」

「雑魚だ、雑魚が残ってる」


肩に置かれた手から逃れ体を引きずるようにして進むが、再度肩を掴まれた。


「落ち着け、必要ない」


そう言って指さされたほうを見ると、火柱のように雷光が何本も地から迸っていた。


「上級なんていうからどんなもんかと思ったが、凄まじいな。共族でもあそこまで出来んのか」


大地に轟くそれを見て終わったと思ったのだと実感した。

瞬間、どっと疲れを実感しその場に崩れ落ちた。


「おいっ、大丈夫か!?」

「……終わった…」

「あぁ終わった、終わったぞ。だから休もう、な?」


一応こちらの意見を聞いている風だが行動のほうは有無を言わさずと言った感じで、ルーカスはその背に背負われた。

正直金属の鎧は硬すぎて居心地が良くないのだが、現在の自分の体も硬質化した鱗に覆われているので痛くはなかった。

代わりに金属と鱗が擦れてうるさい。

うるさいのだが…、いい加減限界だ。

ルーカスはいい感じに揺られる背中で、意識を落とした。






ルーカスが次に目覚めた時、目の前にアンリがいた。


「おっ、起きたか。大丈夫か?なんか食べるか?大したものはないんだけどな」


問いかけに特に返事をせず、辺りの様子を伺うと崩壊した壁の一角の陰になっているところに寝かせられているらしかった。

辺りでは慌ただしい声が響いている。

体を起こそうとしたが全く力が入らない、さらに背中と尻に異物感がある。


──そういや体まだ戻してねぇな。


だが戻す魔力も無ければ気力も無かった、何よりめんどくさかった。


「どのくらい寝てた?」

「8時間くらいだな。私らもさっき着いたところでさ、お前がぶっ倒れてるから見ててくれって言われたんだよ。それまではハウリルと鎧のやつらが交代でお前をみてたらしい」


アンリはそれから街中で生存者の捜索が行われている事や、倒した亜人の死体や魔物の死体の調査などが行われている事を口にした。

アンリも出来ればそちらが良かったが、さすがにこの状態のルーカスを放ってはおけなかった。

ほぼアンリが一方的に喋っている状態だったが、話し声を聞いたラグゼルの軍人がルーカスが起きたのを察したのか、飲み物を手に様子を見に来た。

それをアンリが受け取り飲むか?と聞いてきたが、生憎全身指の先まで動かせない。

すると仕方ないなとアンリが体を起こしてくれた。

そのとき体に掛かっていた布がずり落ち、何も着ていない体が顕になる。

それを見てアンリが首を傾げ、止まった。

停止することたっぷり10秒。


「人間から大分離れたとは思ったんだけど、なんか体型違くないか?」

「…竜化したからな」

「それはそうなんだろうけどさ。もっとこう、なんというか……そういや声もなんか違うか?」


そこで察しがついた。

そういえば女体化していた。


「ちんこ邪魔だろ?」

「直球だなお前、ていうかやっぱ邪魔なんだな」


ほら飲めとアンリがコップを口につけてきた。

些か乱暴だがアンリにそんな事を期待するのが無駄だろうと思う。


「服はどうしたんだよ」

「溶けた」

「はぁ!?溶けっ…おまっ、まさか溶解液被ったのか!?」


素っ頓狂な声を上げるアンリ。

あまり大声を上げて欲しくない、頭に響く。

それはそれとして、後半はほぼ格闘戦だったので女体化したのは正解だった。

あの状況で股間でプラプラしてたら集中出来ない。


「亜人が巨大化してるなんて思うかよ」

「巨大化!?」

「うるせぇ、大声だすな」

「あぁ、悪い」


反省したアンリは黙々とルーカスの口に水を運ぶ。

そして気付いたときには再びルーカスは深い眠りについていた。

アンリは初めて見るルーカスの寝顔をマジマジと見ながら、再びその体を横たえさせた。






ハウリルはわざわざ祭服に着替え、ラグゼルの鎧の軍人と共にアウレポトラの救助活動に従事していた。

ほとほと疲れ切っていたがアウレポトラの住人は鎧の軍人が何者であることを知らない。

なので落ち着かせるために祭服のハウリルも共にすることになったのだ。

この状況で生存者などいるとは思えないが、彼らの持つ魔力探知機が生存者の反応を示していた。

うっかり生き埋めにされた魔物の可能性もあるが、生命反応があるなら調べてみるに越したことはない。

さらにアンリが来たことでルーカスを任せられるため、ハウリルが拒否する理由もなくなった。


──正直わたしは割とどうでも良いのですが、普通なら助けるでしょうしね。


まずは生命反応があるところからという事で、瓦礫の中を崩さないように慎重に移動しながら進む。

反応付近で呼びかけたり、静かに音を探ったりし、周りが連鎖的に倒壊しないように風魔術で補助しながら瓦礫を掘り進んでいく。

すると、上手いこと瓦礫の隙間に収まっていたり、地下に逃げてそのまま出られなくなっていたりと思ったよりも生存者が多かった。

中には本当にうっかりした魔物が出たりもしたが、それは速やかに排除する。

生存者は恐慌状態でさらに見慣れない画一的な鎧の集団に叫び声を上げたりしたが、祭服を着たハウリルがなんとか場を収めたりなんだりと、すっかり夜になる頃にはなんだかんだで20人くらいの生存者が見つかった。

皆外に出たときの辺りの様変わりした様子や、自分たちを助けたものが何なのかで外に出てからも大騒ぎだったが、丁重に扱われ温かい飲み物が提供されると大分落ち着いたようだった。

そして現在、ハウリルは朝から一緒に行動した軍人と焚き火を囲んで軽食を摘んでいた。


「武器を作る鍛冶場があったはずですが、火事が起こらなかったのは幸いでしたね。それと王発生から討伐までの時間が早かったこともよかったです」

「ルイ様々だな」

「そうですね、そればかりはルーカスがいて良かったと言えるでしょう。実際アウレポトラ近郊が壊滅したのみで他に被害はありません」

「……その被害がデカすぎるのがアレなんだが。…大分無茶したみたいだからなー、一回起きて以降目覚める気配がないらしい」

「それはそれでわたしどもには困った事態なんですよね」

「山越えがルイありきだからな。あの様子じゃ一度国内で療養させたほうが良いだろうしな。どっちみちこんなところにあの姿の魔人を置いておくわけにもいかないし」


現在ルーカスの姿は以前見た素の魔族の姿からさらに異形へと変貌している。

あれではこちらの人間に見られたら間違いなく問題になることは明白だ。

今も生存者に見つからないように天幕を張り、その周りを囲うようにラグゼルの軍人が臨時の拠点を構築して誰も近づかないように見張っている状況である。

そんなわけで今後の活動に支障が出るわけだが。


「先のことについては後ほど相談をしたいです」

「もちろんだ。ただ総長があっちの拠点の人員を拾って、こっちに向かってるらしい。到着がその明後日予定だからそれまで待ってほしいんだ。それまでは好きに過ごしてくれて構わない、もう生命反応もないしな……」

「……分かりました。ですがわたしも引き続き何か働きましょう。この状況で遊んでいるのはさすがにどうかと思いますので」

「…悪いな」


そこで会話が途切れたので食事に集中していると、アンリが両手に色々抱えてやってきた。


「おやっ、もういいのですか?」


アンリが一瞬なんのことだという顔をしたが、すぐに察したらしい。


「作業が終わって十分人がいるから休憩してこいってさ」


そしてアンリはハウリル達の前に座ると、両手に持っていたものを軍人に手渡した。

そしてドサドサと渡されたそれをおっとっとと言いながら地面に並べている。


「食べていいって渡されたんだけど、どうすんだこれ?」

「おっ、缶詰じゃないか。随分たくさんもらってきたな」


アンリが渡されたものは大量の缶詰だ。

それと一緒になにかよく分からない器具を渡されたのが、初めてみたそれにさっぱりだった。

初めてじゃ分かんないよなと受け取った軍人は、缶を1つ取ると器具を縁に引っ掛けてコキコキと音をさせながら開け始めた。

そして中から出てきたスープに思わずおぉっと声を上げた。


「最近はこんなもんが無くても開けられるものが出てきたんだけどな、まだまだ大量生産出来るところまではいってないんだ」

「へぇ、でもこれ持ち運びに便利だよな、形一緒だし」

「そうなんだよ。形が一緒だから大量に運べるのが良い、小分けにして各自に持たせてもいいしな」


そして手際よく他も開け始めると、アンリが思い出したかのように抗議の声を上げた。

曰く、2番隊についていった時に食事が現地調達だったという事だが、ゴミ処理問題があるから持っていかなかったんだろ、と適当にあしらわれている。

そしていくつか開けたそれを、焚き火にあてて温め始めた。

納得いかない顔のアンリだが、これ以上は何もないと思ったのか、同じ用に自分の分を焚き火で温め始める。

次第に良い匂いが立ち込め始めた。

その魅惑の匂いに作業を終えた他の軍人達もフラフラと引き寄せられてくる。


「おっ、いいもん食ってんじゃん」


そう言って缶を1つとりあげたのはオーティスだ。

それを隣にいたクーゼルに手渡している。

クーゼルは亜人死亡後に統率がなくなった魔物を、上級討伐員の名に恥じない動きで一人で瞬く間に殲滅したあと、救助作業には参加せずオーティスや後続隊とともに亜人の死体回収や現場の検証を行っていた。


「お疲れさまです。作業は終わったんですか?」

「いやっ、あの根の檻に手こずってる。かってーのなんの、俺よくあの中から出られたわ」


隣でクーゼルも王の根については聞いた事が無いと頷いている。


「以前は近づくものには溶解液を使っていたって記録があるんだが、今回その痕跡がない。さらに巨大化してたんだろ?同じ系統の王のでも、個体によって能力に大きな差があるならかなり厄介だ」

「それは俺らだって一人ひとり戦い方が違うし、そういうもんなんじゃないか?」

「……魔物は基本的に少しの差はあれど、大体どの個体も同じような能力を持ってる。だからあくまで魔物から生まれる王だって能力に差がなくてもおかしくないだろ」

「つっても、実際溶解液のほうは痕跡が無いし、巨大化のほうも前回たまたま使わなかった可能性もあるだろ?」


と、少し荒れ始めた時だった。


「溶解液は使ってたって言ってたぞ、被った本人が」


アンリが2つ目の缶詰を開けようと悪戦苦闘しながら口を挟んだ。


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